閑話 光を守る者4(マリカ視点)

感想ありがとうございます!とても励みになっております!

暇つぶしになれば幸いです。


※ご注意※

絶不評だった豚屋敷編のマリカ視点です。

かなり描写や台詞を削り、マリカの心情やら状況説明をメインにしたマイルド風味にしてはありますが、

やっぱり無理!な方はブラウザバックをお願いします。



* * * * * *



「私がミアの代わりになる」


「……ほう!」


「なっ!? マリカ本気なの!?」


 私の言葉に、アードラー伯爵は珍しそうに、エフィムは戸惑いの声を上げる。


「ダメ!! マリカやめて!! お願い!!」


 そのミアの悲痛な声に、これからもっとミアを悲しませてしまうだろう自分に腹が立つ。


「ミアは今動かすともう二度と動けない可能性が有る。だからミアには触らないで」


 ……それでも、ミアのような奇跡を起こす力が無い私には、この方法しかミアを助ける事が出来ないのだ。


 「なるほどなるほど。それは私としても本意じゃありませんねぇ。反応がない身体を弄っても面白味がありませんからなぁ! わかりました! マリカさんの優しさに免じて、ミアさんの身体が治るまでは彼女に触れないようにしましょう……まあ、治った後はお約束出来ませんがねぇ」


「構わない」


 今日一日だけ耐えることが出来れば──生きてさえいられれば、きっとミアの魔力も回復するだろう。そうすれば、きっと──。


 私が言った言葉にエフィムが動揺して伯爵に抗議の声をあげているけれど……結局、伯爵の提案に同意する辺り、すっかり毒されている様だ。


 そんな二人にキレたのか、ミアから魔力の高まりを感じて慌てて制止する。


「ミア! 駄目!! 闇に囚われないで!!」


 ミアが怒りで我を忘れ、暴走しようとしている!

 でも、今ここでミアに魔力を使わせる訳にはいかない──!!


「『約束』はどうなるの!? 指輪に誓ったんでしょう!?」


 ハルとの約束を思い出して……!

 ミアは必ずハルと再会しなければならないのだから!


 「ハル」という言葉に、ミアが我に返り魔力が落ち着いていくのを視てホッとした。

 もう少し沈静化が遅ければ、取り返しがつかなかったかもしれない。


 私が結界に触れると、触れたところから波紋のようなものが広がって行く。不思議な感覚を感じながら結界を通り抜けて外に出た。


「────マリカ!! やだ!! 行っちゃやだっ!!」 


 結界の中ではミアが泣き叫んで私を呼んでいる。

 本当は側に行って慰めてあげたいのをぐっと我慢する。


「やあやあ! ようこそマリカさん! まさかマリカさんの方から提案いただけるとは思いませんでしたよ!」


 ──そうなる様にわざと仕向けたくせに……!


「マリカ、結界から出て来てくれたって事は、僕を選んでくれたんだよね? 嬉しいよ!!」


 ──誰が選んだと言った!? 私はディルク一筋だ!! 誤解すんな!!


 伯爵とエフィムが嬉しそうに寄って来た。隙だらけだし、何か武器があれば始末できたのに……ああ、残念だ。


「マリカ、怖がらなくても大丈夫だからね? 痛みなんて一切与えないから安心して?」


 エフィムが呪文を唱えると、人差し指から不気味な光の魔力を用いて魔法陣を描いていく。

 ……この状況でどうすれば安心できるのか問い詰めたい。


「じゃあ、マリカ。行くよ?」


 エフィムが禍々しい魔法陣を指の先に乗せ、ゆっくりと近づいてくるけど、どうせやるなら一気にやって欲しい。何勿体ぶっているんだか。


 ──そこでふと、意外に冷静な自分に驚いた。諦めの極致に至ったからかもしれない。


 せめてもの抵抗に、エフィムをキッと睨みつける。

 ありきたりな台詞だけど、身体は差し出しても心までは渡さない。私の心はディルクのものだ……!!


 眼の前まで迫ってきた呪術刻印に、これから襲い来るであろう衝撃に耐えるべく目を閉じる。


「やめてやめて!! マリカに近づかないで!! ────マリカに触るなっ!!」


 エフィムの指が額に触れたのと、ミアの叫び声が重なった瞬間、腕のブレスレットから魔力が迸り、呪術刻印を空間ごと引き裂いた。


 その圧倒的な魔力の奔流に体のバランスを崩して尻餅をつくけれど、感じた魔力の気配に呆然とする。


「…………今……ディルクが……」


 ──ディルク……!! 今、ディルクの魔力を感じた……!!


 ミアの感情に反応した聖眼石と、私を守るためにディルクが籠めた魔力が、相乗効果で膨大な魔力を放出したのだろう。


 まさか、空間を引き裂くなんて……!!


「マリカ!!」


 ミアの声に、呆然としていた意識が引き戻される。


 周りを見ると、エフィムの腕が肘の先から失くなっていて、傷口から大量の血が流れ出ている。恐らく、呪術刻印と一緒に空間ごと腕を持っていかれたのだろう。


 エフィムが痛みに叫び、伯爵が消えた刻印を嘆いていて阿鼻叫喚だ。


「マリカ!! 来て!!」


 ミアの言葉にハッとなり、慌てて結界の中に入ろうと手を伸ばす。

 もうちょっとで結界の中というところで、後ろから伸びてきた伯爵の手に腕を捕まれた。


 すると今度は青白い炎がブレスレットから現れ、伯爵の腕に巻き付きながら肉や骨を焼いていく。

 炎は超高温のように感じるのに、実際には全く熱くなく、邪なものだけを焼き払う聖なる劫火の様だ。


 このまま伯爵を焼くのかと思ったけれど、何と伯爵は自分の腕を手刀で切り落とすという暴挙に出た。


「糞があっ!!」


 腕ごと切り落とされた炎は、そのまま腕を灼き尽くすと消えてしまう。

 しかし伯爵は傷口を闇魔法で塞ぐと、本来の本性なのか、逆上して口汚く叫び始める。


「……っ! ちぃっ! くそぉ!! くそぉ!! 忌々しい『聖眼石』がぁっ!!」


 伯爵は一目見て石の正体を言い当てている……? まさか「聖眼石」を知っているなんて。


「その石を何処で手に入れたぁ!? 火輪の結界と言い、ミア!! お前の仕業かあっ!!」


 更に伯爵はミアの結界の事も知っていて驚いた。法国と何らかの繋がりがあるとは思っていたけれど……。


「……っ! まさか、アルムストレイムが探していたのはお前かっ!?」


 そしてこの言葉で理解する。

 恐らくこの伯爵は、法国のかなり深い部分──闇の部分にまで関わっている……!

 だから「穢れを纏う闇」にも精通し、使役しているのだろう。


「初めから解っていれば法国に売り飛ばしたものをっ!! 糞があっ!!」


 キレた伯爵が近くにあった椅子を投げつけて来たけれど、結界が防いでくれたので助かった。

 それにしてもすごい威力だ。先程の身のこなしと言い、かなりの手練──暗部の人間……?


 椅子を投げて落ち着いたのか、伯爵が結界から出てくるように促してくるけど、結界をガンガン殴るから「バチバチバチィッ!!」と部屋中に光が迸り、まるで戦場のようだ。


「……全く、強情なお嬢さんだ。……仕方ない、アレを使いましょうかねぇっ!!」


 結局、結界が壊れなかったからなのか、伯爵は「穢れを纏う闇」を取り出し、床に思いっきり叩きつけた。


「パリイィーーン!!」


 割れた水晶の中から這い出してきた闇のモノが、ミアの結界を侵食していく。

 それは人類の叡智など遠く及ばない、光と闇の闘いを垣間見ているかの様な、不思議な光景だった。


 そして鬩ぎ合っていた二つの属性の決着が着く。


 ベッドを覆っていた結界の光が消えると、罅があっという間に広がっていき、「パリンッ」と小さく音を立てて、光の粒子となって消えて行った。


「ふははははっ! 遂にっ! 忌々しい結界が消えましたねぇっ!! もう貴女を守るものはありませんよおぉ!!」


 結界が壊れて大喜びの伯爵がミアへと手を伸ばす。


 ──させないっ……!!


 私は全体重と力をかけて伯爵を突き飛ばした。


「うわあぁ!!」


 ミアにばかり気を取られていた伯爵はバランスを崩し、床に倒れて転がっている。しかし、直ぐ様立ち上がると、鬼の形相で私の方へ突っ込んでくる


「こぉんの小娘があぁ!! 邪魔するなあぁあ!!」


 伯爵が拳を握り、私のお腹を目掛けて腕を振りかぶる。私は咄嗟に後ろへ飛んで、威力を減らそうと思ったけれど、流石に威力を殺しきれず、お腹を殴られ壁に叩きつけられてしまう。


「──がはっ!!」


 そして私は、お腹と背中に灼けるような痛みを感じながら、気を失ってしまったのだった。





* * * あとがき * * *


お読みいただきありがとうございます。


明日も更新しますので、どうぞよろしくお願いします!

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