83 光を目指す者3(ハル視点)
ミアを取り戻しにアードラー伯爵邸に向かおうとする俺をマリウスが制止する。
「殿下! お急ぎなのはわかりますが、少しお待ちください!」
「は!? 待てるわけねーだろ!!」
「ミアさんに関係ある事でも?」
「何!?」
実際、マリウスはどれだけ俺がミアの事を心配しているかよく分かってくれている奴だ。そのマリウスが待てと言うのなら仕方がない。
「何だ? ミアがどうしたって?」
「殿下はいつも魔眼を切っているんでしたっけ。この庭を魔眼で視て下さいよ」
何の事かよくわかんねーけど、取り敢えず言われた通り魔眼を発動させると、驚くべき光景が目の前に広がっていた。
「こ、これは……!? どうしてこんなに精霊が!?」
バラやハーブが植えられている庭の一面が、すごい数の精霊がいるためか光に満たされていて、まるで光る海のようだ。
「何かに怯えて今まで隠れていたみたいですが、殿下が来たから安心して出てきたみたいですね」
え、そうなの? それは気付いてやれなくて申し訳なかったな。しかし精霊の森以外でこんなにたくさんの精霊を見るのは初めてだ。
「このバラやハーブって……」
何となく答えは分かっているけれど、念の為ディルクに聞いてみた。
「はい、ミアさんがお世話していましたね」
どことなく遠い目をしているディルクが予想通りの答えを返してくれた。その様子で今までのミアの行いが分かったような気がする。
……ミア、無自覚で散々やらかしたんだろうな。良い意味で。
ミアの事を考えていると、精霊が俺の所へやって来て、くるくる輪を描くように飛ぶと頭の中に何かの映像が浮かんできた。
──これは、ミアが連れ去られるところか……!?
その映像では、灰色と黒いローブの二人が闇のモノを使ってこの建物を襲っている場面が映し出されていた。
そして次の場面では、灰色と黒の奴がそれぞれ白い髪の少女と茶色の髪の少女を運んでいる姿が。
その場面を見た俺は、その瞬間頭に血がのぼり、心が怒りで満たされて行く。
──ミアを連れ去ったコイツら、絶対に許さねぇ!!
オレの心に呼応したのか、ミアのブレスレットが淡く光りだすと、周りを飛んでいた精霊たちが一斉に寄ってきて、視界一面光に埋め尽くされる。
「え!? な、何!? どうした!!」
「……っ、ちょ! ハル!!」
「殿下!?」
突然の事に俺の怒りは何処かへ行ってしまい、光がチカチカして段々目が回って来た。
マリウスも見たことがない事態に驚きの声を上げているし、精霊が見えないディルクやハンス達からすると、俺って挙動不審に見えているんだろうな。
精霊に塗れた俺の頭に、今度は何かの感情が流れ込んでくる。
──ああ、そうか……お前たちもミアを助けたいんだな……。
精霊たちもミアが連れ去られた事に憤慨しているのが伝わってくる……いや、確かに怒ってはいるけれど、それよりも強く伝わってくるこの感情は──悔しさだ。
きっと精霊たちは、闇のモノに立ち向かえず、ミアを護れなかったことを後悔しているのだろう。
──だから、ミアを助けるために俺に協力してくれるって?
「よし! 頼む! 一緒にミアを助けに行こう!!」
「は?」
「えぇ!?」
突然叫んだ俺にマリウスとディルクが今度は困惑の声をあげる。「お前大丈夫か?」と言いたそうな目で俺を見るな!! 痛いのは俺もわかってんだよ!!
とにかく俺は精霊たちの力を受け入れるため目を瞑り意識を集中させる。
すると、ミアが移動して行ったであろう経路が頭に浮かんで驚いた。
どうやら連れ去られたミアを追った精霊たちがいるようで、その精霊たちと情報を共有しているらしい。
精霊同士で意識を連結させる事が出来るとは……! 精霊たちパネェ。
でもこれでミアの居場所は判明した。やはりアードラー伯爵邸に居る!!
「マリウス! ミアはアードラー邸で確定だ!! 俺は先に行くから後からついて来い!! 精霊が案内してくれる!!」
「え!? 先に行くって……??」
マリウスが戸惑っているけど、今は説明している余裕がない。まあ、マリウスが精霊たちから教えて貰うだろう。
そして俺が魔力を練り上げ精霊たちの力と同期させると、身体がふわっと浮かび上がる。
「はあぁあ!?」
「ええっ!?」
「これは……!?」
飛行魔法はまだ実現されていないから、マリウス達が驚くのも当然の事だろう。実際使っている俺もびっくりだし。
俺は更に魔力を放出して夜空に飛び出した。
王都中が見渡せる高さまで飛び、精霊が伝えてきた道筋をたどり、ミアが居る場所を導き出すと、その場所目掛けて一気に加速する。
そう言えば今の探索魔法、昔ミアが使っていた魔法に似ているな……。
ミアの事を考えると、心が逸って仕方がない。早く逢いたい。早く早く──!!
最速で偽アードラーの屋敷へ向かっているとはいえ、結構距離があるのがもどかしい。
しかしミアとの距離が縮まって来たからか、近くにいる精霊の目を通してミアの姿がふいに視えて、思わず胸が高鳴ってしまう。
──ミア!! ああ、ミアだ……!!
だが、俺が視たミアはかなり疲労しているのか顔色がメチャクチャ悪い。しかも何処か怪我でも負っているのか、苦しそうな表情を浮かべているではないか!
更に髪の色が銀色に戻っていて、その綺麗なミアの顔を小汚いおっさんが覗き込んでいやがる! てめぇ! 俺のミアに近づくな!!
俺が怒りに震えていると、ふと、精霊を通してミアの感情が伝わってくる。
──それはまるで、祈りにも似た、溢れんばかりの俺への想い──
ミアの感情に、凄く嬉しい筈なのに何か嫌な予感がして、近くの精霊にミアを守ってくれるようにお願いする。
この偽アードラーめっ!! ミアに何しやがった!! テメェは絶対楽に殺さねぇ!!
その小汚いおっさん──偽アードラーへの殺意で魔力が暴走してしまいそうなのを何とか抑えるが、何かに気付いた偽アードラーが、天井を見て驚いている様子が視える。
──コイツ、俺の存在に気付いたな……!?
視点が違うから分かりにくいが、偽アードラーは遠視か何かで俺を見つけると、慌てた様子で逃げようとしていた。
「バカがっ!! 俺が逃がすわけねーだろうがっ!! <天光>!!」
そして俺は座標指定、範囲限定の上級攻撃光魔法を偽アードラーの屋敷目掛けてぶっ放したのだった。
* * * あとがき * * *
お読みいただき有難うございます。
次のお話は。
「84 光を目指す者4(ハル視点)」です。
80話の再会シーンのハル視点です。
近況ノートやTwitterで更新日をお知らせしますので、
どうぞよろしくお願いします!
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