39 マリカ頑張る1(マリカ視点)

 私はここ最近悩んでいた。それはどうやってディルクに異性として見て貰うか……げふんげふん。間違えた。


 やり直し。


 私はここ最近悩んでいた。それは最近研究開発部に入ってきた新人、ミアさんについてだ。

 彼女は素晴らしい才能を持っていた。そしてその才能を活かし、世の女性全ての憂いを払拭する化粧水を生み出したのだ。


 その化粧水の人気は留まるところを知らず、今は予約がいっぱいで一ヶ月待ちだという。しかしこれでも驚異のスピードで提供しているのだ。ミアさんが作ればあっという間に完成するけれど、その化粧水を入れる為の肝心のガラス瓶の生産が追いついていないのだ。これはさすがに盲点だった。

 契約している工房もガラス瓶の生産が追いつかず悲鳴を上げているらしい。ガンバ!!


 そんな大人気の化粧水は最早ランベルト商会の看板商品だ。しかしその看板商品はミアさんあってのもの。彼女無しでは作れない──それが問題なのだ。


 ミアさんがここにいる間は良いけれど、いつか彼女はここを離れるのはもう決定事項となっている。……とても寂しい事だけど。

 化粧水を大量に作り置き出来たとしても、この人気状態なら三ヶ月も経たずに在庫切れになってしまう。

 もし化粧水の販売を停止すれば、下手をすると暴動を起こしそうだ……主にアメリアが。

 そんな事になって一番困るのは、私が愛して止まないディルクなのだ。愛しの彼が苦しむ姿なんて見たくない私は、どうにかしてミアさんの化粧水を再現する方法を考えた。


 そしてミアさんに協力してもらい、化粧水を作るところを何回か見せてもらって判ったのは、生成方法がどうとかではなく、聖属性が付与されているかどうかだった。

 四属性の術式は現在も意欲的に研究されているし、論文や出版物もあるので私でもある程度は理解しているけれど、聖属性についてはそもそも属性を持っている人間が居ない。もし居たとしても法国がガッチリと囲い込むので、今まで誰も研究することが出来なかったのだ。

 だけど今、私の目の前にはその希少な聖属性を持っている人がいる。私は研究者の端くれとしてこの機会を絶対に逃す訳にはいかない。


 しかし聖属性は全くの未知の分野だ。術式どころの話ではない。聖属性は火・水・風・土の四属性のように、自然現象ではないからだ。

 ──聖属性を解明することは即ち、神の領域に踏み込むという事。

 そんな大それた事が私に出来るとはとても思えない。けれど、どうしても私は化粧水が作れる魔道具を完成させたかった……それは我が愛するディルクの為に……!!


 だけど、どうやって聖属性を再現するかが問題だ。どうしたものかとぼーっとしていると、ふとミアさんが例の指輪を眺めているのが目に入った。

 あらあら、ミアさんったらハルのことを思い出しているのね……純愛だわ。でもそんなに握り込んじゃったら、また石がアップグレードしちゃうわね……と思ったところで閃いた。

 

 ──ミアさんに魔石持たせたら属性付与されるのでは?


 月輝石を天輝石に進化させたミアさんなら、もしかすると魔石が聖魔石に変化するかもしれない!

 そうとなれば善は急げだ。私はミアさんに魔石を渡し、肌身離さず持ちつつ時々魔力を通すようにお願いした。


 それからしばらくして魔石を見せて貰ったら大当たり!! 見事に聖属性が付与されていた!! 私すごい!! ディルクは褒めてくれるかな? ご褒美はプロポーズでオナシャス。

 とにかくこの魔石に四属性の術式を書き込めば、ミアさんの魔法を再現できるはず。


 そうして試行錯誤したものの、無事に化粧水生成魔道具が完成した。さすがに効能はミアさんの化粧水には劣るけれど、薄めた状態のものとほぼ同じレベルの化粧水を作ることが出来る。


 これで何とか化粧水の安定供給の目処が立った。


 魔道具の完成をディルクに早く伝えたくて、普段は行きたくても行けない買取カウンターへ足を伸ばした。私にとってはここは聖地!

 まあ、ディルクがそこに居るならどこでもサンクチュアリでヴァルハラだ。


 買取カウンターで仕事をしているディルクを物陰からこっそりと見る。


 ……はぁ。カッコいい……!


 このまましばらく鑑賞会と意気込みたかったけれど、そこはぐっと我慢した私エライ。

 そしてディルクの元へ向うと、私に気付いたディルクが笑顔で……!!


「マリカどうしたの? ここに来るなんて珍しいね」


 …………くっっはー!


 もうね、私、死んだと思いましたよ? ホントにヴァルハラに来たのかと思っちゃいましたよ? でも生きてた! そうよね、死んじゃったらもうディルクを見ることが出来ないんだもの!! そんなの生きるしかないよね!!


 興奮冷めやらぬまま魔道具の完成をディルクに伝えると、それはもう大喜びで褒めてくれた。ディルクが喜んでくれて私も嬉しい。

 ご褒美で何か欲しいものが無いか聞かれたけれど、「それはあなたです!!」と言える度胸もなく……。

 結局いつものように辞退する事になってしまったのは残念だ……ぴえん。


 とにかく、この魔道具が有れば、ミアさんは気兼ねなくハルに会いに行けるだろう。

 彼女はとても優しいから、化粧水の供給が出来ないことを気に病んで、ずっとここに居ると言い出しかねない。


 頑張ってきたミアさんには何としても幸せになって欲しい。

 その為にはハルともう一度再会する必要があるのだから。




* * * あとがき * * *


お読みいただきありがとうございます。


安定のマリカさんです。

しかしディルクとマリカのアメリアさんへの認識が酷い。


ちなみに今回は1、2とお話を分割したので少し短いです。

…って言うか、いつもが長すぎなのでしょうか?

毎回長くて読みづらかったらすみません!


次のお話は、

「40 マリカ頑張る2(マリカ視点)」です。


37、38話の答え合わせ回みたいな感じです。

お楽しみいただけたら嬉しいです。


どうぞよろしくお願いします。

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