32 それからの侯爵家
ユーフェミアが出奔した朝、いつものようにダイニングへやって来たジュディとグリンダは、いつも居るはずのユーフェミアが居ないことに気付き、執事のエルマーに問いただした。
「エルマー、ユーフェミアはどうしたの?」
「はい、ユーフェミア様は朝になっても姿をお見せになられておりません。恐らく部屋に籠もられているのでは無いかと思われます」
エルマーの言葉にジュディとグリンダは驚いた。
「どうしてそれを早く言わないの!! 早くユーフェミアを連れて来なさい!!」
「そうよ! 何よそれ、サボりじゃないの!」
「恐れながら、朝はご自身で起きられるまで起こさぬよう命じられておりましたので」
二人の剣幕にも老練の執事は全く動じずに飄々と言ってのけた。その言葉にジュディはぐっと言葉に詰まる。朝に弱いジュディは起こされるのが嫌で、自分が起きるまで部屋に入るなと使用人達に言い聞かせていたからだ。
「と、とにかく! 早くユーフェミアを連れて来て! 婚約準備があるんだから!!」
「承知しました」
エルマーが姿を消した後、ジュディとグリンダは早速食事に取り掛かった。朝食だか夕食だかわからないメニューが何時も通り大量に用意されている。
マッシュルームとポテトのオムレツに仔羊のグリエ、フォアグラのポワレとオマール海老のナージュ……朝から食べるにはかなり重いメニューだが、ジュディとグリンダはそれらの料理をぺろりと平らげた。
そこへユーフェミアを呼びに行ったエルマーが戻ってきたのだが、彼にしては顔色が悪い。
「ユーフェミア様の部屋を確認しましたところ、お荷物が全て無くなっておりました。どうやら出奔されたのではないかと」
「なんですって!! 一体どういう事!? どうして誰も気付かなかったのよ!!」
エルマーからの報告を聞いたジュディが使用人達を睨み叱責する。しかし使用人達は微動だにしない。逆にジュディ達を責めるような雰囲気だ。
そんなジュディ達と使用人達が睨みを利かせる場に、女中頭のダニエラが使用人達を庇うように間に入る。
「ユーフェミア様は婚約が決まったことに大変ショックを受けられたご様子でしたので。そっとしておいた方が良いかと判断いたしました」
遠回しに婚約の事を非難されたジュディは逆に開き直り、ダニエラ達を責め立てた。
「貴族の娘たるもの、家の為に望まぬ結婚でも受け入れるのが当たり前でしょう! 一生結婚が出来そうにないあの子に相手を見つけて来てあげたのだから、感謝してほしいぐらいだわ!!」
その貴族令嬢のユーフェミアを使用人のように扱っていた事は棚に上げてジュディがふてぶてしく言い放つ。
その言葉は使用人達の怒りの火に油を注ぐ事になるのだが、傲慢なジュディはそんな気持ちに気づこうとすらしない。
「お母様、そんなに怒っては美容に良くないわ。眉間にシワが出来ちゃうわよ」
グリンダがその場を諌める様に口を出したが、勿論本人にはそんなつもりが全く無い。ただ単に早く王宮へ行ってマティアス達にチヤホヤされたいだけだ。
「それにユーフェミアの事なんて放っておけば良いのよ。行く宛なんて無いんだから、今日にでも帰ってくるわ」
確かに、ほぼ屋敷に閉じ込められていたユーフェミアが外で知り合いを作っていたとは考えられない。金品は全て取り上げているし、金目の物を持たないユーフェミアはすぐに路頭に迷うだろう。
「そうね。一時の気の迷いよね。帰ってきたらどんな罰を与えてやろうかしら」
ジュディ達はユーフェミアがすぐ帰ってくると信じて疑わず、何時も通り過ごしていった。
以前はユーフェミアにやらせていたマッサージなども、ダニエラを筆頭に優秀な使用人達の手で施術されれば、些細なことも気にならなかった。
いつもと違うマッサージオイルや化粧水も、使用していた物が無くなったので、これを機会に気分転換も兼ねて商品を変えてみたと言われるとすんなり納得した。
そうしてユーフェミアが居ない状態で、今まで通りの暴飲暴食生活をしていたジュディとグリンダに少しずつ変化が現れ始めていた。
* * * あとがき * * *
お読みいただきありがとうございます。
二人へのざまぁはこれからです。徐々に追い詰められます(多分)
次回のお話は
「33 落ちていく母娘」です。
どうぞよろしくお願いします。
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