閑話 光を守る者5(マリカ視点)
蛇足ではありますが、暇つぶしになれば幸いです。
※ご注意※
「85 光を追い求める者(ハル視点)」のマリカ視点です。
読み飛ばして貰っても支障無い……かも?
* * * * * *
何かに呼ばれたような気がして目が覚める。
すると、目の前には綺麗な星空が広がっていて、一瞬自分が何処にいるのか分からなかった。
……? あれ? ここは……。
ぼんやりとした頭で星を眺めていると、一つの星がふわふわしているのに気が付いた。
……星……じゃない……?
よく目を凝らして視ると、それは星ではなく小さな光の粒で。
私の目の前で浮かんでいるこの光は──精霊?
どうしてこんな所に精霊がいるのかと思い、身体を起こそうとしたら、身体中を打撲しているらしく、ひどい痛みが襲ってきた。
……そうだ、私はあの伯爵に殴られて気を失っていたんだ……!
痛む身体を我慢して周りを見回すと、大きくて立派な屋敷だったそれは、見るも無残に瓦礫の山となっていた。
──一体何が起こったの……!?
まさか私が気絶している間にミアの魔力が暴走してしまったのかもしれないと思い、私は何とか立ち上がり、ミアを探す。
ふと、人の気配を感じてそちらへ向かうと、黒いローブが見えたのであの仮面の人物かと思わず身構えた。
けれど、黒いローブだと思っていたのは黒い髪だという事に気付き、まさかと思って歩み寄る。
すると、私の気配に気づいた黒髪の人物がハッとした顔で振り向いた。
いつかディルクが持ってきた、蒼い魔石と同じ色の瞳──。
蒼い瞳と黒い髪で、この男の子がミアの大切な人──ハルなんだとわかった。
──ああ、良かった……ミアを助けに来てくれたんだ……!
でも、そう思ったのも束の間、そのハルの足元で倒れているミアを見つけ、慌てて駆け寄ろうとしたけれど、身体が痛くて真っ直ぐ走れない。
「お、おい。辛そうだが大丈夫か……?」
無意識にお腹を抑え庇いながら、ふらふらと歩み寄った私の姿を見て心配してくれたのか、ハルが声を掛けてきた。
「私は大丈夫。それよりミアの状態が酷い」
ミアの様子が気になったので魔力神経を視てみると、これ以上無いほどボロボロで、魔力は全く残っておらず、生きているのが不思議なぐらいだった。
「この王都で腕の良い医者を知っているか?」
ハルからの質問に、私は首を振って「王国ではミアを治療出来ない」と答える。
「医術や魔力の研究はほとんどされていない。帝国とは雲泥の差」
ハルが苦虫を潰したような顔をして考え込んでいる。
農業が主産業の王国には、研究施設のようなものが全く無い。医療技術だけでなく魔道具に関しても後進国だ。
「やっぱりこのまま帝国へ行くしか無いか……」
ハルがミアを抱き上げ、帝国へ連れて行こうとしているところで「あっ」と思い出した。
「ランベルト商会の寮のミアの部屋に<神の揺り籠>がある。そこでしばらく休ませれば回復出来るかもしれない」
「はあ!? <神の揺り籠>!? 何でそんなもんが……って寮!?」
法国の神殿最奥部にあると言われているものが、商会の寮にあればそりゃあ驚くだろう。
「……それは、やっぱり……」
「そう、ミア。ミアが私のために用意してくれた」
「相変わらず、無自覚なんだろうな……」
七年も離れていたはずなのに、ミアの事をよく理解しているところに彼の、ミアに対する愛情の深さを感じる。
「よし! もう一回飛ぶぞ!」
ハルがそう言うと、今まで何処に居たのか精霊たちが一斉に寄ってきて、ハルとミアが精霊まみれになっていく。
「こんなに精霊が……」
この王国には精霊はほとんどいない。王国大森林の奥深くの泉付近に精霊の目撃情報が有ったぐらいだ。
でも最近、研究棟のバラ園に精霊の気配を感じる事が有ったけど……まさかね。
きっとハルが帝国の精霊の森から連れて来たに違いない。うん。
するとハルが精霊たちと<同期>し、飛行魔法を発動させる。
……!! ミアも大概だと思っていたけれど……! うん、似た者同士だわー。
「マリカ! 俺の部下たちがもうすぐここへ来る! 悪いが、事情説明しといてくれ!」
空に飛び上がったことで、自分の部下たちを見つけたハルが、上空から私にお願いする。
超大国の皇子なのに、お願いではなく命令すればいいのに……でも、そんなハルに好感度が上がったのは言うまでもない。
「わかった。ミアをお願い」
私はしっかり頷いて、ミアとハルを見送った。
「……うぅ……クソぉ、クソぉ……!!」
声がした方を見ると、伯爵が光る何かで拘束されている姿があった。
──これは、光魔法の<光縛>……? でも何かが違うような?
きっとハルの仕業なんだろうけど、伯爵も大概ボロボロになっていた。
けれど、身を捩ったり何かの呪文を唱えたりと必死になっていて、何とかここから逃げようと躍起になっている。
「何故解呪出来ん……! 魔法も使えんとは……! クソおぉ!!」
どうやらこの伯爵は<光縛>から逃れる術を持っているようだけど、私が視たところ、この<光縛>は拘束した人間の魔力を使って効果を維持しており、逃げようと魔力を使う度に強固な拘束となるように術式を改変・付与しているようだ。
それを知らない伯爵は自身で拘束を強くしているのに気が付かず、更に堅牢な術に縛られている。
うーん。これはなかなか興味深い。今回のことが落ち着いたら、一度ハルとゆっくり魔法について話し合ってみたい。
私がそう思っていると、馬の足音と嘶きが聞こえ、ハルの部下たちが到着したのだろうと気が付いた。
直ぐにそちらへ行きたいけれど伯爵を放って置けないし……と言うところで、私が一番大好きで、会いたかった人の声が、私の名前を呼んだ。
「マリカっ!!」
咄嗟に声の方へ顔を向けると、ディルクが走ってこちらに向かってくるのが見えた。
私は体の痛みも忘れて、ディルクのもとへと行こうと走り出す。
溢れ出る感情に突き動かされながら、上手く動かない身体を無理やり動かして、ディルクに向かって手を伸ばす。
「ディルク……!」
ディルクは私が伸ばした手を取ると、そのまま私を引き寄せて強い力で抱きしめた。
ディルクの温もりと香りに包まれた私は、張り詰めていた緊張が溶けたのか、涙腺が決壊して目から涙が溢れ出す。
ポロポロ涙を流しながら抱きつく私に、服が濡れるのも構わず、ディルクは更に私を抱き込み、安堵のため息を漏らす。
「……マリカ……無事で良かった……っ!」
かすかに震えるディルクの身体が、心の底から私を心配してくれていたのだと教えてくれて、ディルクのそんな想いに心が喜びで打ち震える。
──ディルク、ディルク、ディルク……!! 大好き……!!
今がチャンスとばかりに、ディルクの香りを思いっきり吸い込んで、身体中をディルクで満たしてやっと心が落ち着いてきた。
更にディルクの胸に顔を埋めて頭をグリグリ擦り付ける。あくまでさり気なく! ココ重要!
……あら? 意外とディルクって筋肉質……? 服の上から腹筋が割れているのが分かっちゃいましたよ……?
あ、アカン! これ鼻血出してしまう奴や!!
慌ててディルクの胸から顔を離し、心を落ち着かせようとしたけれど、顔を離した瞬間、またもやディルクに抱きしめられて、頭がパニック状態になった。
「……もうちょっと、このままでいさせて?」
混乱している私の耳元で、ディルクが甘い声で囁くものだから、感情が天元突破した私の意識は一瞬ホワイトアウトする。
──あ、私死んだかも。
* * * あとがき * * *
お読みいただきありがとうございます。
明日も更新しますので、どうぞよろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます