53 ぬりかべ令嬢、お化け退治を決意する。

 マリカの部屋が荒らされ、研究棟の結界が壊された事で、皆んなで犯人の目的や正体について話し合う。


「部屋に居ないマリカを探して研究棟にやって来た賊は、ミアさんの<聖域>に阻まれて研究棟に入ること叶わず退散した、と思うんだけど……皆んなはどう思う?」


「ワシもディルクの仮説と同じ事を考えておったわい。……しかし、その賊が何者かが気になるのう」


「単独犯じゃ無いよね〜きっと」


「誰かに依頼されたか、組織的犯行か……」


 部屋に充満し、ドアノブに触れるだけで手が爛れてしまう瘴気、そして<聖域>に触れて弾かれたような黒い泥のようなもの。

 これらのことを考えて思い浮かぶのは──。


「あの……お化けとかの可能性は……?」


 私の土魔法は土地を浄化すると聞いた。そして清められたところは不浄なモノを追い払ったり寄せ付けなくするとも。

 研究棟の周りの惨状に、本当にお化けが来たのかも知れないと思うと、ぞわぞわと鳥肌が立つ。


「うーん、お化けの方がまだ可愛いかも知れないよ?」


 ひぃ!? ディルクさんが恐ろしい事を言ってる!?


「相手が『穢れを纏う闇』──不浄なる闇のものだとしたら、普通は厄介」


 マリカまで!?

 ……でも「穢れを纏う闇」って? 聞いた事がなくて首を傾げる私にディルクさんが説明してくれる。本当に物知りだなあ。


「よく闇属性と間違えられるんだけどね、闇だからといってそれが悪いものかと言うと、全てがそう言う訳では無いんだ。一般的な闇は光が無い状態の事を言うからね」


 闇は自然的な意味ではなく、悪と結び付けられる事が多いので誤解されやすい属性なんだそうだ。

 でも今回の賊は死・疫病・血などから生じた永続的・内面的汚れ──目に見えない汚れである「穢れた」存在である可能性が高いとの事。

 その「穢れ」を身に纏い、忌まわしい不浄な事象を敢えて悪用するものを「穢れを纏う闇」と呼ぶらしい。


「穢れや不浄を祓うのは神聖な力でないと無理なんだ。だから普通なら追い払うのも一苦労だけど、ここにはミアさんが居るだろう? 君はその賊にとってはここで唯一の天敵だよ」


 私が天敵……!? 私しか対抗出来ないと言うのなら、力の限り滅ぼそうではないか! ……だってお化けが怖いから!!


 ……って、私も最近考え方が物騒になってしまった気がする……うーん。


「もしマリカが何時も通りあの部屋に居たらと思うと……恐ろしくて血の気が引く思いだよ」


「ほんに、無事で良かったわい。しかし凄い偶然が重なったもんじゃのう」


「ホントだよ〜。こんな事ってあるんだねえ〜」


 ──魔法のベッドで寝るために私の部屋に居た事、たまたま私が土魔法で結界を張っていた事、研究棟が無人だった事──。


 確かに、何か一つでも違っていたらマリカは連れ去られていた可能性が有るんだ……改めてそう思うと身体が震えてくる。


「ミアのおかげ。ありがとう」


 マリカが私の手をぎゅって握ってくれて、その手から伝わる体温にとても安心する。


 ああ、マリカが無事で本当に良かった……!


「安心するのはまだ早いよ。その賊がまだ健在かも知れないし、もし誰かの依頼を受けての事だったら再び襲ってくる可能性が高いからね」


 研究棟の周りは焼け焦げた痕と泥のようなものがあったけど、それが賊の果てたものだとは限らない、と言うのがディルクさんの見解らしい。


「マリカを狙う人間に心当たりは……」


「それが心当たりが多すぎてね」


 ですよねー。マリカさんはあちらこちらから引っ張りだこの天才美少女だものね。


「でもまあ、ある程度予測することは出来るかな……」


「え! ディルクさんはもう犯人がわかったんですか? 何処の誰ですか? マリカはもう大丈夫ですか?」


 思わず興奮してディルクさんを質問攻めにしてしまい、マリカに「ミア、落ち着いて」と窘められてしまった。


「うーん。まだはっきりとは言えないけれど、取り敢えず守りを固めたほうが良いかも知れないね。ミアさん、もう使うなと言っておいて申し訳ないんだけど、もう一度ここに<聖域>を掛けて貰って良いかな?」


「はい! わかりました!」


 ディルクさんにお願いされなくてもやるつもりだったので、私は早速魔法を発動させる。イメージは「堅牢な砦」だ。

 悪意有る穢れたものがここへ入ろうとすれば、聖なる劫火が焼き尽くす……みたいな?


 いつもよりヤル気に溢れた私は、何重にも魔法を重ねがけする勢いで術を発動させた。


「……うわぁ」


「エゲツない」


 ディルクさんとマリカが何か言っているけど気にしない! 穢れは清めねば!


「でも、これはこれで安心だね。お化けどころか悪魔や魔王でも侵入が難しそうだよ」


 ディルクさんからお墨付きを貰えてようやく安心する。この中にいれば安心だろうけど、ここに住む訳にはいかないから、寮の方にも同じ様に魔法を掛けようかな。


「ミア、寮の方にも魔法を掛けようと思ってる?」


「うん。どうしてわかったの?」


「今のミア、この世の穢れ全てを祓いそうな勢いだから」


 ……う。さすがに世界中は無理だと思う。でも、そんなに勢いあったかな?


「ミアさん、寮にも魔法を掛けようとしてくれるのは非常に有り難いけれどね。対象の建物が大きいと法国……教会の人間に見つかってしまうんじゃないかな」


 ……はっ! そうだった! ハルに逢えるまで大人しくしておかないと!


「商会の従業員に『護符』を持たせるのは?」


「なるほど。それならまだ大丈夫かな」


 ディルクさんとマリカが何やら相談しているけれど、『護符』ってどうやって作るんだろう?

 私がそう思っていると、ディルクさんがリクさんに声を掛けて、二人で奥の方へ行ったかと思うと、いくつかの箱を持って帰ってきた。


「これ、魔道具用の魔石の在庫なんだけど、取り敢えずこれを『護符』に使おうか」


 『護符』は紙に限ったものではなく、骨、金、石、木、布なども使われるらしい。


 そして私はディルクさんに「この魔石に魔力を注いでみて」と言われ、渡された魔石を握り込む。


 イメージは「聖なる眼」。悪いものに対して睨みを効かし見逃さず、災厄や穢れから身を守って、加護を与える……みたいな。

 そんな感じで魔力を注ぎ込むと、ふわっと魔石が光を放った。


「もう驚かないつもりだったけど……! 今度は『聖眼石』か……!」


 魔石を視たディルクさんが何故か悔しそうにしていたのが謎だけど……。

 でも、また物騒な名前が付いたものになってしまったようで……コレ、使って大丈夫なのかな?


「……はあ。気になるだろうから説明するとね、これは『聖眼石』と言って、最上級の守り石だよ。石の中で層になった光が回転しているよね? それがまるで眼の様に見えるからこの名前が付いたんだ。『破邪の神眼』とも言うね」


「最上級ならお化けが来ても大丈夫ですね! なら、ここの魔石全部変えちゃいますね!」


 そう言って私は張り切って魔石を『聖眼石』に変えていった。


「ミア、お化けに容赦ない。それオーバーキルや」


 マリカが何か言っていたけれど、『聖眼石』作りに必死な私の耳には届かなかった。




* * * あとがき * * *


お読みいただきありがとうございます。


ミアはとにかくお化けが嫌いです。

昔ミアのパパが絵本の読み聞かせで臨場感たっぷりに熱演してくれた為です。


ちなみにディルクが悔しそうなのは、もうこれ以上驚かないぞ!と意気込んでいたのに、呆気なく撃沈したからです。


次のお話は

「54 ぬりかべ令嬢、お守りを作る。」です。


皆んなでお守り作りです。


どうぞよろしくお願いいたします!

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