閑話 光を守る者3(マリカ視点)
暇つぶしになれば幸いです。
※ご注意※
絶不評だった豚屋敷編のマリカ視点です。
かなり描写や台詞を削り、マリカの心情やら状況説明をメインにしたマイルド風味にしてはありますが、
やっぱり無理!な方はブラウザバックをお願いします。
* * * * * *
いつの間にか眠っていた私とミアは、エフィムが来た事で眠りから目が覚める。
一日のはじめに見る顔は、ディルクの顔と決めているのに……!
朝食を持って来たようだけど、何が入っているかわからないものを食べるつもりはないので突っぱねた。
するとエフィムがミアに不安を与えるような事をのたまって、殺意が湧く。
本当にコイツは……!! ここから無事に出られたら百倍返しだ!!
しかしその前に、エフィムには聞いて置かなければいけないことが有る。
「呪術刻印って何?」
昔見た法国関係の文献でちらっとその単語が有ったけど、詳しい事はわからないままだったし、知っておいて損はない筈。
「マリカも興味あるの!? だとしたら嬉しいな!」
……予想外の喰い付き。てっきり教えるのを渋られると思っていたのに、エフィムはスラスラと講釈を垂れ流している。
けれど、そこにミアを治すヒントを見つけた。
エフィムの言葉に、怯えてしまったミアを抱きしめながら、更にエフィムに問いかける。
「呪術刻印は法国で禁呪指定されたはず。どうして貴方はそんなに詳しいの?」
エフィムの話を聞いていて、そう言えば禁呪と記載されていたはず、と思い出す。
私の質問に、浮かれているのかエフィムがペラペラ教えてくれるので有益な情報が引き出せたのは幸運だった。
脳に作用する術式……ならば、神経との関わり等も細かく記載されているだろう。なら、ミアの魔力神経について何かわかるかもしれない。
「……アードラー伯爵が、貴方に禁呪が書かれた魔導書を?」
「そうだよ。伯爵が知り合いから譲り受けたんだって。ねぇ、マリカ。僕を選んでよ! 絶対大切にするよ!」
「その魔導書を見せてくれたら」
横でミアが驚いているけれど、私は見せて貰った後の事については何も言っていない。
「本当!? わかった! すぐ取ってくるからね!」
エフィムもそれに気付かず、魔導書を取りに行ったし。
「そんな理屈通るかなあ」
ミアが心配してるうちにエフィムが戻ってきた。その手にいかにも!な感じの本を大事そうに持って。
「これがその魔導書だよマリカ! さあ、こっちにおいで! 一緒に見ようよ! 僕が教えてあげるよ」
「マリカ、結界から出ちゃ駄目だよ!」
「うん。わかってる」
もちろん、結界から出るつもりはない。
この結界を視た時、邪な感情を持った人間は入れないけれど、私やミアなら結界の内外を行き来出来るのが分かった。
でも、その事を相手にバラすような愚かな失態をするつもりはないので、私は結界の端まで移動すると、エフィムの前にちょこんと座る。
「私はここで見ているから、ページを捲って欲しい」
「うんうん、良いよ! じゃあ、僕が読ませてあげるね!」
……チョロい。
エフィムは生き生きとして魔導書の解説を始めたけれど、これが意外な事に凄くわかりやすくて驚いた。
本だけの知識だけでは理解出来なかった事でも、お互い意見を出し合い検証していると、新しい発見がたくさんあった。
なるほど、流石に魔導研究院に在籍し、副院長が優秀だと称するだけは有る。
……きっと、その才能が彼を驕り高ぶらせているのだろう。
普段の彼は偉そうで苦手だけど、こうして術式の話をしている時のエフィムは生き生きとしていて嫌いじゃない。今まで真剣に研究に取り組んできたのだという事がよく伝わってくる。
そう言えば、術式の事でこうして語り合ったのはエフィムが初めてだった。
今までは自分ひとりでやって来たけれど、人と話す事で新たな発見があるのだと、改めて気付かされた。
……ああ、そうか。ディルクが私に研究院に行くように勧めてくれたのは、全て私の為だったんだ──。
改めて、ディルクへの思いが募ってくる。
──会いたい、会いたい……ディルクに会いたいよ……。
私はその想いを振り切るように、立ち上がる。
「疲れたからここまででいい」
「……あ、ああ、そうだよね! つい夢中になっちゃったよ! ごめんね!」
エフィムが気を遣ったのか、謝りながら部屋を出ていく。
こんな状況じゃなければ、ちょっとは見直したのに……本当に残念だ。
「マリカ、大丈夫? 疲れたんでしょう? 仮眠取る?」
私の心配よりも、自分の心配をすればいいのに……。でもそんなミアだから、こうも守りたくなるのかもしれない。
「大丈夫。それより、ミアに試したいことがある」
「試したいこと……?」
予想通り魔導書には神経についての記載が多数あった。
昔の本にしては事細かく書かれていたので、恐らく……生きた人間を使って調べたのだろう。実に魔導書らしい下衆さだ。
正直気分が悪いけれど、使えるものは何だって使ってやろう。ミアを助けるためならば、私は地獄に堕ちたって構わない。
私は目を瞑り、精神を集中させ、頭の中で術式を組み上がる。私の魔力を変換してミアの魔力神経に干渉させるのだ。
もしかすると拒否反応が出るかもしれないけれど、きっとミアなら受け入れてくれるだろう。
バラバラになった魔力神経に魔力を通してパスを繋げる事により、ミア自身の魔力が巡りやすくなって、早く治癒されるはず。
そしてミアのうなじに術式を描いて発動させると、上手く魔力が馴染んだようで、魔力神経の動きが活発になったのが視てとれる。
「何だかとても温かくて気持ちいいね。痛みが引いていって、だいぶ楽になってきたよ」
ミアも心地良いようで、ホッとした表情を浮かべている。
魔力も順調に流れているし、このまま行けばもしかすると一日程で治るかもしれない。
「今がとても大事な時だから、絶対動かないで」
「う、うん! ちゃんと気を付けるけど、どれぐらい待てば良いのかな?」
「それは……」
ミアに伝えようとした言葉は、部屋のドアが開く音に邪魔されて発することが出来なかった。
「やあやあ、お待たせしてすまなかったね! さあ、私と一緒に楽しもう!」
──本当に最悪なタイミングで、最悪な人物が現れた。
「昨日は遊んであげられなくて済まなかったね! お詫びに今日はミアさんを一晩中可愛がってあげるからね!」
誰も望んでいないのに、下衆な妄想を垂れ流す伯爵にムカついて仕方がない。
「今ミアを動かす訳にはいかない。彼女は身体中負傷している」
今ここでミアを動かす訳にはいかない。
せめて、もう一日だけでも時間を稼ぐことが出来れば……!!
しかし、私の僅かな希望は呆気なく崩れ去る。
伯爵は逆上して、何が何でもミアを連れ出そうと「穢れを纏う闇」を再び取り出した。
──一体、この男はどれだけ闇のモノを抱え込んでいるの……!?
これ以上の抵抗は無駄だと理解した私は、伯爵に向かって決意を込めて叫ぶ。
「待って!!」
闇のモノを開放しようとした伯爵の手がピタリと止まる。
「おやおや、どうしました? マリカさん」
私の意図を理解している癖に、わざとらしく聞いてくる伯爵にこれ以上ないぐらいの殺意が湧く。
伯爵の問いかけには答えず、私は震えるミアにそっと囁いた。
「……ミア、私を嫌いにならないで。それとディルクに『ごめんなさい』と伝えてくれる?」
これから私がする事を、ミアはきっと許さないだろう。でも、それでも私はミアを守りたい。
「マリカ!? 待って!! 行かないで!!」
許されなくてもいい。だけど、嫌われるのだけは耐えられない。
──私はたくさんミアに救われたのだ。
私を過去の澱みから開放してくれた、生まれ変わらせてくれた……初めての、大好きな親友──
そして私はアードラー伯爵達に向かって告げた。
「私がミアの代わりになる」
* * * あとがき * * *
お読みいただきありがとうございます。
明日も更新しますので、どうぞよろしくお願いします!
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