42 ぬりかべ令嬢、女子会に参加する。2

 意外な人物の名前が出たことに驚いていると、「文句あるの!?」と睨まれた。


「研究棟に遊びに行くのは、勿論ミアちゃんやマリカに会いたいっていうのも有るけど、リクにも会いたいからなの」


 なんと衝撃のカミングアウト! 全く気付かなかった。


「リクさん、とても優しい人ですものね。まだ研究棟に入って日も浅い私にも力を貸してくれましたし」


 愛用している髪色を変える髪飾りを作るのに、寝る間も惜しんで協力してくれたし。

 私がそう言うとアメリアさんも「そう! そうなのよ! リクはとっても優しいの!!」と力説されてしまった。お、おおう……。


 話を聞いたところによると、このお店に入って間もなくの頃、実家から持って来ていた大切なオルゴールを誤って落としてしまったアメリアさんは、リクさんにお願いして直して貰ったらしい。


「小さい頃から持っていたオルゴールでね、価値が有るわけじゃないんだけど、私にとってはとても大切で宝物だったの。でもオルゴールの修理ってとても難しいらしくて、諦めていたんだけど……」


 アメリアさんが昔を懐かしむように話してくれた事によると、オルゴールの事をディルクさんに相談してみたら、すごく腕のいい修復師だとリクさんを紹介してくれたんだそうだ。


「リクが修理してくれる事になったんだけど、その頃は働き出したばかりだったし、正直お金が無かったから修理代が心配でね。リクにその事を話したら『大丈夫だよ〜』って。あののんびりした口調で言うもんだから、本当に大丈夫か心配になっちゃったわ」


 確かにリクさんはいつものんびりと仕事をしているものね。でも仕事はすごく丁寧で、確かな技術を持っている。だからその筋ではかなり有名らしいとディルクさんも言ってたっけ。


「でもやっぱり心配で、一度修理をしている所を見に行ったんだけど……すごく真剣に修理をしている姿が格好良くて……。しかも、その時の修理代は『就業時間外にした事だからいらないよ〜』って……」


 その時のリクさんの顔を思い出したのか、頬を染めながらアメリアさんがうっとりとした表情になる。うーん、色っぽい。これが大人の色気ですね。


「リクさん、顔はよくわかりませんけど、背も高いし足も長くて、良い身体していますものね」


 マリアンヌ曰く細マッチョ? だっけ? 筋肉モリモリじゃなくて服の上からではわからないけど、実は腹筋が割れてるという。

 腹筋はさすがに見たことないけど、結構重そうな荷物もヒョイッと担いでるし、腕まくりした腕から見える筋肉も綺麗だし……と思っていたらアメリアさんが怒り出した。


「もう! ミアちゃんずるいずるい!! 私もリクの格好良いところもっと見たいのにー!!」


 ええー……。


 アメリアさんにずるいと怒られながら、しばらく惚気に付き合わされてしまいました……何故?


 ちなみにその間ずっと、マリカさんはおつまみを食べ続けていましたよ。気に入ってくれて嬉しいな。


 それからしばらく、私はアメリアさんの惚気を散々聞かされていた後、今度はマリカさんがぽつりと呟いた。


「二人はお似合い」


 それを聞いたアメリアさんは大喜びだ。


「ホント!? マリカがそう言ってくれるなんて! すごく嬉しい! ありがとうマリカ!!」


 背が高めでスラッとした美人のアメリアさんと、背が高くて細マッチョ(?)のリクさんが並ぶ姿を想像してみた。うん、お似合いだ。


「羨ましい」


 マリカさんがまたぽつりと呟いたかと思うと、大きな紅い瞳から涙がポロポロと零れ落ちた。


「マリカさん!?」


「マリカ!?」


 私とアメリアさんが慌ててマリカさんの傍に行く。私はハンカチで涙を拭き取り、アメリアさんは頭をよしよしと撫でる。しかしその間もマリカさんは泣き続けては言葉を零す。


「私も大きくなりたい」


「こんな身体ヤダ……」


 マリカさんの悲痛な言葉に胸が痛くなる。それはアメリアさんも同じで。


「マリカ、少しずつでも良いから、どうしてそう思うのか教えて?」


 アメリアさんがマリカさんに優しく問いかける。すると、マリカさんは一つ一つ教えてくれた。


 曰く、

 マリカさんはディルクさんの傍に居たいのに、魔導国行きを勧めること。

 マリカさんが魔導国へ行かないのはランベルト商会に義理立てして遠慮していると思っていること。

 マリカさんが先日来た研究員の事を好きだと勘違いしていること。


 ──何よりも一番イヤなのは、自分の身体が成長しないからいつまで経っても恋愛対象として見てもらえないこと。


 マリカさん、本当にディルクさんが好きでたまらないんだな。でも、ディルクさんは本当に恋愛対象としてマリカさんを見ていないのかな? この前、面会後に機嫌が悪かったのはヤキモチを焼いたのでは? と思うんだけど。


「私が見てる限りじゃあ、ディルクもマリカに特別な感情を持っているはずよ。ただ、一見マリカが幼いから無意識に感情をセーブしているんじゃないかしら?」


 アメリアさんの話によると、ディルクさんは結構人気があるらしく、ディルクさん目当ての女の子達がよくお店に来るらしい。

 ディルクさんはとても優しくて人当たりもいいので、ディルクさんと関わる人はその人柄に惹かれるそうだ。


「ジュリアンのファンはどっちかと言うと見た目で好きっぽいんだけど、ディルクの方は結構本気っぽい子が多いのよね」


 ジュリアンさんも気さくで優しいのに、見た目の印象が先行してしまうのかもしれない。


「やだ……」


 ディルクさんがモテていると聞いてマリカさんが不安になったようだ。またポロポロと泣き出してしまい、アメリアさんが慌てて慰める。


「ごめんね! 不安にさせたかった訳じゃないの! そんなにモテるディルクだけど、誘いは全部断っているらしいわよ?」


 女の子達からよく誘われているディルクさんだけど、いつもやんわりとお断りしているそうだ。


「それにマリカに向ける笑顔と、お客さんに向ける笑顔は全く違うわよ? それはマリカもわかっているでしょう?」


 マリカさんがこくりと頷いた。

 確かに、ディルクさんがマリカさんに向ける笑顔はとても優しい。とても大切な、まるで宝物を見るような笑みだ。


「でも妹かも……」


 特別は特別でも肉親の方の特別だとマリカさんは思っているらしい。

 何かきっかけが有れば変わるのかもしれないのに、この状況がもどかしい。いっその事、マリカさんが成長して年相応の見た目になれば……ん? 成長?


「余り考え込まないで、またこうやって女子会を開きましょう? 今日はもうお開きにして寝る? ほら、『寝る子は育つ』って言うじゃない」


 何かが繋がりそうな私の耳に、アメリアさんの言葉がヒントになった。


 ──そう言えば私の土魔法は成長促進の効果があったっけ……これは使えるかも?




* * * あとがき * * *


お読みいただきありがとうございます。


次のお話は

「43 ぬりかべ令嬢、チートを使う。」です。


マリカのために敢えてミアが能力を使います。

どんな能力かお楽しみに!


本日19時に更新しますので、どうぞよろしくお願いします!

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