103 ぬりかべ令嬢、事実を知る。
ハルが指輪の事を「皇環」って言ったけど、一体何のことだろう……?
名称からして普通のものじゃ無いような気がするんだけれど。曰く付きかな?
マリカがハルの事をジロリと見ていて、ハルもあれ?って顔をしている。
「……えーっと。何だか私だけ知らない事が有るようなんだけど……。そもそも『皇環』って何なの?」
私の質問に、ハルは凄く悩んでいるようだけど、意を決した顔をして私を見た。
「俺、ミアに言うのをすっかり忘れてしまっていたんだけど……俺の本名はレオンハルト・ティセリウス・エルネスト・バルドゥルって言うんだ」
そう言えばハルとばかり呼んでいたけれど……。ハルの名前はレオンハルトって言うんだ。うん、名前も格好いい!! それにしても随分長い名前だなあ。バルドゥルってどこかで聞いた地名だし。帝国でそんな地名……帝国…………。
「…………………………えぇ!!!???」
え? ちょっと待って? 名前に国名? え?? それってやっぱり……!
「帝国の……皇子様……なの……?」
「ミア……」
私の質問に、ハルは少し寂しそうな顔をして頷いた。
「………………そう、なのね……」
「この『皇環』は、皇位継承者の証なんだ」
「………………………………」
ハルは帝国の皇子様だったんだ……てっきり貴族か商人の息子さんだと思ってたよ……。
そう言えば帝国ってどんな国だったっけ……? ああ、こんな事ならもっと早いうちに勉強しておくんだった! 商会の仕事に慣れてからと思っていたのが駄目だったのかな……。やはり思い立ったらすぐ行動に移すべきだったのね。今からでも間に合うかなあ。でも、ハルと一緒に居るためにはどうすればいいんだろう? 私的には将来ハルと結婚……とか、出来たら良いなあって思っていたけれど。王国ならともかく帝国の皇子様となんて、どう考えても身分が釣り合わないし……。
「……ミア。俺、ミアが嫌なら皇族籍なんていつでも捨てるから!!」
「……ハル。私、宮殿の侍女として雇ってもらえないかな……?」
「「……あれ?」」
私の声とハルの声が被っちゃって、一瞬ハルが何を言っているのか分からなかった。それはハルも同じだったようで、二人してキョトンと見つめ合う。
「……ミアは、ハルが皇族だったら嫌?」
話が進まない私達を見兼ねたのか、マリカが話をまとめようとしてくれる。
「ううん。ハルはハルだし、身分がどうとかはそんなに……。ただ、あまりにも高貴な身分だから、傍にいる為には宮殿で働くのが一番かなぁって」
私がそう言うと、もの凄く心配そうだったハルの表情がホッと緩んだ。
「……良かった……。ミアが黙り込んだから、てっきり俺にドン引きしたのかと思った」
「え! 違うよ! そりゃ、確かに驚いたけど……。私、帝国の事よく知らなくて。帝国に行っても大丈夫かなあって」
「ミア……! 帝国に来てくれるのか!?」
「うん、初めからそのつもり──「ミアっ!!」わっ!」
私の言葉は言い切る前にハルの嬉しそうな声に掻き消されてしまい、感極まったらしいハルにまたもやぎゅっと抱きしめられる。
「あわわ! ハ、ハルっ!!」
「ああ、良かった……ホントに良かった……。ミアがここから離れるのを嫌がったらどうしようと思っていたんだ……!」
そっかー。だから皇族の籍を抜くなんて言ってたんだ……。私はハルと一緒に居られたら、どっちでもいいのにな。
「私がランベルト商会で働く事にしたのも、ハルを探しに帝国へ行くためだったんだよ?」
ハルの顔を見上げてそう言うと、ハルが「うっ」と言って目頭を押さえて、ぷるぷる震えている。
「……ミア、それぐらいにしてあげて。これ以上はオーバーキルや」
またもやマリカからツッコミ入れられました。
「それはそうと、ハル……この指輪、どう思う?」
マリカが指輪を持ち主であるハルに手渡した。ハルは指輪を色んな角度から見ている。……何だろう、何かあったのかな……?
──まさか! いつの間にか偽物と入れ替わっていた……とか!?
うわー。もしそうだったらどうしよう……。ずっと肌身離さず持っていたはずなのにな……。私、一度寝ちゃうと朝までぐっすりだから……。決まった時間には起きられるけど、夜中に目を覚ますことなんて殆ど無いし。もしかしてその間にすり替えられたのかも……!? 可能性としてはそれしか無いよね! でも一体誰が、何のために──!?
「……ミア、また何か変な事考えてない?」
ハルに顔を覗き込まれてハッとする。……!! か、顔……!! 近い……!! でも格好いい!!
「え、な、何も……? それより、何か問題が有るの? もしかして偽物……とか……?」
私が恐る恐る聞くと、ハルが「ミアは相変わらずだなあ」と言って笑顔になる。
きっと、七年前に私がやってしまった勘違いの事を言っているのだろう。
「この指輪は間違いなく本物の『皇環』だよ。今まで守ってくれて有難うな」
ハルが労うように、私の頭をよしよしと優しく撫でてくれる。あわわ!
……どうしよう。これ癖になっちゃう……!
私がハルのゴッドハンドにうっとりしていると、マリカが真剣な顔で呟いた。
「……月輝石に戻っている……」
マリカの声を聞いたハルが、不思議そうにマリカに問いかける。
「どういう事だ? それは前から月輝石だっただろう?」
──月輝石!? それって、すっごく希少な石だよね……? そんな高価なものを預かってたの!?
「それは──……」
マリカがハルに指輪の事を説明しているのを聞いて驚いた。
私がずっと指輪を持っていて、時々祈りながら魔力を込めていたものだから、月輝石が天輝石に変化していたらしい。
「ディルクがブレスレットを送ってくれた時も驚いたけど……『皇環』まで天輝石になっていたとは……!」
……天輝石……? もしかしてお伽噺に出てくる幻の石……?
「えっ!! 私、ハルの指輪を変えてしまったの!?」
預かっていたものを無意識とは言え、勝手に変えていたなんて……!
どうしよう、皇位継承権が無くなってしまうのかな……?? あれ? でも月輝石に戻ってるってマリカは言っていたし……? 結局大丈夫なの? んー?
「ミア、性質が変わっても問題ないよ。むしろ箔が付くぐらいだから、心配すんな。それに今は元通りなんだしさ」
「ミアが目覚める前に見た夢が示す通り、天輝石の力でミアは完治する事が出来たんだと思う」
……そうなんだ。天輝石のおかげで私の身体は治ったんだ……。
「それで『皇環』なんだけど、俺このままミアに持っていて欲しいんだ」
「えっ!」
私はハルの申し出に驚いた。皇位継承権の証なのに、私が持っていていいの?
「ハルはこの『皇環』が無いと皇帝になれないんでしょう? もし私が失くしちゃったらどうするの?」
今までずっと持っていられたのは、ある意味お屋敷に引きこもっていたからで。これから行動範囲が広まれば、それだけ失くす可能性が高そうなんだけど……。
「うーん、でも俺はミアに持っていて欲しいんだ。ミアと一緒に居る限り『皇環』は俺が持っているのと同じだろ? もし失くしたのなら、それは俺が皇帝になる資格が無かったって事だ」
「そ、それはそう……なるのかな? でも……私が失くした事でハルが皇帝になれなかったら、どうすれば……」
これって凄く責任重大だよね。もし失くしちゃったら帝国中の人に追われて身を隠しながら生きていかないといけなくなっちゃう。私、山の中で生活出来るかな。取り敢えず食べられる植物とかキノコを調べておいた方がいいよね。毒にあたって死ぬなんて嫌だし。食べ物はそれでいいとして、住む処はどうしよう。木を伐採して家を建てるなんてとても無理だし、良さげな洞窟が有ればなあ。そう言えば山で生活しているとそのうちヤマンバになるんだっけ? 昔読んでもらったお伽噺にそんな魔物がいたような。ヤマンバ……名前が何だか嫌だなあ……。
「……ミア、また変なこと考えてるだろ?」
──はっ!! いけない、いけない。つい思考があらぬ方向にいちゃう。
「へ、変なことは考えてないよ! 責任重大だなあって! でも、ハルがそう言うなら、私ヤマンバになるよ!」
「え? え?? 何? ヤマンバ……?」
「……ミア、飛躍しすぎ。それではハルに伝わらない」
私の慌てっぷりを見かねたマリカがフォローしてくれた。でもマリカもヤマンバ知っていたのね。ぬりかべも知ってたし、さすがマリカ!
「じゃあ、『皇環』は私が持っておくとして、また天輝石になったらどうしよう」
また伝説の奇跡の石にしちゃったら色々まずいよね、と思っていたら、「それは多分大丈夫」とハルが教えてくれた。
「ミアの身体も魔力神経も治ったけど、魔力はまだ完全じゃないんだよな」
「そう。基本の四属性はあるけれど、聖属性がまだ戻っていない」
え!? そうなの? 今の私、聖属性の魔法が使えないの!?
「これからゆっくり戻るのか、何かのきっかけがあれば戻るのか……しばらくは様子見だな」
「今は生まれたての赤子のような状態。だから魔力濃度も薄い」
がーん!! 今の私の魔力は赤ちゃんレベル……!? これが一番ショックかも。
* * * あとがき * * *
お読みいただきありがとうございます。
何だかミアが残念な子になってますが……
ちょっと想像力が豊かなだけなんです!( ー`дー´)キリッ
次回の更新は近況ノートかTwitterでお知らせします。
どうぞよろしくお願いいたします。
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