43 ぬりかべ令嬢、チートを使う。

 ──私の土魔法に成長促進の効果があるのなら使ってみよう!


 そう思い立った私はアメリアさんとマリカさんに思いついた事を説明する。

 私の部屋はちょうどベッドが一つ空いている。このベッドを囲むように土属性の魔法を掛けるのだ。イメージは「開花」。固い蕾だった花が、綻ぶようにゆっくりと花開く様はとても美しいだろう。


 そしてこのベッドで寝ると、成長に大切なホルモン──成長ホルモン・甲状腺ホルモン・女性ホルモンの分泌が促される様にするのだ。


 私の提案に二人が同意してくれて、早速空いているベッドに魔法を掛ける。


 ──どうか、マリカさんが美しく、本来あるべき姿へ還りますように。


 私が魔法を掛けると、ベッドの周りを花緑青色の光が美しく輝き、上へ立ち昇るように光ると、ぱあっと弾けるように粒子となって消えていった。


 ……成功したのかな? 


 魔法を掛けた後のベッドを見ても、以前との違いは特に見当たら無かった。けれど、ベッドを見たマリカさんが「すごい……」と言っていたので何かの効果は付与されたはず!

 後は「聖膏」だ。これには生命力を増大させる効果があったから、これでマリカさんの身体をマッサージすれば更に効果が上がるかも。

 マリカさんに「マッサージするから、ここに寝て下さい」と言ったけど、ちょっと戸惑ったようで、「アメリアから」と言われてしまった。

 ああ、そう言えばアメリアさんに一番に使ってもらうと約束していたっけ。


「え!? 私からで良いの?」


 アメリアさんがすごく乗り気になっているので、私のベッドで施術する事に。


「私の場合、魔法のベッドで寝てこれ以上成長したら困るから」との事。確かに。


 お義母様やグリンダには毎日のようにマッサージしていたけれど、こうやってお友達にするのは初めてだ。綺麗になって貰えるように頑張ろう。


 薄着になってもらったアメリアさんに、火魔法で手を温めてから「聖膏」を使ってマッサージしていく。

 しばらくすると、グリンダ達と同じ様に、アメリアさんの身体から黄色い靄みたいなものが立ち昇っては消えて行くのが見えた。以前から気になっていたし、マリカさんならわかるかな、と思って”視て”貰った。


 そしてマリカさんの説明をまとめると、黄色い靄みたいなものは体の中に有る不要なもの──老廃物や毒素、脂肪を<聖火>で浄化した時に出るものらしい。

 不要なものを浄化し、体の土台を整えたところに「聖膏」で生命力を与え、潤す。

 そうしてアメリアさんの施術を終えたんだけど……。


「わあ! すごい!! 吹き出物が無くなってる! 肌がしっとりすべすべ! しかも体のラインが引き締まってる!! 最近食べ過ぎでウエストがかなりヤバかったのに……!!」


 どうやら効果抜群だったようだ。良し! 大成功!


「ちょっとミアちゃん! これすごいマッサージオイルよ!! これも販売するのよね? やだ、また貯金できないじゃない!」


 アメリアさんはもうマッサージオイルを買う気満々だけど、一体どれだけ使い込むつもりなのだろう……恐ろしい。


「オイルだけではこの効果は出ない」


「え!?」


 マッサージの効果でるんるんと喜んでいる音が聞こえそうなアメリアさんに、マリカさんから鋭いツッコミが。あ、アメリアさんが崩れ落ちた。


「そんなあ〜……」


 ションボリしてしまったアメリアさんが余りにも悲壮な表情だったので見ていられず……。時々マッサージしてあげる約束をしてしまった。


「本当!? 嬉しい!! ありがとうミアちゃん!!」


 ……復活してくれたから良しとしよう。


 そう言えばお義母様やグリンダがあんなに食べても太らなかったのって、<聖火>のマッサージ効果だったんだ。

 じゃあ、今もあんな生活していたら……。いや、もう関係無いか。頭を切り替えよう。


 そして次はマリカさんの番だ。マリカさんには魔法のベッドで施術を行うので、少し緊張している様だ。

 恐る恐るベッドに近づき横になるマリカさん。


「温かい……不思議」


 初めは緊張していたマリカさんだけど、横になってすぐ緊張が解れた様で、今はリラックスしている。


 そしてアメリアさんと同じ様にマッサージして行くと、暗い濁った色をした大量の靄が粒子となって消えていくのが見えてびっくりした。

 これにはマリカさんも驚いた様だ。


「今のは一体……!?」


 今の靄は私とマリカさんだけに見えたようで、アメリアさんは「何々?」と戸惑っていた。


「呪詛……まるで呪い」


 マリカさんが言葉を零す。


 生まれた時からマリカさんを蔑み、疎んで暴言を吐き続けた負の感情──<悪意>が、長い時間を掛けて泥のように澱み、呪いのようにマリカさんを蝕んでいたのだろう。もしかしてその影響がマリカさんの成長を心身ともに阻害していたのかもしれない。


 マリカさんが、自分の身体を確かめる様に眺めた後、私の方へ振り向いた。

 でも何だかマリカさんの雰囲気が……さっきとはまるで違う……?


「浄化されたみたいに心がスッキリしている……ありがとう、ミアさん」


 そう言ってマリカさんは、雪解けの清らかな水が大地を浄める春の訪れのように──今まで見た事が無いような顔で、とても綺麗に微笑んだ。




* * * あとがき * * *


お読みいただきありがとうございます。


次のお話は

「44 ぬりかべ令嬢、友だちができる。」です。


ちなみにミアが使った魔法などのもう少し細かい説明は

女子会のマリカ視点で書いてます。


どうぞよろしくお願いします!

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