93 断罪2(ハル視点)
※ご注意※
裁判のシーンがしばらく続きます。(全8話)
所々おかしな箇所があるかと思いますが、その辺りはファンタジー世界の裁判という事で大目に見て下さい。裁判の雰囲気が伝われば嬉しいです。
* * * * * *
立たせることが難しいので、やむなく証言台に座らされた偽伯爵だったが、コイツもやっぱり罪を認めず、無罪を主張。どんだけー。
「人身売買などとんでもない! 公文書偽造だって、私は自分のサインをしただけですからな! ユーフェミアのサインが偽物とは知らされておりませんでしたよ! それに私の妻だった者たちはそれぞれが病や不慮の事故で亡くなったのです! 私が愛した者たちを殺めるわけが無い!」
「それに誘拐? 禁呪? その件にも私は全く関与しておりません! それらは魔導国研究員のエフィムという者が勝手にやったことでしてな! 私もびっくりしましたよ!」
……うわー。ここまでナチュラルに嘘を吐けるとは……。
前回心を折ったつもりだったけど、牢屋の中にいる間に復活して開き直ってしまったらしい。俺もまだまだ甘かったようだ。反省点追加だな。もっと完膚なきまでバッキバキに粉砕すればよかった。
「しかし、アードラー伯爵の屋敷で少女二人が保護されております。それは何故ですか?」
法官の質問に偽伯爵は鼻で笑うと、やれやれと頭を振った。
「以前、知り合いからエフィムくんは非常に優秀な研究員なのだと紹介されましてね! 私自身彼が気に入ったものですから、私の屋敷の一室を彼に貸し出していたのですよ! 研究のために役立つなら、と。それなのに、まさか禁呪を研究していたとは……! 更に少女を誘拐して監禁でしょう? 本当に驚きましたね! 全く……彼には失望しましたよ!!」
……コイツ、全ての罪をエフィムに被せるつもりだな。
エフィムが悪いと主張する偽伯爵に、法官が調書を見ながら質問する。
「……ええっと、それでは伯爵が少女の一人を連れ去ろうとしたという目撃情報がありますが、それは?」
法官の質問に偽伯爵は偉そうな態度で答える。
「いきなり屋敷が崩れ落ちてきましてな! 瓦礫の中から何とか這い出してみれば、少女が倒れておったのです! 私は痛む身体にムチを打って少女を安全な場所へ避難させようとしたのです! むしろ助けようとしたのですよ! なのに連れ去るなんて、とんだ侮辱ですな!」
「そもそも、そちらにあらせられる帝国皇太子殿下が、いきなり屋敷に攻撃魔法を放たれたのです! しかも皇太子殿下の勘違いで足を切断されて……! 私は被害者なのです!! 帝国には謝罪と賠償を求めますぞ!!」
偽伯爵の言い分に周りの貴族たちがざわざわと騒ぎ出す。偽伯爵の強気な発言に、もしかしたら冤罪なのではと言う空気が流れ出す。
法官も偽伯爵の証言に困惑している様だった。
……うーん。なるべく傍観していたかったけれど仕方が無いか。
「……なるほど。お前には一切の罪は無く、俺の勘違いで多大なる被害を被ったと、お前はそう言いたい訳だな?」
俺が偽伯爵にそう問いかけると、偽伯爵は顔を青くさせてブルブル震えだす。
……俺、まだ威圧放って無いんだけどな。
「そ、そうです! わ、私は何も罪を犯してなどおりません!! 全ては──!!」
「ならば証人を。彼女に証言して貰おう」
聞くに堪えない偽伯爵の言葉をぶった切る。
そして俺が目配せをすると、国王が頷いて高らかに声をあげた。
「では、これより被害者及び目撃者の証人尋問を開始する。証人は前へ」
国王がそう告げると、玉座近くの扉から白い髪の少女が姿を現した。言わずもがな、マリカだ。
マリカが姿を表すと、再び大広間にどよめきが起こる。
……まあ、マリカは珍しいアルビノだし、綺麗な顔をしているから注目されるだろうな、とは予想していたが……。
ディルクの言う通り、ギリギリまで控えさせといて良かった。何人かの貴族がマリカを見て目を光らせている。こりゃ狙われてるな。色んな意味で。
「証人のマリカよ、質問には記憶の通り正直に答えよ。嘘を述べると偽証罪に問われるので、注意するように」
国王の後に法官がマリカに問いかける。
「では、質問します。貴女はアードラー伯爵に誘拐され、怪我を負わされたという事ですが、覚えている事を話して下さい」
それからマリカは研究中に「穢れを纏う闇」に襲われ気を失った事、気が付いた時には伯爵の屋敷に運び込まれていた事、そこで伯爵が自分を魔導国へ引き渡すと言っていた事、エフィムに禁呪の再現を依頼した事などを、法官の質問を交えながら一つ一つ答えていく。
その堂々とした、凛とした姿に傍聴している貴族たちから感心した空気が流れる。
「う、嘘だ!! 私はその様な事をしていない!! この娘はエフィムを庇って私を陥れようとしているのだ!!」
偽伯爵がマリカの証言を真っ向から否定する。その言い訳がエフィムを庇ってって……流石に無理があんだろ。
「……何故、証人が被告人であるエフィムを庇う必要があるのだ?」
裁判長である国王も呆れ気味だ。同じ様に周りからも「何言ってんだコイツ」と言う雰囲気がしてくる。
「そ、それは! アレです! そのマリカはエフィムと楽しげに禁呪の事で話し合っていたと聞いています! その時にエフィムと親密になったのです! マリカはエフィムと同じ時間を過ごすことで、特別な依存感情を抱くようになったのです!」
偽伯爵の言葉に、マリカがブチギレたのが分かる。
「そもそも、こんな平民が貴族を訴えること自体がおかしいのです!! 貴族である我々より、たかが平民の少女の言葉を信じるのですか!?」
……あーあ。コイツやっちまったな。
偽伯爵の言葉に、大広間が再びざわざわと騒ぎ出す。特に第三身分の人間からは怒りのオーラが立ち上がっている様に見える。
「証人がいかなる身分であろうとも、裁判に於いては関係無いのだが……。お前がそう言うのであれば、俺が証人であるマリカの身分を保証しよう。彼女はバルドゥル帝国筆頭宮廷魔道具師として帝国に迎え入れる事になっている」
ランベルト商会のハンスやディルクとも相談した結果、マリカは俺の庇護下に入る事となった。これでもまだ身分がどうとか言えるもんなら言ってみろ。
俺の言葉に偽伯爵の顔が蒼白になる。
そりゃそうだろう、帝国の筆頭宮廷魔道具師なんて、王国の伯爵より遥かに地位が高いからな。帝国舐めてんじゃねーぞコラ。
「そもそも、お前が身分とか言える立場じゃないだろう? アードラー伯爵……いや、ヴァシレフだったか?」
「────!!」
いきなり俺が偽伯爵の本名を告げたので、偽伯爵──ヴァシレフの顔は驚愕に染まっている。俺が正体を知っているとは思わなかったんだろうな。
「……っ……! な、何をっ……!!」
「お前がアードラー伯爵に成りすましてるのは分かっている、って事だ。お前だって元平民だろう? なのに平民を愚弄するのは如何なものか」
まさかの別人疑惑に衝撃が走ったようだ。俺の言葉にあちこちから疑問の声があがる。
「成り済ましってどういう事だ!? 伯爵位を乗取ったのか!!」
「ヤツはアードラー伯爵じゃない……? じゃあアイツは何者なんだ?」
「え? ヴァシレフ……? どこかで聞いた事があるような?」
「随分昔に聞いた名前のような気がしますな」
「あ! もしかして、法国で起こった……あの事件の……?」
「そうか、法国と獣王国が戦争になりかけた原因か!」
「まあ! どうしてそんな恐ろしい人物が王国に……?」
二十年前に起こった事件は未だ覚えている人間が多かったようで、当時世界中を震撼させた事件の当事者が此処に居るという事で、大広間中が大騒ぎになっている。
「み、皆さん! 静粛に!!」
法官が騒ぎを鎮めようと躍起になっている。お勤めご苦労さまです。
「お前には成りすましの件も含めて、この後別件で裁判するからな」
ヴァシレフは顔色を赤から青、白色とバラエティ豊かに変えているが、そろそろ血管切れんじゃね? って感じで興奮している。
「み、身分の事はさて置きっ!! 証拠はっ!? 証拠はお有りなのですかっ!? 証言だけでこの様な罪状は認められますまいっ!!」
自分の発言を棚に上げやがった。ホント、つくづくゲスい奴だな。
汚く喚くヴァシレフと違い、マリカの淡々とした声が大広間に響く。
「証拠なら有る」
その言葉にあれだけ騒がしかった大広間が静まり返る。
「しょ、証拠だと……!? そ、そんなものが有るわけが……!!」
「黙れ」
俺は往生際悪く喚くヴァシレフに、今度は威圧を込めて言い放った。
俺の言葉に、ヴァシレフはガクガクと震えて縮こまっている。足を切断した時の事でも思い出したのだろうか。
「え、っと、では証人の方、証拠を提示して下さい」
法官の言葉に頷いたマリカがブローチを取り出した。
「これは私が作った集音出来る魔道具。この中に証拠の声が入っている」
マリカの説明に大広間中が驚きに満たされる。特に第三身分である商人たちの反応がすごい。
「集音の魔道具だと……!! それをあの少女が!?」
「彼女が噂の天才魔道具師!? あんなに幼い少女だったとは!!」
「まさか集音の術式を完成させるとは……後五十年は不可能だと言われていたものを」
商人たちが口々にマリカを称賛している。中には集音技術やマリカ自身を欲しがる声も聞こえるが残念だったな! マリカの帝国行きは決定事項だ。マリウスが手ぐすね引いて待ってるしな。
そしてマリカが魔力を流すと、マリカにヴァシレフともう一人──恐らくエフィムだろう、若い男の声が大広間に響き渡った。
* * * あとがき * * *
お読みいただき有難うございます。
しばらく続きますがお付き合い下さいませ。
どうぞよろしくお願いいたします!
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