閑話 光を守る者1(マリカ視点)

※ご注意※

今回から絶不評だった豚屋敷編のマリカ視点が全4話+その後2話始まります。

かなり描写や台詞を削り、マリカの心情やら状況説明をメインにした

マイルド風味にしてはありますが、やっぱり無理!な方は

87話(8/17以降更新予定)からお読みくださいませ。


* * * * * *


 研究棟でミアと一緒に居て、帝国行の話をしていた筈なのに、気が付くと見知らぬ場所をエフィムに運ばれているところだったので驚いた。

 しかもエフィムにお姫様抱っこをされている……!! 何という事でしょう……!! 初お姫様抱っこはディルクにお願いしたかったのに……!!


「離して!」


「あ、マリカ気が付いたんだね! 良かった! 瘴気が予想以上に強かったから、目覚めなかったらどうしようかと思ったよ」


 腕を突っぱねてエフィムから離れようとしたけれど、エフィムは思いの外力が強く、更に強く抱き込まれてしまう。

 ぐぬぬ……! コレジャナイ感が半端ない。私が抱きしめられたいのはディルクだけなのに!


 ……ん? 今、気になる単語が聞こえてきたけれど、瘴気……!? まさか、先日の寮部屋や研究棟の穢れもエフィムが絡んでいる……?


 穢れで思い出したけれど、ミアは!? ミアは無事なのだろうか……!?


 一緒に居たミアは何処だろうと周りを見渡すと、真っ黒いローブに身を包んだ、いかにも怪しそうな仮面の人物の肩に担がれているミアを見つけて驚愕する。


「……っ!! ミア!!」


 ミアは意識を失っているらしくぐったりしている。そんなミアに、更に黒い穢れの様なモノが全身に纏わり付いていた。何とか薄皮一枚のような結界がミアの身体を守ってはいるけれど、かなり不味い状態だ。


 どうしよう……! このままではミアが穢れに汚染されてしまう……!!


 私にはお守りのブレスレットがあるけれど、ミアはブレスレットを持っていないのだ。

 まさかミアが昏倒する程の闇のモノを使役するとは思わなかった。アレだけ強力な結界を破るだなんて、一体どうやったのだろう? ……もしかして物量作戦だろうか。

 もしそうだとすると、エフィムが闇のモノを使役出来るとは思えない。他に術者……黒幕がいる?


 ──どちらにせよ、魔導国は私の敵認定だ。許すまじ……!!


 結局私はエフィムの腕の中から逃げることが出来ず、奥の部屋に連れてこられてしまった。部屋の内装や調度品を見る限り此処は貴族の屋敷の様だけど……。


 そして奥に天蓋付きのベッドが鎮座しているのに気が付いた……って、でかっ!!

 一体ここに何人寝れるのだろう? こんな事態でなければゴロゴロ転がってみたいものだけど。


 そのベッドに私とミアが運ばれ、仮面の人物がミアから離れた瞬間、ミアから聖属性の光が放たれ、ミアに纏わりついていた穢れとエフィム達をまとめて弾き飛ばした。


 ──パキィィィン!!


「うわあぁあ!!」


「…………!!」


 エフィム達はいきなり弾き飛ばされた勢いで尻餅を付き、驚いた表情でベッド周りを見上げている。

 その視線の先では、ミアから放たれた光が透明の膜となってベッドを丸ごと包んでいた。


 ──意識を失っているのに結界を発動させるなんて……!


 相変わらずのミアのチートっぷりに安心した私は、ミアの様子を視て驚いた。


「……なっ!?」


 安心なんて一瞬で吹き飛ぶぐらい、ミアの状態は酷かった。


 魔眼で視たミアは、全身の魔力神経が断線──骨で例えると全身複雑骨折しているかのようにボロボロになっていた。


 これでは魔法どころか、体を動かすだけでも相当痛みを伴うはず。ミアが作ったポーションが有れば……いや、それでも魔力神経は治らないだろう。それほど魔力神経は複雑なのだ。


 ミアの魔力神経を集中して視てみると、わずかだけれど回復しようと魔力が動いているのが分かった。かなり時間がかかるだろうけど、ミアの魔力神経は治る可能性が有る事がわかっただけでも一安心だ。

 普通の人間ならここまで損傷が酷ければ、二度と魔法は使えないか最悪死に至っているだろう。


 ただ、その僅かな魔力も治癒に全てのリソースを割いているらしく、これ以上魔法を使う程の余裕は無さそうだ。


 ミアが張ったこの結界が最後の砦かも知れない。この結界がいつまで保つか分からないけれど、何とかミアだけでも助けなければ……!


 流石のミアも瘴気まみれになったのは不味かった様で、なかなか目を覚まさない。このまま目覚めなかったら、と思うと怖くて怖くて胸が締め付けられる。


 ──お願い、ミアを助けて……!


 私が必死に声を掛け続けていると、少しだけミアが反応したので、大きめの声で呼びかける。


「ミア、起きて!」


「────はっ!」


 ぼんやりとしているけれど、だんだん目の焦点も合ってきて、無事ミアが目覚めたことにホッとする。


「あ、マリカ……」


「ミア……! 良かった……!」


 目覚めたばかりのミアが今の状況に驚いているところに、エフィムが声を掛けるからミアが驚いて身体を起こそうとしてしまう。


「……っ! ぐうっ……! ……はあ、はあ、はあ……っ!」


 案の定、身体が激痛に襲われたらしく、ミアが痛みに打ち震えている。

 クソエフィムめ!! 何してくれとんじゃ!! 余計なことしくさりやがって!!


「ミア! 無理して動いちゃダメ! 魔力神経が傷ついてる!」


「……マリカは……大丈夫……?」


 自分は恐ろしいほどの激痛に苛まれているだろうに、私の心配をするなんて……!


 私はミアの負担を少しでも減らそうと、なるべく何時も通りに振る舞うことにした。


「私は大丈夫。ミアのおかげ」


「…………良かった……」


 弱々しく微笑むミアが痛々しくて、見ていて辛くなる。

 でも何とかしないといけないのは同じだから、ミアに今までの状況を説明する。


「────だから、何が有っても魔法を使っちゃ駄目」


「……うん」


 そしてエフィムの事を説明していると、そこへ残り少ない白髪混じりの髪の毛を無理矢理撫でつけた髪型に、身体中の脂肪が弛みきった、貴族の品格が微塵も感じられない中年男がやって来た。

 多分貴族なんだろうけど、ひと目見ただけでヤバい奴だと言う事がわかった。


「いやいやいや! コレは随分と可愛いお嬢さん方だ!」


 嬉しそうに両手を広げながらこちらに近付いて来た中年男は、私に気づくと好色そうな笑みを浮かべて舐め回すような視線を向けてきた。


「こちらの白い髪のお嬢さんがマリカさんですな! いやあ、噂に違わず美しい! こう見るとアルビノも良いですなあ!」


 ……褒められてこんなに嬉しく無いのは初めてかもしれない。

 それに見た目だけでなく持っている雰囲気が違うだけで、同じ言葉のはずなのにこうも意味が違って聞こえるなんて。


「伯爵……!」


「いやいや、大丈夫大丈夫! 約束は守ります! マリカさんは綺麗な状態でお渡ししますとも! どうぞご心配なく!」


 ……約束? この貴族とエフィムは私の身柄に関して何かの契約を交わしているのだろうか。もしそうなのであれば、この貴族は噂の人身売買組織と関係がある……?


 しかし、私達のこの状況はエフィムが原因……? いや、もしかして魔導国が絡んでいる……? その可能性の方が高いかも。ホント、余計なことを!!


 それにしてもさっきからミアの様子がおかしい。伯爵に顔を見られないように必死に隠している様な……?


「こちらのお嬢さんもまた可愛らしい! 実に私好みだ!」


 貴族が嬉々としてミアの顔を覗き込んだと思ったら、「おや?」と何かに気付いたように言った。


「お嬢さん、私と何処かでお会いしていませんかねぇ……?」


 貴族のセリフにミアがビクッとなったところで気が付いた。


 ──もしかして、ミアが逃げてきた原因の貴族って……!?


「うーむ。何処かで会ったと思うんですけどねぇ」


 ミアが必死に顔を隠しているのもあって、結局貴族はミアに気づかなかった。


 ……アメリアのメイク技術凄い。





* * * あとがき * * *


お読みいただきありがとうございます。


アメリア以外と有能説。


次のお話は

「閑話 光を守る者2(マリカ視点)」です。


明日も更新しますので、どうぞよろしくお願いします!

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