84 光を目指す者4(ハル視点)
俺が遠隔で放った魔法が、少し離れた距離にある偽アードラーの屋敷で炸裂し、光がその場所を知らしめる。
想定通り、屋敷は瓦礫の山になったみたいだが、それでも出力は調整したので、人は死んでいないはず……多分。
偽アードラーの屋敷は王都の貴族街の外れにあり、周りに屋敷などの建物が無くて助かった。範囲指定しているから問題ないとは分かっていたけど。
これなら思いっきり暴れても大丈夫だろう。
肉眼で見える距離まで近づくと、偽アードラーと黒い奴がミアを連れて逃げようとしている所を目撃する。
黒い奴に身体を起こされると、何処か痛いのか、ミアの悲鳴が聞こえてきた。
「────────ミアっ!!」
俺がミアの名前を叫ぶと、ミアがはっとして俺を探す素振りを見せた後、涙で濡れた紫水晶の瞳を大きく見開く。
俺の姿を見つけたミアの綺麗な瞳から、更に涙が溢れているのが見て取れる。
成長したミアをはっきり見たのは初めてで、七年前より更に美しくなったミアの姿に胸が熱くなる。
「ミアを離せっ!! <光断>!!」
しかし、そのミアの腕を掴んでいる黒い奴が邪魔で邪魔で、我慢出来なかった俺は黒い奴の腕ごと切断する。
切り落とした腕は、血を出すことも残ることも無く消えていき、黒い奴が人間じゃない事が判明した。
「くそっ! 詠唱破棄の減殺呪文かっ……!?」
偽アードラーが俺の魔法を見て驚いている。なるほど、元法国諜報員だけの事はあるのか物知りだ。遠くにいる俺にも気付いたし、コイツなかなかの術者だな。
支えを無くしたミアは自力で立てないのか、そのまま崩れるように倒れていくので、咄嗟にミアを支えるよう精霊に指示を飛ばす。
精霊との同期に複合多重魔法の行使で、脳の処理が追いついていないのか、さっきから頭痛が酷い。流石の俺も魔法の並列処理は初めてだったから、加減が分からず無茶振りしたらしい。
──しかし、もう少しで終わりだ! ここで一気にカタを付けてやる!!
「おい!! お前が偽アードラーだな!? お前、簡単に死ねると思うなよっ!! <光縛>!!」
殺すのは簡単だが、コイツには聞かないといけない事が山程あるからな。取り敢えず逃げないように拘束しておこう。
「うおっ!! く、くそっ!! 動けん!! たかが<光縛>のはずなのに!! 何故だっ!?」
やっぱりコイツかなり魔法に精通しているな。<光縛>を無効化する術を知っているようだ。
「同じ魔法でも俺の魔法はカスタムされてんだよっ!! 念の為足一本いっとくか! <光断>」
俺の魔法は特別製だからな!! そう簡単に解析されてたまるかよ!
しかしコイツ油断ならねーな。失血死しない程度に足を切っておこう。
「ぎゃあああっ!!」
足首を切断された偽アードラーが悲鳴をあげながらバランスを崩し、顔面から地面に激突した。
どうやら思いっきり顔面をぶつけて鼻の骨を折ったらしく、鼻血が大量に流れている。
「ぐおぉおおお!! 痛い!! 痛いーっ!!」
足の切り口も焼いといたし、かなりの痛みがコイツを襲っているのだろう。
──だがな、お前に襲われたミアの痛みはこんなもんじゃねーんだよっ!!
「んん? お前痛いのが好きなんだろ? 今まで散々人間をおもちゃにして痛めつけて来たんだもんな! だからお前には、お前が今まで人に与えてきた苦痛全てを経験させてやるよ! 嬉しいだろ? 楽しみに待っとけ!!」
今までコイツの犠牲になった人間は数え切れない程いるだろう。その苦痛を全て与えるとなると、身体を五寸刻みにしてもきっと足らないだろうから、上級ポーションを大量に用意して癒やしながら拷問してやろう。金かかるしポーション勿体無いけど。
「…………っ!! そ、そんな…………!」
偽アードラーが顔を真っ白にして恐怖に震えているけど、因果応報って言葉知らないのか? 何でこういう奴って、自分は無事だと思い込んでんだろ? やるなら自分もやられる覚悟で挑まないと。
「嘘だ……嘘だ……」
今まで余程酷い事をしてきたのを思い出しているのか、偽アードラーはガタガタと震えながら怯えている。
偽アードラーの心は折ったし、もう大丈夫かと思い、飛行魔法を解除して、長い時間力を貸してくれた精霊たちに「助かったよ。ありがとな」とお礼を言う。
「ミア! もう少し待っててくれ! 先にコイツに止めを刺すからな!!」
本当は今すぐミアの元へ行って抱きしめたいけど、最後に残った黒い奴の処理が未だ残っているからと、ぐっと我慢した。後もうひと踏ん張りだ! 頑張れ俺!
さっき偽アードラーの足を切断したついでに、コイツも逃げないように捕まえておいたのだ。
「……で、お前は何者だ? もちろん人間じゃないよな? 偽伯爵の使い魔……もしくは式鬼か? まあ、どっちにしろ消滅させるのは変わらねーけどな」
コイツからは偽アードラーと同じ魔力と……何か──別な、異質なものを感じる。
この仮面を取ってみるかと思い手を伸ばすと、仮面の手に黒い水晶玉みたいなのが出現した。
──これはっ!?
俺が驚いた一瞬の隙を突いて、仮面の奴がその水晶玉を割ろうと手に力を込めたのがわかった。
──ヤバイっ!! 防御が間に合わな────!!
その瞬間、横から凄まじい威力の劫火が放たれ、仮面の奴ごと水晶玉を灼き尽くす。
魔法が放たれたであろう方角へ振り向くと、今まさにミアが意識を失うところだった。
「ミアーーーーーーっ!!」
俺は急いで駆けつけ、ミアの身体を抱き起こすが、ミアの顔色は真っ白を通り越していて土気色で、まるで生気が無い。
それでも心臓は心音が小さいながらも何とか動いているようで、生きている事に安心する。
まさか、魔力の枯渇か……!?
慌てて魔眼を発動させ、ミアの魔力を視た俺は絶句した。
何故なら、あれだけ強かったミアの魔力は全く感じられず、魔力神経はズタズタで、今生きていることが不思議なぐらいの重症だったからだ。
* * * あとがき * * *
お読みいただきありがとうございます。
再会してもまたすれ違う鬼畜展開です。( ー`дー´)キリッ(開き直り)
次のお話は
「85 光を追い求める者(ハル視点)」です。
再会後のハル視点です。
格好良いハルのイラスト見て、嬉しさのあまり今日から3日間更新です。
どうぞよろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます