92 断罪1(ハル視点)
※ご注意※
今回から断罪に入り裁判のシーンがしばらく続きます。今回は導入部分です。
所々おかしな箇所があるかと思いますが、その辺りはファンタジー世界の裁判という事で大目に見て下さい。
裁判の雰囲気が伝われば嬉しいです。
* * * * * *
ミアが意識を失ってから九日が経った。
その間ミアは<神の揺り籠>の中でずっと眠り続け、未だ目を覚まさない。
「……ミア」
俺は時間が許す限りミアの元へ訪れ、その綺麗な顔を見ては、今日もミアが生きている事に安堵する。
「今からミアの仇を取って来てやるからな。待っててくれ」
今日はアードラー一味を裁く為の裁判が執り行われる事になっている。
俺は今日一日で、今までミアに危害を加えた奴ら全員一掃してやるつもりだ。
ミアが目を覚ました時には、ミアの笑顔を曇らせる様な憂い事は綺麗さっぱり無くなっているだろう。
──それが、今俺がミアに出来る精一杯の償いだから。それしか俺には出来ないから。
俺がもっと状況を把握して油断していなければ、ミアに魔力を使わせる事も無かったのにと思うと、力に慢心していた己に腹が立つ。
まだまだ未熟だったのだと思い知らされたけど、同じ失敗は二度と犯さない。今度こそ万全の体制でミアを守るのだ。
俺がそう心に誓いながらミアの寝顔を眺めていると、ドアがノックされ部屋にマリカが入ってきた。
「悪い、邪魔してる。今日はよろしく頼む」
この部屋はミアとマリカの部屋で、マリカはいつもミアの様子を見ていてくれる。独身女性の部屋に勝手に入るのは何かと問題があるけれど、今は非常事態ということでディルクとマリカの許可は取ってある。だから不法侵入では決して無いのだ!
「何時来ても構わない。気にしないで。こちらこそ今日はよろしく」
マリカには偽伯爵の悪事を証明するための証人として出廷して貰う。
法国の尋問官だった伯爵だ、自分に不利な事を喋る訳がないし、中々自分の罪を認めないだろう。
それに伯爵の協力者である貴族連中が多く被告人として出廷するから、今日の法廷はかなり荒れそうだ。
協力者の中には元老院の貴族も数人いたと聞く。その衝撃的な内容に、現在王国の社交界は大騒ぎ状態だ。
マリカはミアの顔をじっと見つめている。その瞳には決意の色が見て取れる。
彼女には彼女なりの想いがあるのだろう。基本無表情なマリカだが、最近は俺も表情を読めるようになってきた。
この九日間、俺もただミアの目覚めを待っていた訳じゃない。ランベルト商会やマリカと色々相談しては今日の裁判に備えていたのだ。
二人でミアを見ていると、再びノックの音がしてマリウスとディルクが迎えに来た。どうやら時間が来たらしい。
俺は部屋を出る寸前に振り返り、ミアの姿を目に焼き付ける。
「行ってくる」
そして俺はミアに一言だけ告げ、彼女が眠る部屋を後にした。
* * * * * *
今回の裁判は急遽宮殿の大広間で行われる事となった。
異例のそれは、自分達を罪人扱いするなと言う貴族達の強い反発に王室側が折れたからだ。
その話を聞いて、いやいや、お前ら明らかに罪人だろうとツッコんだのは言うまでもない。
この一件は世論的にも批判されており、以前から貴族に良い感情を持っていなかった一部の富裕層や商会等の第三身分からも非難の声があがっている。
宮殿の大広間には王族たちに貴族や第三身分の人間が大勢集まっており、不穏な空気にざわめいている。
この裁判は上級裁判なので、国王が裁判長となり判決を下す事になる。俺は今回の事件の関係者という事もあり、判定人として国王と並んで壇上に座る事になっていた。
そして国王から紹介を受けた俺が姿を現すと、ざわめいていた大広間が一瞬静まり返った後、物凄いどよめきが大広間中に響き渡る。
ホント、この国の人間て黒髪が珍しいんだなー。夫人や令嬢たちもきゃあきゃあと騒いですっごくうるさい。珍獣扱いかよ。貞淑さはどうした。
ご令嬢達はまだよしとしよう。だがビッチ、テメェはダメだ。めっちゃ笑顔でこっち見んな。
被告側の席からものすんごい視線を感じるなーと思ってそっちを見たら、ビッチが二人座っていて驚いた。一瞬ビッチが二人!?と思ったけど、もう一人のそれが母親なのかと理解した。いやー、マジそっくり。
この母親がミアを苛めた張本人ね。ふーん、なるほどなるほど。うん、死刑!
……にしたいのは山々だけど、母親の刑罰については王国の判決人に一任した。今回の件とは別件で何かやらかしているらしい。
しかしビッチ、何故お前が俺にそんなギラギラした視線を向けてくる!? まさかと思うが俺の身分を狙って鞍替えしようと思ってんじゃねーだろうな!?
マリウスが必死になって避けてた理由がわかったわー。アレは怖い。なるべく視界に入れ無いように気をつけよう。
ちなみに今回は、金で解決出来る贖罪金や、宣誓補助者が冤罪を宣誓すれば無罪となるような雪冤宣誓は許されていない。罪を犯しているのは明らかだからとか何とか理由をつけて俺が突っぱねた。
これで貴族達の逃げ道は断ってやった。後は偽伯爵だな。
そうして裁判が始まった。
まず国王が本人確認を行った後、法官が罪状を読み上げる。
貴族達の罪状は、王国で禁止されている奴隷の売買、女性への暴行、人身売買組織との関与に支援などだ。
しかし案の定、貴族達から異議申し立ての声があがった。
ちなみに貴族たちが瓦礫の下敷きになっていたのを俺の部下たちが救い出してやった。それぞれが怪我をしており、包帯を巻いているが、大声を出せる辺り大した怪我ではないのだろう。
「こんな裁判は無効です! 人を侮辱するにも程がある!!」
「私も同意見ですな。こんな裁判など時間の無駄ですぞ!」
「大体、我々が奴隷を買う訳がない! それに暴行? 全く記憶にありませんな!!」
貴族達から次々と怒鳴られた法官はちょっと涙目になりながらも罪状を読み上げ続ける。
今度は偽伯爵の罪状なのだが、その内容はかなり多く悪質で、傍聴している貴族や第三身分たちからは非難轟々だ。
人身売買組織の運営に過去の夫人たちの殺人罪、公文書偽造、少女二人の誘拐と暴行未遂に傷害、禁呪の再現……。
もっと時間をかけて調べれば、偽伯爵の犯罪はまだまだ大量に出てくるだろうが、今はこいつを野放しにしないよう有罪にする必要が有る。
こういう裁判は時間が経てば経つほど加害者が有利になるからな。
偽伯爵は他の貴族達と違い、じっと罪状が読み上げられているのを黙って聞いている。その静かさにより一層不気味さを感じる。
そしてビッチ母の罪状だが、今は王家への虚偽の申告一回と公文書偽造だ。他の犯罪に関してはまた別に裁判が行われる予定となっている。
ビッチ母は常にイライラした様子で爪を噛んでいる。その母親の様子に全く関心がないのか、ビッチは相変わらず俺を凝視している。
母親が荒れてたら普通は心配するもんじゃねーの? 俺なんか見てないで母親気にしてやれよ。
「今、法官が朗読した公訴事実について、被告人たちはこの内容を認めるか?」
証言台に立たされた貴族たちは「冤罪です!」「同じく!」等など、皆んな否定を口にした。
この貴族たちが傷付けた女性たちが全員平民だからだろう、貴族の中でも差別意識が特に強い一派とされているコイツ等は、平民の命や尊厳を軽視しているから、自分たちが罪を犯したという自覚が全く無い。
それに人身売買も、偽伯爵が認めない限りコイツ等も同じだろう。
貴族達を一旦下げさせ、今度は偽伯爵を証言台に立たせる……のだが、俺が足切ったし片腕無いしで今は椅子に座らせている。
個人的にはこんな奴、床に転がせとけばいいんじゃね? と思ったけど。
* * * あとがき * * *
お読みいただき有難うございます。
本格的な断罪は次回からです。
どうぞよろしくお願いいたします!
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