45 不安1(マリカ視点)
魔導国から国立魔道研究院の研究員がやって来た日からディルクの様子がおかしい。
研究員との面談の時はやたらと魔導国行きを勧められるけど、私が頑なに断り続けていたから、最近はディルクから進んで断ってくれていたのに。
だから私がここを離れる気は全く無いと言う事を、ディルクが理解してくれているのだとてっきり思いこんでいたけれど、どうやらそれは勘違いだったらしい。
「でもマリカはああいう人が好みなの? いつもと反応が違っていたから、そうなのかなって」
ディルクが言うああいう人とは、初めて来た若い研究員の事だろう。
どうしてそう言う事を言うのだろう? いつもと違う反応というのがわからなくて困ってしまう。ディルクに夢中だったから周りをよく見ていなかったのがいけなかったのだろうか。
「ここの事は気にしなくて良いんだよ? マリカがやりたい様にして良いんだからね? マリカは十分商会に貢献してくれているんだから」
私は私のやりたい様にやっている。ディルクの傍に居たいから、研究院以外の所から来る勧誘も全て断っている。
商会への貢献と言うけれど、それはただの結果でしか無い。私は商会の為ではなくディルクの役に立ちたかったからだ。
「行かない」
首をふるふると横に振って、私の意思を伝えているけれど。
「そう? なら良いけど。やりたい事が有ればちゃんと言うんだよ。僕が出来ることなら協力するからね」
私はディルクの傍に居られればそれだけで幸せだ。ディルクが私を見てくれればそれ以外は何もいらないのに。
──ディルクにとって、私はもういらない子なの?
ふとそんな事を思い浮かべる。
ミアさんの新商品のおかげでランベルト商会は安泰だ。もう私が魔道具を開発する必要が無いぐらいに。
そうなれば私の存在価値などディルクにとっては皆無だろう。ディルクだっていつまでも私の面倒を見る必要はないのだ。
──いつまでも成長しない私はいつか、ディルクに見放されてしまう──
これは昔から懸念していた事だった。
知識だけは増えたものの、感情を上手く表すことは相変わらず苦手なままで。
これは性格なので仕方ないかもしれないけれど、せめて身体だけでも成長してくれたら良いのに。
そんな事をずっと考えていたからだろう、私の様子がおかしいと心配してくれたミアさんとアメリアが、女子会を開こうと声を掛けてくれたのだ。
私を心配してくれる二人の気持ちが嬉しくて、勿論参加する事にした。
女子会──これは以前幻に終わったパジャマパーティーの事なのかな? だったらすごく嬉しいな。
* * * * * *
そして女子会の日になった。仕事が終わって準備が出来たらミアさんの部屋に集合だ。
私は手土産にフルーツがてんこ盛りのジュレを持ってミアさんの部屋へ向かった。ミアさんの部屋は同室の人間がいないので、気兼ねなく集まれるらしい。
ミアさんは料理を用意して待ってくれていた。とても美味しそうで、気軽につまめそうだ。
アメリアが飲み物を用意してきてくれたので、グラスなど準備して女子会がスタートした。
初めはアメリアが色んな話を聞かせてくれた。アメリアの話は面白い。
それから段々と恋愛方面の話になって、ミアさんもハルの事をアメリアに聞き出されていた。
「え! 七年も会っていないの? それなのにずっと思い続けているなんて……!! 健気だわ!!」
本当にそう思う。しかもたった一日程しか一緒にいなかったのに。
獣人の間に伝わる「番」や「運命の伴侶」みたいなものだろうか。
それにミアさんの想い人、ハルの執着も相当なものだ。「皇環」を意中の相手に渡すのは、国よりも何よりも大切なのだと言う意思表示になる。
ミアさんはあの指輪が「皇環」だと知らずに受け取っているけれど。でも気持ちは同じぐらいハルを想っているんだろうな。
……そんな事を思いながらおつまみをいただく。うわー! 美味しい! 手と口が止まりません。
「好きな人がいるんだけど、なかなか言えなくて……」
おや。アメリアが恋バナ始めましたよ。
「アメリアさんが好きな人って、ジュリアンさんですか?」
「あ゛?」
アメリアが怒ってる。美人が凄むと怖いよね。
「どうして私があんなナルシストを好きになるのよ!!」
確かにジュリアンのナルっぷりには女の子達は皆んな引くけれど、でもジュリアンはとても良い奴だ。あのナルっぷりも一つの持ち芸だと思うと結構楽しいのに。
見た目が綺麗だから別の意味で損してるのよね。
「私ずっとね、リクが好きなんだぁ」
アメリアが切なそうに呟いた。
ああ、やっぱりそうか。実は何となくわかってたからミアさんみたいに驚かない。
アメリアとリク……二人が並んでいる姿を想像してみる。うん、見た目的にも性格的にもとてもお似合いじゃないか。
アメリアは一見、気が強そうだから人によく頼られているけれど、本当は人に甘えたいタイプだ。その点リクはボーッとしていて頼りなさげだけれど、芯はしっかりしているし、とても優しくて包容力もあるし。それに意外なことにスパダリだ。
それにリクの方も、アメリアが研究棟に来た時は妙に落ち着きが無くなるから、かなりアメリアを意識しているのだろうな、と言うことが解る……って言うか、わかりやすい。
リクは普段顔が見えないようなボサボサの髪の毛をしているから、私やディルク、ニコ爺しか知らないだろうけど、素顔はすごく美形なのだ。
たまたま素顔を見る機会があったから知っているけれど、初めて見た時は驚いた。勿論リクの素顔を知らないアメリアはものすごく驚くだろうな。
優しい二人はお互いを思いやり、支え合って行くのだろう。
「二人はお似合い」
思わずポロッと言葉が溢れてしまい、それを聞いたアメリアが大喜びする。
「ホント!? マリカがそう言ってくれるなんて! すごく嬉しい! ありがとうマリカ!!」
一度言葉が溢れてしまうともう止まらない。
「羨ましい」
自分の感情を素直に表現できる二人が。
どうして私はこうなんだろう、と思うと情けなくて、涙が溢れてきた。
「マリカさん!?」
「マリカ!?」
私の涙に慌てたアメリアとミアさんが慰めてくれるけど、私の涙は止まらない。
「私も大きくなりたい」
もうすぐ十五歳になるのにいつまでも成長しない身体。
「こんな身体ヤダ……」
アメリアのようにキレイで大人の色気が漂う、艶っぽい女性になりたかった。
ミアさんのように生命力に溢れる花みたいに、美しく成長していきたかった。
「マリカ、少しずつでも良いから、どうしてそう思うのか教えて?」
アメリアが私の頭を撫でながら優しく問いかけてきた。その優しい声色に、更に涙が溢れてくる。
私は泣きながら、一つ一つ言葉にしていく。辿々しくなってしまって時間がかかったけど、二人は急かすこと無く、じっと聞いてくれた。
色々吐き出したけれど、何よりも一番イヤなのは、私の身体が成長しないから、いつまで経っても恋愛対象として見てもらえないことだ。
そしてディルクがモテている事、ディルクを本気で好きな子が多いと聞いて、脳裏にディルクが見知らぬ女の子と親しげにしている場面が浮かぶ。
「やだ……」
私はディルクじゃなきゃダメで、ディルクじゃなきゃイヤなのに!
そんなにモテているディルクだけど、女の子達からの誘いは一切断っている、とアメリアは私に教えてくれたけど。
「それにマリカに向ける笑顔と、お客さんに向ける笑顔は全く違うわよ? それはマリカもわかっているでしょう?」
……それは解っている。ディルクはいつも優しく笑いかけてくれる。
「でも妹かも……」
いつもその考えが頭から離れない。私の身体がこのままでは、スタート地点にも立てないのだ。
私がそう思っていると、ミアさんが何か思いついたように提案してきた。
それは、ミアさんの土魔法の成長促進効果をベッドに付与する事、生命力を増大させる効果がある「聖膏」を塗布する事。
初めての試みで検証も何も出来ないけれど、ミアさんの力は規格外だ。もしかすると何かの効果が期待出来るかもしれない。もし効果がなかったとしても、出来ることは全てやってみたい。
そして私はミアさんにお願いする事にした。
* * * あとがき * * *
お読みいただきありがとうございます!
次のお話は
「46 不安2(マリカ視点)」
女子会のマリカ視点その2です。
ちょっとだけ調子を取り戻したマリカさんです。
どうぞよろしくお願いいたします。
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