60 ぬりかべ令嬢、練習する。

 従業員全員に配ったお守りブレスレットの評判が良く、お店で売ってみたらどうかと言う話になった。


 お店で店員さんたちが着けているのを見た人から問い合わせが殺到したらしい。


 ……かと言って『聖眼石』の様なモノだったら大問題なので、もっと効果を抑えた「ほんのり」魔除けになる程度のブレスレットを作ってみることになった。

 その調整が難しいんだけど、ディルクさん曰く意識して魔力を制御する事で、魔力操作が上達するから練習がてらやってみるように、と言われたのだ。


 とにかくディルクさんは私に魔力操作を覚えて欲しいみたい。いっぱい迷惑……と言うか、苦労をかけているのでその指示に異論は全く無い。

 それに今は化粧水もマッサージオイルも私の手から離れたので、時間はたっぷりあるし、一石二鳥かも。


 そして私が魔石をお守りにするべく魔力を注ぎ込んでいる傍らで、マリカは集音の魔道具作りに勤しんでいた。

 ある程度の方向は決まっていたので、後は形にするだけだそうだ。


 今回の魔道具は、ぱっと見て魔道具だとわからない物にしようと言う事になり、ブローチタイプになった。

 私の髪の色が変わる魔道具の髪飾りと似た雰囲気にしてくれたので、ブローチとセットみたいでとても可愛く、本当に普通のアクセサリーにしか見えない。

 そしてマリカはシルバーの台座だけど、デザインは私のと同じだからお揃いみたいですごく嬉しい!


 これからは毎日身に付けておこう! 何が有るかわからないしね!

 ちなみに使い方は簡単で、魔石に魔力を通せば集音が開始されるらしい。


 通常は魔道具一つ作るにしても、数ヶ月から数年掛かることはザラで、一日、もしくは数日で作ることが出来るマリカが、言葉は悪いけど異常なのだそうだ。


 マリカは記憶力が桁違いに良いらしく、一度読んだ本の内容はすぐ覚えることが出来るので、アイデアなどを思いついた時、頭の中で記憶したものを検索する事が出来るとの事。

 だから本の内容を確認する必要がないのでその分、時間短縮出来るらしい。

 ……何それ! もう反則じゃない!? マリカ凄すぎ!!


「私からすればミアの方が余程チート」


 マリカの場合は知識を蓄える為に本を読むなど行動をする必要があるけれど、私の場合はイメージすればその通りの効果、もしくはそれ以上の効果を魔法で実現してしまうので、規格外という表現では足りないらしい。


 普通って意外と難しいんだな……うぬぅ……気をつけよう。


 そんな感じでお喋りしていると、集音の魔道具が完成したらしい。

 マリカはブローチ型魔道具を見て、とても満足気だ。


「初めの第一声はディルクの声にしたい」


 そもそもの開発のきっかけがソレだったものね。


「もうすぐここへ来てくれると思うから、その時早速試してみよう!」


 ちなみにディルクさんを驚かせたいので、この魔道具のことは今の所二人だけの秘密だ。


「下手に教えて喋ってくれなかったら困る」


 ……確かに! 納得!


 そしてマリカと二人で、ディルクさん早く来ないかなーとお茶をしながら待つことにした。


 お茶と一緒に、食堂を借りて作ったスイーツを楽しむのが最近の日課だ。

 いつもはディルクさんやニコお爺ちゃん、リクさんが居るけれど、今の研究棟には私とマリカしか居ないので少し寂しい。

 時々ここにアメリアさんも混ざるんだけど、リクさんとの仲が少し進展したのか、よく二人で話す所を見掛けるようになった。


 最近の研究棟は人も増え、賑やかになって笑い声が絶えないから嬉しい、とマリカがはにかむように言ってくれた。

 私もここで働く事が出来たこと、マリカや皆んなに逢えたことがとても幸せだと、マリカに伝え、お互いテレテレとしてしまう。


 そんな恥ずかしい空気を誤魔化すように、持ってきたスイーツを取り分ける。


 今日はゴルゴンゾーラチーズのデニッシュペストリーだ。

 サクサクとした甘いデニッシュに、ゴルゴンゾーラクリームを絞り、ブラックチェリーのコンポートを乗せたデニスさん直伝のスイーツで、目下練習中なのだ。


 ゴルゴンゾーラチーズはブルーチーズの一種で、今までデザートに使われることはあまり無かったそうだけど、デニッシュの甘さとチーズの程よい塩味が絶妙で、私はこのスイーツが大好きだ。


「美味しい……!」


 マリカも気に入ってくれた様だ。……ふふふ。


 実はこのデニッシュペストリー、一度食べると必ずまた食べたくなり、そのうち禁断症状が出てしまう、ともっぱらの噂なのだ。

 ウォード家使用人の間では「禁断の甘味シリーズ」に数えられている。


 その事をマリカに言うと、涙を流しながら「なんちゅうもんを食わしてくれたんや……なんちゅうもんを……」と言って怒られた。ごめんね。


 そうしていると、優しげなドアベルの音が鳴り、ディルクさんが入ってきた。


「マリカ! どうしたの……って、ああ、嬉し泣きだね。スイーツ美味しい?」


 部屋に入ってきたら、突然マリカが泣いていたので驚いたディルクさんだったけど、直ぐに表情の違いに気づいたようだ。


 ……さすがディルクさん! ここまで来たら、もはや達人の域だ。


「……おいちい」


 噛んでしまったマリカが恥ずかしそうに俯いてしまった。あら、可愛い。

 そんなマリカを見るディルクさんの瞳がとても優しくて、ディルクさんの感情の変化が見て取れる。


 ……これは……! もしかして……! 後もう一押し? マリカガンバ!


「ミアさん、僕の分って貰えるのかな?」


 涙を流しながら食べるスイーツが気になったのか、ディルクさんも食べたくなったようだ。


「はい! 勿論です!」


 私はお茶とデニッシュペストリーを用意して、ディルクさんに給仕する。


「……うん、すごい! 本当に美味しい。マリカが泣いていた意味がわかった気がするよ」 


 ……ああ、また犠牲者を出してしまった……。でも幸せそうだからいっか!


 それから三人でお茶を楽しんでいると、ディルクさんに「ミアさんにお願いがあるんだけど」と、声を掛けられた。


「私で出来ることなら、勿論良いですけど……」


「まあ、ミアさんにしか出来ないことかな」


 一体何を言われるのかと思えば、これと言って難しくも何とも無い事で。


「この魔石を『聖眼石』にしてブレスレットを作って欲しいんだ」


 ディルクさんがそう言って取り出したのは、蒼く澄んだ綺麗な魔石だった。





* * * あとがき * * *


お読みいただきありがとうございます。


ミアとマリカのいちゃいちゃ話でした。(違う)

前話とのギャップがひどいかも。


あらあら、ディルクさんが何かを企んでおりますよっと。

その謎は68話で明らかになる……はず!


次のお話は

「61 ぬりかべ令嬢、ちょっと本気を出す。」です。


ちょっとなのか本気なのかよくわからんタイトルですみません。


何時も拙作をお読みいただきありがとうございます。

嬉しすぎて漢泣きがノンストップです。

脱水症状一歩手前ですが、これからも更新頑張りますので、

どうぞよろしくお願いします!

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