80 ぬりかべ令嬢、再会する。
世界を真っ白に染めた光が収まった後、目を開けてみると、辺り一面瓦礫の山になっていた。
……えっ……!? 何これ……何が起こってるの……?
天井は崩れ落ちたのか吹き飛ばされたのか失くなっていて、夜空が視界いっぱいに広がっている。だけど、今の私にはいつも見ていた綺麗な星々がかすれて見え、かなり視力が落ちているんだな、と自覚する。
──あっ!! マリカは!?
こんな状況になってしまったけど、マリカの無事を知りたくて、必死に顔を動かすと、先程見た小さい光の粒がくるくる輪を描いているすぐ下に、マリカが倒れているのがぼんやり見えた。光の粒が先程の光の渦からマリカを守ってくれたのかもしれない。
倒れてはいるものの、さっき見た時と一緒で怪我はしていない様なのでほっと安心すると、少し離れた所から瓦礫が崩れる音が聞こえてきた。
ギョッとしてそちらを見ると、頭から血を流しながら瓦礫から這い出しているアードラー伯爵の姿があった。
「くそっ!! くそっ!! 遠隔の誘導放射かっ!! 帝国の狂犬めぇ!!」
──帝国……? これは帝国の仕業なの……?
驚いている私の気配を察したのか、アードラー伯爵が私の方に視線を向ける。
するとニヤリと嫌な笑みを浮かべ、こちらに向かって歩いて来るのがぼんやりと見えるけれど、今の私は逃げたくても動くことが出来ない。
「おい!! いるか!?」
アードラー伯爵が空中に向かって叫ぶと、今まで何処に居たのか黒いローブに仮面を付けた人物がゆらりと現れる。
──コイツは私達をここへ連れてきた奴……!
「闇のモノを出せ!!」
仮面の人物にアードラー伯爵が命令をしたけれど、突然「うわっ!! こいつらっ!!」と叫び、慌てた様に手を振り回している。
目を凝らすと、幾つかの小さい光が伯爵の行動を邪魔するように周りを飛び交っているのが見えた。
「目障りな精霊共めがっ!!」
……精霊? まさか、あの小さな光は精霊だったの!? でも、どうしてこんな所に精霊が……?
──と、その時、空間が軋むような威圧を肌で感じ、身体が竦む。
「ヒィ!? く、来る!! 奴が来る! お前はコイツを連れて来いっ!!」
アードラー伯爵がそう言うと、仮面の人物が私の腕を掴んで無理やり持ち上げる。
「──っあっ!! っああああぁっ!!」
無理やり動かされた事で、身体に嘗てないほどの激痛が走る。あまりの痛みに意識が朦朧とする。
痛みで私が気絶しそうになったその時────
「────────ミアっ!!」
いつかの夢で聞いた覚えがある、懐かしい、けれど成長した声が私を呼んだ。
──私の名を呼ぶのは……まさか……っ!?
失くしそうだった意識が急激に引き戻される。それと同時に涙が溢れて来てボロボロ零れていく。
痛みと涙でぼやけた目を凝らして声の主を探すと、夜空に幾つもの光を纏った黒髪の男の子の姿があった。
────ハルっ……!!
会いたくて会いたくて、何度も何度も夢に見たハルが、成長したそのままの姿で私の目の前にいる──!!
──ハルっ! ハルっ……!! ああ、本当にハルだ……!!
しっかりとその姿を見たいのに、涙が次から次へと溢れ出てきて、ハルの姿をよく見ることが出来ない。
本当は夢なんじゃないかと思いそうになるけれど、皮肉にもこの体の痛みが、本物のハルがここにいると、今この瞬間が現実だと教えてくれる。
「ミアを離せっ!! <光断>!!」
ハルが叫び、手から白い光芒を放つと、私の腕を掴んでいた仮面の人物の腕を貫通し両断する。
「──!!」
仮面の人物が叫び声をあげている気配がするのに、声は全く聞こえない。しかも私を掴んでいた腕は切断されても血を流すこと無く、溶けるように消えて行く。私の腕には確かに掴まれていた感触があったのに……もしかして人間の身体じゃ無かったの……!?
「くそっ! 詠唱破棄の減殺呪文かっ……!?」
仮面の人物の腕を切り落としたハルの魔法を見て、アードラー伯爵が狼狽えている。
私は拘束が解けたものの自力で立つことが出来ず、支えを失った身体が地面に倒れて行く。襲い来るであろう痛みに、ぎゅっと目を瞑って耐えようとして──何かふわっとしたものに全身が包まれた感覚がした。
そのおかげで私の身体は無様に倒れること無く、そっと置くように丁寧に寝かされる。
勢い良く倒れずに済んでとても助かったけれど、今の感覚は一体なんだろう……?
不思議に思っている私の傍に、いくつもの小さい光の粒が、ふわふわと浮いている。
アードラー伯爵が<精霊>と言っていたけど、もしかして本当に精霊さん達が助けてくれたのかな……?
「あり、がとう……」
精霊さん達にちゃんとお礼を言いたかったけれど、呼吸をするのすら辛くて、声が途切れ途切れになってしまう。これじゃあハルと話す事なんて出来ないかも。
「おい!! お前が偽アードラーだな!? お前、簡単に死ねると思うなよっ!! <光縛>!!」
ハルが叫ぶと手から光を発したけれど、今度は身体を切断する光ではなく、アードラー伯爵の身体を包み込む光だった。
「うおっ!! く、くそっ!! 動けん!! たかが<光縛>のはずなのに!! 何故だっ!?」
「同じ魔法でも俺の魔法はカスタムされてんだよっ!! 念の為足一本いっとくか! <光断>」
再び光が走り、伯爵の左足を貫いた。
「ぎゃあああっ!!」
光によって足首を切断されたアードラー伯爵が悲鳴をあげて倒れ込む。
「ぐおぉおおお!! 痛い!! 痛いーっ!!」
前のめりに倒れたアードラー伯爵は顔面を強打し、鼻血をドクドクと流している。しかし拘束されたままなので、顔を押さえることも出来ずのたうち回っている。
このままだとエフィムみたいに失血死するのでは、と思ったけれど、アードラー伯爵の切断された足からは血が出ておらず、代わりに煙が上がっていた。
どうやら切断と同時に傷口を焼き、血が流れないようにしたみたいだ。これはたしかに痛いだろうな……同情の余地は全く無いけど。
「んん? お前痛いのが好きなんだろ? 今まで散々人間をおもちゃにして痛めつけて来たんだもんな! だからお前には、お前が今まで人に与えてきた苦痛全てを経験させてやるよ! 嬉しいだろ? 楽しみに待っとけ!!」
「…………っ!! そ、そんな…………!」
ハルの言葉にアードラー伯爵の表情が絶望に染まる。「嘘だ……嘘だ……」と呟きながらガタガタ震えている。今まで自分がやって来た事を思い出しているのかもしれない。
そしてハルが空からふわっと降りて来た。
ハルが纏っていた光は精霊さんの光だったようで「助かったよ。ありがとな」と、ハルがお礼を言うと、精霊さん達がすごく喜んでいる雰囲気が伝わって来た。どうやらハルはとても精霊さんに好かれているらしい。
「ミア! もう少し待っててくれ! 先にコイツに止めを刺すからな!!」
そう言ってハルが向かった先には仮面の人物がいた。どうやら隙を見て逃げようとしていたらしく、私から少し離れたところに居たようだ。
地面に光の剣のようなもので刺され、逃げないように縫い付けられている。
「……で、お前は何者だ? もちろん人間じゃないよな? 偽伯爵の使い魔……もしくは式鬼か? まあ、どっちにしろ消滅させるのは変わらねーけどな」
ハルが仮面の人物に問いかけるけど、もちろん答えるはずがなく、ハルが仮面を取ろうと近づいた時、仮面の人物の手に黒い水晶玉が現れる。
──!! ハル……!! 逃げてーっ!!
私の言葉は声にならず、ハルには届かない。
そして仮面の人物が水晶玉を割ろうと、手に力を入れて──
────ダメっ!!
私は無我夢中で魔力を練り上げて、残った魔力全てを仮面の人物に向かって叩きつける。
そして仮面の人物が水晶玉ごと白い炎に灼かれている光景を最後に、私の意識は闇に飲み込まれていった──
* * * あとがき * * *
お読みいただきありがとうございます。
長らくお待たせしました。やっと再会です。
次のお話は
「81 光を目指す者1(ハル視点)」です。
ミアのもとへ辿り着くまでのお話です。
近況ノート、Twitterで更新日をお知らせしますので、
どうぞよろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます