81 光を目指す者1(ハル視点)

 ミアの存在を確認した俺は、直ぐ様王国へ向かう準備を始める。


 まずはナゼール王国に訪問を通達する必要があるので、マリウスに通信の魔道具で「至急の要件で今から貴国を訪問する」とエリーアスへ伝えるように言い、準備を進めていった。


 今回は急を要するため飛竜を使って王国に向かう事にする。それは飛竜に騎乗して移動するのがこの世界で一番速い移動手段だからだ。

 陸路で行くと早くて十日はかかる王国へたった一日で到着出来るのだが、その分かかる維持コストは半端ない。

 それは飛竜が希少だという事、調教できる人間が少ない事、管理をするのが大変な事など、理由を挙げれば切りが無い。ちなみに飛竜便が高いのも同じ理由である。


 自慢ではないが、我が帝国が保持する飛竜の数は世界一だ。

 しかも繁殖にも成功しているので、その数は年々増えていっている。

 最近は他の国も帝国に追随する為に、飛竜を手に入れようと躍起になっていると聞く。飛竜の所有数が軍事力に繋がると言うのに今更ながら気付いたらしい。


 とにかく、我が帝国の優秀な飛竜師団なら最速でミアの元に行けるだろう。

 ついでに王国関係のアレコレも一気にかたをつけさせて貰おうか。





 * * * * * *





 途中休憩の間も惜しんで王国へ向かう。

 飛竜達には頑張ってもらっているので、王国へ着いたら思いっきり労ってやらなければ。


「無理させて悪いな。王国に着いたらご馳走食べさせてやっからな。もうちょい頑張ってくれ」


「キュイ!」


 飛竜の首を撫でながら言うと、言葉を理解しているのか飛竜が鳴き声で答えてくれる。うーん、可愛い奴め。


 俺とマリウスの他、イルマリ達側近三名の合計五人はそれぞれ五頭の飛竜に騎乗し、先行して王国へ向かっているが、他にも物資や食料を積んだ運搬用の飛竜もおり、そこにはランベルト商会会頭ハンスも同乗している。


 しばらくして俺たちは王国の領域に入り、そのまま王宮裏手にある騎士団の演習場へ向かう。そこでエリーアスが飛竜を受け入れるために手筈を整えてくれているらしい。


 演習場に飛竜が着地すると、王国騎士団の精鋭たちが整列して出迎える。王国に飛竜はいないので、騎士たちが物珍しそうに飛竜を眺めているのが見て取れた。


『うわ〜、俺、本物見るの初めてだ……カッコイイ!』


『調教がしっかりしているのか、ずいぶん大人しいな』


 ふっふっふ。そうだろう、そうだろう。我が帝国自慢の飛竜達だからな!


「レオンハルト殿下、お初にお目にかかります。私はナゼール王国王太子マティアス・ノディエ・ナゼールです。ようこそおいでいただきました」


 わざわざ王太子が挨拶にやって来たので、俺も深く被っていたフードを脱いで挨拶する。


「レオンハルト・ティセリウス・バルドゥルだ。突然の来訪にも関わらず、多大なる配慮に感謝する」


 俺がフードを脱いだ途端、周りがザワッとしたけど、やっぱり黒髪って珍しいんだろうな。王国に黒髪の人間はいないらしいし。


 エリーアスも王太子達と出迎えに来てくれていたが、とにかく今はミアの事が最優先だったので軽く挨拶をする程度にし、失礼を承知でランベルト商会へ向かわせて貰う。


 王太子の後ろに丸々と太った女が居たので、誰だと思い去り際にチラッと見ると、なんとびっくりのビッチだった。一体何があったんだと言うぐらい様変わりしていて、思わず笑いが漏れてしまったのは仕方がない。

 人間って短期間であんなに変わるの?っていうぐらい凄かった。


 そして王国から手配された馬を借り、マリウスとハンス、部下達数名と共にランベルト商会へ向かう。王国からも護衛を出すと申し出があったが辞退した。

 恐らく俺は魔法を使うだろう。王国に協力して貰っているとは言え、こちらの手の内を見せる訳には行かないのだ。


 馬を急がせ、商会へ向かう途中もずっとミアの事を考える。


 ──ミアっ……!! どうか無事でいてくれ……!!


 本当は何もかも置いてミアを探しに来たかった。居場所だって手当たり次第に探したかったけど、こういう時ほど落ち着いて行動しなければ余計に時間がかかるという事を理解しているので、今は無理やり感情を抑え込んでいるのだ。


 もうすぐランベルト商会に着くと言うところまで来て、遠目から店の様子を窺うと何か様子がいつもと違う事に気付く。

 以前見た時は賑やかで人に溢れていた店が、今はしんと静まり返っていて、まるで休業している様に見える。


 まさかの休業日か!? 間が悪いにも程があんだろっ!!


「ハンス!! 今日は休業日か!?」


「いや、そんな筈はありませんが……」


 ハンスも店が閉まっている理由がわからないとの事だった。嫌な予感がしたものの、取り敢えずそのまま馬を走らせる。

 様子を見ようと店に近づくと「臨時休業」の張り紙が貼ってあった。しかし店内は全くの無人では無かったようで、ガラス越しで奥の方に従業員らしき人間がいる事に気付いた。


「おや、あれは……!?」


 ハンスが従業員を見て驚いている。もしかして従業員全員の顔を覚えているのだろうか。


「裏口から入りましょう。こちらへどうぞ」


「わかった」


 ハンスの言葉に同意した俺は、馬を部下に任せると、ハンスと一緒に店の裏口に回る。そしてハンスが裏口の鍵を開けて店内に入って行ったので、その後ろをついて行く。

 店内を見渡すと随分と防犯が行き届いているのに気が付いた。しかも情報漏洩対策までガッチガチに固めている。俺の執務室レベルの警戒態勢だ。

 興味津々で店内を眺めていた俺とハンスの気配に気づいた従業員が、かなり驚いた様子で声を掛けてきた。


「誰だ!?」


「お前ディルクだよな? 眼鏡はどうした?」


「えっ?」


 こちらに気付いた従業員は俺より少し年上ぐらいの若い男だった。


「親父!? どうして此処に!? 随分早い到着で……って!! え!? レオンハルト殿下!?」


 ディルクと呼ばれた若い男は俺に気付くと慌てた様子で礼を執る。


「親父!? ハンスの息子!?」


 俺は俺で驚いた。ハンスの息子ディルクは予想以上に若くてキレイな顔をしていたからだ。……お母さん似かな?


「取り敢えず顔を上げてくれ。お前がミアの事を知らせてくれた者か。おかげでミアの居場所がわかったし、ブレスレットも届けてくれて助かった。礼を言う」


 俺が声を掛けると、ディルクの雰囲気が暗くなっていくのを見て、俺は最悪の事態が起こっていると察した。


「まさか……!?」


「……大変申し訳ありません、殿下。ミア嬢と我が商会の魔道具師が何者かに拐われました」


 どうやら一足違いで、既にミアは拐われてしまった後だった。


 ──俺、そろそろキレてもいいよな?





* * * あとがき * * *


お読みいただき有難うございます。


次のお話は

「82 光を目指す者2(ハル視点)」です。


しばらくハル視点が続きます。ご了承下さい。


近況ノート、Twitterで更新日をお知らせしますので、

どうぞよろしくお願いします!

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