94 断罪3(ハル視点)

※ご注意※

裁判のシーンがしばらく続きます。(全8話)所々おかしな箇所があるかと思いますが、その辺りはファンタジー世界の裁判という事で大目に見て下さい。裁判の雰囲気が伝われば嬉しいです。




* * * * * *



 マリカが作った集音の魔道具が起動し、保存されていた声が大広間中に響き渡る。


『……アードラー伯爵が、貴方に禁呪が書かれた魔導書を?』


『そうだよ。伯爵が知り合いから譲り受けたんだって。ねぇ、マリカ。僕を選んでよ! 絶対大切にするよ!』


 この会話で少なくともヴァシレフが禁呪と関わりがある事が証明された。


『……! ちょっ、ちょっと待ってください伯爵!! マリカを綺麗な状態で渡してもらう条件で僕は呪術刻印を再現したんです!! それでは約束が違います!!』


『まあまあ、エフィムさん落ち着いて。もちろん彼女の初めてはお譲りしますよ。エフィムさんが満足した後にちょっとだけ私にも貸してくれるなら、ですけどねぇ』


 そしてヴァシレフが誘拐、人身売買を行っていると言う事実も。


『だからね、ミアさんには私のために頑張ってもらいますからね!! 負傷した痛みもすぐ快感に変換してあげますから!! 大丈夫大丈夫!! 昨日の女たちも初めは全員泣いて嫌がってましたけどね、最後には私を欲しがって大変でしたよ! いやあ、参った参った!』


『……その女性たちはどうしたの? 貴方を待っているんじゃないの?』


『ああ、さすがに一日中相手は出来ませんからねぇ。今は私の『友人達』に貸しているんですよ。お互い持ちつ持たれつでしてなぁ!』


『ミアさんにもそのうち紹介してあげますからね! なあに、そう怖がらなくても皆さん紳士ですから! 家筋も良い人間ばかりですよ!』


 ……裁判前に一通り聞いていたとは言え、何度聞いても殺意が湧いてくる。が、ここは我慢我慢。


 魔道具から流れる声に、大広間中の人間が凍りついている。何だか皆んな真っ青な顔してガタガタ震えているようだ。そりゃ内容が酷いからなあ。

 ふと横を見ると国王までが小刻みに震えている。怒りを通り越してしまったのだろうか。


 すると俺の後ろに控えていたマリウスが小声で囁いてきた。


『殿下、威圧威圧!』


 ……どうやら俺は無意識に威圧を放っていたらしい。あれぇ?


 あーやべ。もうちょっとで国王気絶させるところだったわー。


 ……まあ、とにかく! 今のでここの貴族達の関与が証明されたな。

 国王も今度は怒りでプルプル震えている。当然貴族達もだ。


「栄えある元老院の貴族が何という事を……!!」


「よくもまあ冤罪だと言えたもんだな!! 恥を知れ!!」


「貴族の面汚しめ!! こいつら全員縛り首だ!!」


「こんな人間の屑共が偉そうに……!! 火炙りにしてしまえ!!」


 今まで散々平民たちを冷遇していたのだろう、かなり恨みを買っているらしく、極刑にしろという声が大多数だ。


「……この証拠の音を聞いてもまだ無罪を主張する者は?」


 国王の言葉に初めは威勢が良かった貴族達も余りのことに衝撃を受けている。頭を垂れたままで動かない者、泣き崩れる者……。中には床に頭をこすりつけて許しを請う者もいるが、そんなモンで許されるわけねーだろ。

 まさかこんな魔道具が存在し、自分たちの悪事がバレるとは露程も思わなかったのだろう。ホント、愚かだよな。

 そしてヴァシレフの方は「うー」とか「あー」とか何とか言っているけど、もうこの件に関しては反論する気力は無さそうだ。……って言うか、反論すればするだけ不利になるからな。


「……ならば、これにて閉廷する。追って沙汰があるまで待て。ウォード侯爵夫人の公判についてはこの後に改めて審理を行う」


 そうしてヴァシレフの協力者達は衛兵に引き摺るように連れて行かれ、マリカも退場して行った。自分も連れて行かれると思っていたのだろう、ヴァシレフはそのまま置いてけぼりを食らったと思ったのか、キョロキョロしている。


 お前にはまだまだ活躍して貰わないといけないからな。そこで待っとけ。


 ──まずは一つ目の裁判が終わったが、断罪はまだまだ終わらない。


 偽伯爵──ヴァシレフと貴族達の裁判が終わった後は、ウォード侯爵夫人の公判だ。本来なら一旦休憩を挟むのだが、とっとと終わらせたかったので早々に開廷する。


 先ほどど同じ様に国王が本人確認を行った後、法官が罪状を読み上げるのだが、今回はその法官が変更されている。


 その法官──テレンス・ウォード・アールグレーンの姿を見た貴族達が驚きの声をあげる。


「何と……! ウォード侯爵が法官を務めるのか!」


「随分と久しぶりに姿を見ましたな」


「まあ! テレンス様のお姿を拝見出来るなんて……!」


「相変わらず若々しくてお美しいわ」


「彼が治める領地は著しく発展していると聞く。ああ見えてかなりやり手なのだろうな」


 ……しばらく社交界から離れていたと聞いていたが、そんな年月など感じさせない程ウォード侯爵は貴族中から一目置かれているらしい。


 しかし今回のこの状況……夫が妻の公判で法官を務めるなど、本来なら有り得ないのだが、ウォード侯爵が国王に掛け合って、今回特別に実現したらしい。

 ……ホント、この国大丈夫?

 ウォード侯爵は国王と旧友らしいし、国王の若かりし日の過ちとか知ってそうだもんな。何か弱みでも握っているんだろう、きっと。


 そんな国王が開廷の言葉を告げる。


「では,これより審理を開始する。ウォード侯爵夫人は前へ」


 まさかの夫の登場に、驚きで固まっているビッチ母。娘のビッチはこの状況でまだ俺をガン見している。……サイコパスかな?


 ちなみにヴァシレフは証言台の横に放置されている。初めのような強気の態度はすっかり鳴りを潜め、今は貴族達からの突き刺さるような視線に縮こまっている。


 ウォード侯爵夫人が証言台に立つと、ウォード侯爵が罪状を読み上げる……って、凄い構図だな。前代未聞じゃね?


「被告人、ジュディには王家への虚偽の申告二回と公文書偽造、使用人への暴行、未成年であるウォード侯爵家長女ユーフェミアへの虐待、前侯爵夫人への<呪薬>の使用の嫌疑がかけられています。虚偽申告一回と公文書偽造は前公判で審理する予定だったものです」


 まさかの罪状に貴族達から驚きの声があがる。


「な、何!? <呪薬>!?」


「え……!? ジュディ様がツェツィーリア様を?」


「ツェツィーリア様はご病気ではなかったの?」


「それ以外にも、使用人への暴行やユーフェミア嬢に虐待とは……!!」


「まあ、なんて恐ろしい……でもあの方が本当にジュディ様?」


「本当に……随分と様変わりされてしまわれて……」


 初めは罪状に驚いていた貴族達だったが、ご夫人達はビッチ母の変わり果てた姿に興味が移ったようで、ヒソヒソと話している。

 しかしその声はビッチ母には聞こえているらしく、夫人たちを睨みつけている。


「うむ。被告人ジュディよ、法官が言う罪状に違うところはあるか?」


「……わ、私は……!」


 国王からの質問に言い淀むビッチ母。どう答えるのが一番良いのか考えてるんだろうな。


「ジュディ、まずは公文書偽造からお聞きします。貴女はアードラー伯爵とユーフェミア・ウォード・アールグレーンの婚姻届を偽造しましたか?」


「ぎ、偽造……? 私はユーフェミアの代わりにサインしただけ……って、あっ!」


 ……え? もうちょっと粘るかと思ったのにえらいアッサリと……。もしかしてビッチ母って予想以上に馬鹿なんじゃ……。


「では、貴女はユーフェミアのサインの偽造を認めますね?」


「……っ! ………………はい」


 自分から言っちゃったもんなー。認めるしか無いよなー。私印等偽造罪っと。


「では次。貴女は王家への虚偽申告を二回行っていますね? まず一つ目、『銀髪、紫眼の「ミア」と名乗る十五歳前後の少女に心当たりがある者は王宮へ報告されたし』この要請に『該当者なし』と返答したのは何故ですか?」


「……ユーフェミアの事だと思わなくてっ……だからっ……!」


「父親である私が『ミア』と呼んでいるのを知っているのに?」


「ぐっ……!」


 ──ああ、なるほど。またこりゃ異例の措置だなと思っていたが、ビッチ母の件に関してはウォード侯爵──ミアの父親が法官を努めた方が審理がスムーズに進むのか。


「この件はもう一つの余罪である『未成年への虐待』と関わりがあるので、虚偽申告したのではないかと思われます。これは被告人ジュディが侯爵家令嬢であるユーフェミアが本来受ける筈だった教育を受けさせず、使用人の如く働かせていたというものです」


「……うむ。ジュディよ、ユーフェミア嬢への虐待の事実を認めるか?」


「私は虐待などしておりませんわ! 私はユーフェミアを教育していたのです! あの娘のために私は……!」


「もしそうなのだとしたら、グリンダの教育と違うのは何故でしょう? グリンダには淑女教育を施していましたよね? ……あまり意味は無かった様ですが」


「……っ! な、お義父さまっ!?」


 ……うわぁ。すっげー直球だな。でも、まあ確かにその通りだな、と思う。でも義父親から「無能」判定を受けたビッチは流石にショックだったのか目に涙を浮かべている。


「ああ、そうだグリンダ。君に帝国のマリウス・ハルツハイム殿から贈り物があるそうだよ」


「えっ!? マリウス様が……!?」


 悲しそうな顔から一転、ビッチが今度は頬を染めて嬉しそうにクネクネしながらマリウスに熱い視線を送っている。


 いやいやいや! お前さっきまで泣きそうだったじゃねーか! お前のメンタルどーなってんだよ!! 何か得体の知れないものを見ている気分だわ!!


 そんなビッチの視線の先である俺の後ろから、「チッ」と舌打ちが聞こえてきた。

 マリウスのあからさまに嫌そうな態度に、思わず笑いを堪えるために口を手で押さえる。


「ハルツハイム殿、どうぞよろしくお願いいたします」


 ウォード侯爵がニコリと微笑んでマリウスを促す。

 マリウスは周りにバレないように溜息をつきながらビッチの元へ降りて行った。めっちゃ嫌そう。


「グリンダ嬢、お約束の品をお持ちしました。こちらの品で間違いないでしょうか?」


 そう言って箱を差し出したマリウスから、ビッチは箱を受け取ると、それはもう嬉しそうに中の物を取り出した。



* * * あとがき * * *


お読みいただき有難うございます。


しばらく続きますがお付き合い下さいませ。


どうぞよろしくお願いいたします!

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