82 光を目指す者2(ハル視点)

 俺がランベルト商会に着いた頃には既にミアは何者かに拐われた後だった。


 何者かって言うか、それ絶対偽アードラーだろ!! クソがっ!!


「アードラー伯爵の屋敷は何処だ!? 場所を教えてくれ!!」


「アードラー伯爵ですと!?」


「──!? 何故それを!?」


 俺が出した名前が意外だったのか、親子で驚いている。ちょっとした表情が似ているのを見て血の繋がりを感じる。


「こっちの調査でアードラー伯爵がかなりヤバい奴って言うのはわかってる。そいつが異常に執念深いという事もな。だからミアを拐ったのはそいつだと予想しているんだが」


「僕は魔導国の魔導研究院の仕業ではないかと予想していました。しつこく我が商会の魔道具師──マリカを狙っているようでしたから」


 ……ああ、そっちの線もあり得るのか。これは厄介だな。


「でも、気になる事もありまして……。宜しければ、殿下にご覧いただきたいものが有るのです。ご足労おかけしますが、どうかこちらにお越しいただけませんでしょうか……」


「ああ、身分の事は気にしないでくれ。畏まられると余計に時間がかかりそうだ」


「わかりました。では遠慮なく。こちらに研究棟がありますのでお越しいただけますか」


 ディルクはそう言うと、足早に店を出て庭の方に案内する。

 見事なバラが咲き誇る庭園は、こんな時じゃなかったらゆっくり鑑賞してみたい程だったが、そのバラ園の向こうに似つかわしくない建物がある事に気付き、思わず眉を顰める。


 古いレンガ造りの建物は黒い灰のようなものに塗れており、建物を覆っていた蔓バラも花が腐り落ちてひどい有様だった。


「──これは……!?」


 そして一番驚いたのが瘴気の濃さだ。まるでこの建物は「呪われた地」の様に穢れが酷かった。

 普通の人間が下手に近づくと気分が悪くなるか昏倒してしまうだろう。


「まさか、『穢れを纏う闇』の仕業か……?」


「げっ!?」


 俺の言葉にハンスが酷く驚いた。まあ、その悪名は世界中に轟いているからな。


「その通りです。しかも今回の襲撃で二回目なんですよ。前回はミアさんが張ってくれた結界で難を逃れましたけど。この研究棟の様子からして、今回は更に多数の闇のモノを使役した様です。ミアさんにはかなり強固な結界を張って貰っていたのですが、流石に数が多かったみたいで」


 まさかの二回目! 前回はよく無事だったな……それ程ミアの結界は凄かったんだろう。


「もし魔導国の仕業であれば、一体どうやって『穢れを纏う闇』を使役しているのかが分からないのです。本来なら法国に関わる問題ですし。もし法国も絡んでいる可能性まで考慮に入れる必要が有るのであれば、とても僕では太刀打ちできません」


 ……なるほど。偽アードラーの事を知らなければ犯人の目星をつけるのは難しいだろうな。


 俺はディルクに偽アードラーの事で判明したことをざっくりと説明する。


「まさか……! 元法国の諜報員!? あの伯爵が!?」


 まあ、流石に驚くよなー。普通なら有り得ない事だし。


「でも、この商会でミアさんに関する情報には箝口令を敷いていましたし、彼女の存在が漏れたという事は考えにくいかと。だから僕はマリカを拐う時に、彼女が一緒に居たので巻き込まれたのだと思っていたのですが……」


 先程の店内の様子などを見れば、ディルクが言う通り情報規制はしっかりと為されていたのだろう。


「それに、今のミアさんは容姿を少しいじっているんですよ。マリカが髪色を変える魔道具を作ったので」


「はあ!? それは本当か!?」


「……え!? は、はい、本当です。今の彼女の髪の色は茶色です」


 マジか……!!

 髪の色を変える魔法はかなり難易度が高く、光属性を持つ者じゃないと使えないと思っていたが……。

 それを術式に用いて魔道具にするとは。流石天才魔道具師と言われるだけはあるな。マリウスが欲しがるはずだわ。


「じゃあ、ミアが連れ去られたのは本当に偶然か……」


 うーん。てっきりアードラー伯爵が絡んでいると思っていたのだが……。

 俺の勘が外れたのは初めてだから、ちょっとショック。


「じゃあ、魔導研究院の方から調べるしか無いのか」


 そっちの方は全くノーマークだった。今から調べて間に合うか……!?


「ちょっとお待ち下さい。魔導国の単独行動とは限らないのでは無いでしょうか?」


 今まで黙って俺たちの会話を聞いていたハンスが意見してきた。情報通のハンスだから、何か気になることがあるのかもしれない。


「そのアードラー伯爵と言う人物は王国の闇に深く関わっていると噂されていて、人身売買にも手を出していると耳にした事があります。それとは別に王国の人身売買組織では買い主が希望するならどんな人物でも用意できる、とも聞いた事があります。あくまで仮説ですが、もし魔導国が王国の人身売買組織に『天才魔道具師が欲しい』と注文したらどうなると思います?」


「偽アードラーの人身売買組織が魔導国の依頼でマリカという魔道具師を拐いに来て、その時一緒に居たミアも連れて行った、かな?」


「法国諜報部出身のアードラー伯爵であれば、『穢れを纏う闇』を使役する事で簡単に人を拐えますからね。辻褄は合いますね」


 俺たちが結論付けたと同時にマリウスが慌てて俺の所へやって来た。


「殿下! 例の伯爵を探らせていた者から伯爵の屋敷に複数の貴族が集まっていると報告がありました。それと、灰色のローブを着た人物が一週間ほど滞在しているらしいと。もしかして今回の事と何か関係あるのでしょうか?」


「灰色のローブ!? 研究院の人間はいつも灰色のローブを着用していますよ!」


 マリウスの報告を聞いてディルクが慌てて俺に告げる。


「決まりだな! 今からアードラー伯爵邸に向かう!! ディルク、案内してくれ!!」


「はい!」


 ──今度こそミアに逢える!! ミア、待っててくれ……!!




* * * あとがき * * *


お読みいただき有難うございます。


ハンスさんのおかげで今回はすれ違わずにすみました!(笑)


次のお話は

「83 光を目指す者3(ハル視点)」です。


ハル視点続きです。やっとミアと……?なお話です。


近況ノート、Twitterで更新日をお知らせしますので、

どうぞよろしくお願いします!

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