閑話 光を守る者2(マリカ視点)

蛇足ではありますが、暇つぶしになれば幸いです。


※ご注意※

絶不評だった豚屋敷編のマリカ視点です。

かなり描写や台詞を削り、マリカの心情やら状況説明をメインにしたマイルド風味にしてはありますが、

やっぱり無理!な方はブラウザバックをお願いします。


* * * * * *


 貴族は結界を調べたり解析していたけれど、良い方法は無かったらしいので、そのまま諦めるのかと思ったのに、世の中そう甘くはなかった様だ。


「うーむ。これは結構強固な結界ですねぇ。ですが、闇のモノが一体有れば十分壊せるでしょうなぁ」


 その言葉に、コイツが黒幕か、と理解する。


「では、今から壊せますか!?」


「それがですなぁ、さすがに今日はもう無理でしてねぇ。明日すぐにでも準備させましょう」


「……そうですよね。折角、マリカが手に入ったのに残念です」


「本当に本当に! 私も早く呪術刻印を試したいのですがねぇ。初めてはこの子が良かったのに残念残念。今日のところは代わりの女で我慢するしかありませんなぁ!」


 二人の会話に怒りがこみ上げてくる。コイツら人の事を玩具か何かと思ってるの?


「……まあ、お楽しみは取っておくという事で! お嬢さん、結界が解けたら今日の分もたぁ〜っぷり楽しませてもらいますからねぇ……!」


 貴族の方がそう言った時、何か違和感を感じた。ミアの反応からして、何かの強迫観念に囚われている……?


 貴族の視線に震えるミアを守るべく、二人の間に割って入り、気になっていたことを聞いてみる。


「研究棟の結界をどうやって解いたの?」


 何か色々と悍ましいセリフを連発していたけれど、要は「穢れを纏う闇」を乱発して聖なる結界を穢しまくった、という事らしい。


 ……確かに、聖なるものが穢れを祓える様に、その逆もまた然り、だ。

 一部の人間の中には美しいものを穢したいと言う欲求を持っている人間もいるだろうけど、コイツの場合は次元が違う。

 身体の全て──いや、存在自体がまるで「穢れを纏う闇」の様に感じる。


「ミアさん、明日を楽しみにしていますよ」


 そして去り際に放った言葉で、違和感の正体に気が付いた。


 この貴族は、言葉の端々に呪詛のような言霊を乗せている──!


 闇属性でも精神に悪影響を及ぼす類の魔法を使う、邪法魔術師……!!


 ──これはかなり危険な相手だ。最悪の事態も考慮に入れないといけないかもしれない。


「ミア……大丈夫?」


 涙目で震えているミアの背中を、安心させようとさすっていると、段々震えも無くなってきて落ち着いてきたのがわかった。


「今のが無理やり結婚させられそうだと言ってた貴族?」


 間違いないとは思うけど、念のために確認しておかなくては。


「……うん」


 ですよねー。

 あの時研究棟でディルクが「あちゃー」って顔をしていた理由がよくわかった。


「……確かに。アレはアカンやつや」


 私が納得していると、ミアが恐る恐る聞いてきた。


「マリカ……私の魔力神経、明日中に治るかな……?」


 本当は大丈夫だと言ってあげたかったけれど……。


「ミアの治癒能力は本当に桁違いに凄いけど……それでも3日はかかる」


 ミアがガッカリしていて可哀想だけど、ここで嘘をついても、事態の悪化を招くだけだ。


「……ミア、伯爵の言葉に惑わされないで」


「マリカ……」


 ミアはあの伯爵に初めて会った時に、何かの暗示──<恐怖の種>の様なものを植えられたのかもしれない。


「伯爵は言葉に<言霊>を乗せている」


「え!?」


「だから、伯爵の言葉に過剰反応を起こしてる」


 小さく芽生えた恐怖心がミアの心に根を張って、大樹が成長するかのように枝を伸ばし、恐怖心を増大させているのだろう。……姑息な奴め。

 そんな奴のせいでミアが心を病むなんて……!


「私にとって、ミアの存在は奇跡そのもの。私はミアの力で救われたの」


「……ありがとう、マリカ」


 ミアの微笑みを見ると、心がほっこりと温かくなる。それは私だけでなく、ディルクや商会の皆んなが感じていることだ。


 ミアの精神も大分落ち着いたので、何か対抗策は無いかと二人で相談するうちに、心に余裕が生まれてくる。

 やはり、人間何か目標を持つと良いのかもしれない。そうする事で、あちこちに散らばっているヒントを見つけ、答えに辿り着くことが出来るのだろう。


 ふと、ミアがかなり眠そうにうつらうつらとしている事に気がついた。


「ミア、身体にかなり負担が掛かっている状態だからちゃんと休んで。じゃないと魔力神経の回復が遅れる」


「マリカは……?」


「私も少し休む。疲れていたら何事も上手くいかないから」


 私の休むという言葉にミアも少し安心したのか、そのまますうっと眠りに落ちていった。


 私はミアのあどけない寝顔を見ながら考える。


 ミアと初めて会った時に思った、天使や女神かな、と言う印象は別の意味で確信になった。

 ミアはその心も、持っている力も、まるで本物の聖女のように、女神のように美しく輝いている。


 そんなミアを、こんなところで……こんな事で失う訳にはいかない。

 今、この世界はミアを必要としている──そんな大きな、人間では計り知れないほどの、何かの意思を感じる。


 ──ならば、私に出来る事は一つだけ……全身全霊をかけて、ミアを守ることだ。


 ……ディルク……。


 いつも優しく微笑んで、私を守ってくれる愛しい人のことを考える。

 ディルクが私を守ってくれたように、私もミアを守りたい。きっとそれが、巡り巡ってディルクの幸せに繋がるのだと、そう信じられるから。

 それで、もう二度とディルクに会えなくなったとしても……それでも、私は固く決意する。


「ミアは、必ず私が守る」





* * * あとがき * * *


お読みいただきありがとうございます。


明日も更新しますので、どうぞよろしくお願いします!

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