54 ぬりかべ令嬢、お守りを作る。

 魔石全てに魔力を注ぎ込む事が出来た。後はこれを皆んなに配れば良いのだけど……。何かが物足りない気がする。


 石一個だけ持つとなると失くしそうだよね、と心配していたらディルクさんが「ブレスレットにしたらどうかな?」と提案してくれた。


 皆んなお揃いのブレスレット! 素敵かも!


 ちなみにディルクさんはずっと研究棟にいる。今は買取カウンターにいると迷惑になってしまうので、他の人に査定を任せているらしい。


「本当は僕が一日中ずっとあそこに居る必要はないからね。毎回<鑑定>を使って査定してる訳じゃないし」


 <鑑定>が必要になるような物が持ち込まれるのは稀との事。だから今はディルクさんが一緒に居てくれるので、マリカはとても嬉しそうだ。


「ブレスレットにするにしても、今ニコ爺は何かと忙しいから、紐を使って編み込む方法で作ってみる?」


 紐で編んで作るんだ! わあ! 何だか楽しそう!


 ディルクさん曰く、何本かのひも状なものを、手で結んでブレスレットにする技法があるとの事。


 今回は魔石を包み込むように紐を編んで台座として、それに革紐を通して作るとシンプルで男性が身に付けても違和感がないそうだ。女性には革紐では無く、チェーンに通してペンダントにしても良いし、好きなように出来るらしい。


 取り敢えず人数分を、私、マリカ、ディルクさん、リクさんの四人で作る事に。

 何本かの紐を固定して編んで行くんだけど、これが中々難しい。

 二つの結び方を交互に繰り返して魔石を包める長さに編んだら、石がグラグラしないように、しっかりと引き締めて結んだら台座の完成!

 更に編み進めて組紐のブレスレットにしても可愛いし……悩んじゃう。


 初めは無言で編んでいた私達だけど、慣れて来たらおしゃべりをする余裕も出てきて、どんどん編み上がっていく。

 必要数出来上がったので、それぞれ一つずつ好きなように作ることにした。

 私がどうしようと考えている間にマリカはどんどん編み上げて、シンプルで格好良い編み目のブレスレットを完成させると、ディルクさんに差し出した。


「ディルク、私が編んだブレスレットだけど付けてくれる?」


 ディルクさんはマリカが完成させたブレスレットを見ると、嬉しそうに受け取ってくれた。


「ありがとう、嬉しいよ。大切にするね。お礼というか交換になるけど、マリカには僕が編んだブレスレットをあげるよ。ちょっと他とは編み方を変えてみたんだ」


 そう言ってマリカさんに差し出したブレスレットは、立体的な模様で編み込まれていてとても可愛いかった。しかも編み目の間に小さい天然石がいくつか付いている。ディルクさんって器用! ……って言うか、いつの間に……!


 ……これって初めからマリカにプレゼントするつもりだったのでは……?


 真っ赤な顔をして受け取ったマリカは、嬉しそうにブレスレットを眺めると、愛しそうに指で編み目をなぞってから、ディルクさんに「嬉しい……絶対大切にする」と言って微笑んでいた。


 ……もはやこの空間は二人の世界になっている。……はわわ!

 微笑み合う二人を見ると、私も心がほっこりする。 良かったねマリカ!!


 そんな二人の様子を見ていたリクさんは、自分の編んだブレスレットをじっと見てから何か考え込んでいる。もしかしてリクさんも……?


 リクさんがアメリアさんを意識しているのは知っている。リクさんが編んだブレスレット、アメリアさんは喜ぶだろうな……。

 アメリアさんが喜んでいる姿を思い浮かべると、私も何だか嬉しくなった。


 ──そうだ! 私もハルに作ってあげよう。いつ逢えるかわからないけれど、いつかきっと渡したい。


 そして私は「ハルを守ってくれますように」と祈りながら、ブレスレットを編んだのだった。




 * * * * * *




 ブレスレットの作成も終わり、一息ついた頃にまた国立魔道研究院から面会依頼が来たと連絡があった。


「……やれやれ。研究院も必死だなあ。マリカどうする? 僕だけで面会しても良いんだよ?」


 ディルクさんがマリカを気遣うけれど、マリカは面会するつもりらしい。


「大丈夫。今度は私がはっきりと断る」


 マリカはぐっと拳を握り、気合を入れて面会に挑んで行った。


 もう以前のマリカと違い、自分の言葉で断るのだろうけど、相手がそう簡単に諦めてくれるかが問題だな、と心配になる。

 才能は元より、今のマリカはとても魅力的だと思う。ハニートラップの人が今のマリカを見たら、ミイラ取りがミイラになりそうな予感がする。


 大丈夫かな、とハラハラしながらマリカ達を待っていると、予想よりもずいぶん早くマリカが戻って来たので驚いたと同時に安心した。

 でも帰ってきた時のマリカの表情が……まるで夢心地?の様で、何だか顔が赤くぼーっとしている。


「マ、マリカどうしたの!? 大丈夫? ディルクさんはどうしたの?」


 私が声を掛けると、マリカはまるで夢から覚めたようにハッとすると、今初めて私の存在に気付いたようだった。


「あ、ミア……」


「研究院の人に何かされてない? <浄化>してあげようか?」


 私の言葉にマリカはぎょっとしてブンブン首を横に振って「いらない! 平気!」とブルブル震えながら断ってきた。……本当に燃える訳じゃないのにな。


「それで、どうしたの? ディルクさんは?」


 私がディルクさんの名前を出すと、またマリカの顔が真っ赤に染まってしまった。一体何が……!?

 私が疑問に思っていると、マリカが頬を染めながらポツリと呟いた。


「ディルク……格好良かった……」


 マリカに面会の時何が有ったのか聞いてみると、どうやらマリカに断られて激高した研究員をディルクさんが一言で黙らせ、今後の面会も許可しないと断言して相手を追い出してくれたらしい。


 あの温厚なディルクさんからは想像も出来ないけど……その研究員は何か地雷を踏んでしまったのかもしれない。

 普段怒らない人を怒らせるととても怖いという事を再認識させられました。


「じゃあ、もう研究員の人が来る事は無いんだ。良かったねマリカ」


「うん」


 一つの懸念事項が無くなってマリカはとてもスッキリとした表情をしていた。

 また寝る時にでもディルクさんの話を詳しく聞いてみよう。楽しみ!


 そんな事があり、また襲撃があるかもと警戒していたものの、結局その日は何事もなく過ごす事が出来た。

 でもここで油断は禁物だろう。お化けは一体も逃がすわけには行かないのだ!



 そして次の日、完成したブレスレットは従業員全員に配られ、受け取った人は皆んな喜んでくれた。何だか制服(?)の様で、連帯感を感じるのだろう。


 一仕事終えたような達成感に浸っていると、とても嬉しそうなアメリアさんがやって来た。腕にはリクさんが編んだブレスレットが。

 リクさんがディルクさんに編み方を教えてもらいながら編んだものだ。


「ミアちゃん! お守りの石ありがとう! もう私嬉しくて……!!」


「良かったね、アメリアさん!」


 アメリアさんは全身で喜びを表現していてとても幸せそうだ。綺麗な人だとは思っていたけど、今日は更に輝いている。


「リクさん、とっても真剣に編んでいましたよ。すごく愛が籠もっていると思うので、大切にしてくださいね」


 ちょっといたずら心がくすぐられ、コソッとアメリアさんの耳に囁いたら、アメリアさんの顔がカーっと真っ赤に染まり、めちゃくちゃ照れていた。


 マリカもアメリアさんも幸せそう……。その様子を見て私は頬が緩む。


 好きな人と想いが通じ合う──なんて幸せな事なんだろう。


 ──ハル……。 


 目を閉じて思い出すのは、七年前から変わらないハルの笑顔。


 きっと、今は身長も伸びて男らしくなっているだろうな。大人っぽくなって、とても格好良くなっているかもしれない。


 ハルを思い出し、彼の瞳のような、澄んだ青い空を見上げたら、ふいに涙がこぼれ落ちた。


 ──ハルを想うだけで涙が出てくるなんて。


 数え切れないほど、ハルの夢を見た。夢なら覚めないでと何度も願った。


 逢えない時間が経てば経つほど、想いが募っていく。

 繰り返し繰り返し、ハルとの思い出を支えにして生きてきた。


 眩しいあの笑顔を見るために、これからも私は生きていく。

 きっとハルに繋がっているだろう、この青い空の下で。





* * * あとがき * * *


お読みいただきありがとうございます。


そろそろミアの我慢も限界のようです。

早くハルに会わないとぷっつん来そうです。


次のお話は

「55 怒り(ハル視点)」です。


久しぶりのハル視点です。

ハルの好物、納豆が何者かに盗まれた!?

キレたハルの炎が宮殿を焼き尽くす!!

犯人もろとも焼き尽くそうとするハルにマリウスが取った手段とは!?(嘘予告)


予告が好きと言ってもらえたので調子に乗りました。すみません。

次話もどうぞよろしくお願いいたします!

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