40 マリカ頑張る2(マリカ視点)

 魔道具も完成して一段落したので、以前から作ろうと企んで……いや、発案していた音を保存する魔道具を作ろうと思ったその時、私に来客があったと告げられた。


 その来客とは、以前から私に魔導国の国立魔道研究院に来ないかと誘ってくる連中なのだが、正直とても面倒くさい。いくら好条件を提示されても無駄だと言うのに。


 いつもなら多忙なのでと断るけど、奴らは変に権力を持っている。無碍に出来ないのが辛いところだ。

 仕方無く商談室へ向かうと、途中でディルクが私が来るのを待っていてくれた。ヤダ! 早く会えて嬉しい! 好き!


「マリカ、忙しいのにごめんね? 相変わらずしつこくて、本当なら僕だけで対応したかったんだけど」


 私を心配してくれてるの? いやーん! 優しい! 好き!

 ディルクの為に割く時間なら無限にあるのよ? むしろ私はディルクの為に生きてるから!


「大丈夫」


 だから心配しないでね! ちゃんとお断りするからね!


 私に誰かが面会に来る時は何時もディルクに付いていて貰っている。その方が話がスムーズに進むからだ。


 べ、別にディルクと一緒にいたい訳じゃ無いんだからね!


 ……って、すみません。嘘つきました。何時も一緒にいたいです。出来れば四六時中くっついていたいです。


 私は気合を入れて商談室に向かう。何となくディルクが緊張している気がするけど……真面目な顔をしたディルクも素敵!

 そんなディルクを堪能しつつ部屋の前に着くと、ディルクがドアをノックして開けてくれた。紳士! カッコいい! 好き!


 商談室に入ると、国立魔道研究院の制服でもある灰色のローブを着た男の人二人が待っていた。


「お待たせしました」


 私達に気付いた二人がこちらを見る。一人は何時も来る副院長だけど、もう一人の人は初めて見る顔だ。


「こんにちは、マリカさん。お忙しいところ申し訳ありません。今日は我が研究院の中でも優秀な者を連れて来たんですよ。彼はエフィムと言って、まだ若いですけど将来有望でね。研究院期待の星なんです」


 副院長が横に座っていた青年? 少年? を紹介してくれた。


「初めまして、エフィムと申します。天才と名高いマリカさんにお会いできて光栄です」


 そしてエフィムがにっこり微笑んだ。私も「マリカ」と言って一応挨拶をしたのだけど……この人何だか妙にキラキラしい。随分自分の顔に自信がお有りのご様子。


「エフィムは年齢もマリカさんに近いし、話が弾むのではないかと思って。彼から我が研究院について話を聞いてもらえたら、マリカさんもきっと興味が湧いて来ますよ」


 副院長がニコニコ笑顔で提案してくる。いくら勧誘しても私が首を縦に振らないから、今度は色仕掛けで来たのだろうか? だとしたら失礼にも程がある! チェンジだ、チェンジ! その程度の面で私が靡くと思われていると思うと腸が煮えくり返るわ!


「こんなに可愛い子が噂の天才魔道具発明家だなんて驚きだなあ。僕にもマリカさんのお話を聞かせて欲しいな」


「帰れ」


 ……って言えたら楽なのに。そんな時間あったら集音の魔道具制作の続きやるわ! 邪魔すんなボケ!

 しかしディルクの手前そういう訳にも行かず……ここはじっと耐えるしか無いか。


 それからしばらくはそのエフィム?とか言う奴と副院長の、「魔導国はこんなに素晴らしいでショー」が開演された。二人のトークショー状態だ。


 こんなのに付き合わされて時間の無駄だなあ、ディルクも暇じゃないのに申し訳無いなあ、と思いチラッとディルクを見ると、私の視線に気付いてふっと微笑んでくれた。

 ……うおぉぉぉぉ!! イイ! ディルクの微笑みイイ! 微笑み一ついただきましたー! あジャース!!


 無駄と思える時間もディルクと一緒にいられる時間だと思えば全く苦にならなくなった。ディルク効果しゅごい。

 それに今日はいつもより距離が近い気がするわ……ほのかに隣からディルクの体温を感じるし……しかも何だか良い香りもするような……クンカクンカ。

 ここで深呼吸出来たら思いっきりディルクの薫りを吸い込んで体中ディルクで満たすというのに……口惜しや……!!


「……と、言う訳なのですよ。魔導国の素晴らしさをご理解いただけましたか?」


 あー、ハイハイ。今脳をフル稼働してディルクの匂いを記録してるから邪魔すんな。

 私はこくこくと頷いて返答した。はー。もっと吸いてぇ。


「……! では、魔導国にお越しいただけるんで!?」


 興奮する副院長の声に「ん?」となる。あ、ヤベ。話聞いてなかった。

 何のお話をしていたんだっけ? ディルクを堪能していたから全然聞いてないや。と思っていたらディルクが私に問いかけた。


「マリカは魔導国に行きたい?」


 んなわけ無い。私が行きたいのはディルクの腕の中だ。あ、でもそうなったらショック死するかも。今度こそヴァルハラ行きだ。それはヤバイ。心臓鍛えなきゃ。今からでも間に合うかしら。


「行かない」


 即答した私に研究院の二人はガッカリしたようだ。あれ? なんか期待させちゃった? なら申し訳ない。


「本人もこう言っておりますし、何分研究で忙しい身ですので、どうぞお引取り下さい」


 ディルクがキッパリスッパリザックリと断ってくれた。キャー! ディルクカッコいいー! 素敵! 抱いて! いやマジで! ホンマに。


 研究院の二人は「また来ます」とか「マリカさん、またね」とか言ってたけど、ディルクにうっとりしていた私の耳には全く入ってこなかった。


 もう二度と来んなって思うけど、こうやってディルクから庇われるとたまには来ても良いのよ? と思ってしまう私は重症なのかもしれない。……今更だけど。




* * * あとがき * * *


お読みいただきありがとうございます。


全くブレないマリカさんでした。

結局ディルクの勘違いでしたが、本人は知る由もなく。


次のお話は

「41 ぬりかべ令嬢、女子会に参加する。1」です。


恋のお悩み相談回です。


どうぞよろしくお願いします。

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