第二章 パスジル奪還編

第一話 オウル

シャウルは旅の準備を済ませた後、今からやることを整理した。

この旅の目的・・・大海アルンの海底都市ダラスに囚われているパスジルを救出し大樹ヨルフ様のもとへ連れて帰ること。

これからすること・・・

一、海底都市ダラスへの行き方の聞き込み(ヨルフは知らなかった)。

二、海底都市ダラスの発見。

三、パスジルを捕らえている者とパスジルの引き剥がし、あわよくば討伐。


念のため頭の中で思い浮かべたことを大樹の知恵に日記のようにして書き残しておいた。

まずシャウルはユニユル(巨犬)にまたがり人間の街オウルへとユニユルを走らせて行った。シャウルがオウルに向かった理由はヨルフ様がオウルの王がパスジルを海底都市の調査に行かせたということは海底都市への行き方を知っているだろうと言っていたからだ。シャウルの家はコスローの森の中で大海アルン側の外れにあり、オウルに最短で着くにはオウルの南東を塞ぐ大きな山脈を越えなければならない。ここからオウルへ行くにはシャウルの足で走って二日かかるが、今回は巨犬ユニユルもいることなので一日でつければなどということを考えながら、ユニユルに手を触れて、北東の方角へと念じると、ユニユルは凄まじい速度で走り出した。前方から来る風をまともに受けているとはじき出されると思い、姿勢を低くして、速度を落としてと念じると、ユニユルの速度は風が気持ちいいほどになった(これでもシャウルが走るときの二倍は速い)。

一日でつければと思っていたが、これくらいなら半日ほどでつけそうだ。シャウルはコスローの大森林を横目にひたすら走って行った。


半日後


ユニユルはその後止まることなく走り続け、半日で山脈の頂上についた。シャウルは山脈の頂上から見たオウルの変わり用に言葉も出なかった。オウルを取り囲むように高い壁が地平線の果てまで建てられ、よく見るとシャボン玉のような透明で巨大なバリヤがオウル全体を包み込んでいる。ファボールの復活を確信して戦闘態勢になっているのだろう。オウルの魔術師たちの魔術を使った建築技術が高度であるとは聞いていたが、ここまでとは知らなかった。

シャウルはとりあえずユニユルを走らせ、山を降り、オウルの城門へ向かった。途中通りかかった村々はバリヤには覆われていなかったが、ひと気は完全になくなり静かになっている。城門前に着くと城門の上の見張りがシャウルに聞いてきた。

見張り「名を名乗れ。」

シャウル「私は森の賢者シャウルです。王に話があってきました。」

見張り「証明しろ。」

シャウルはそう言われて少し驚いた。以前オウルに来たときにはこんなことは聞かれなかったのだ。

シャウルは仕方なくそこらへんに生えていた雑草に賢者の魔力を注ぎ込み雑草を急速に成長させて、小さな木にして見せた。

見張り「中に入れ」

見張りがそう言うと、一部バリアが解けて、城門がガラガラと音を立てながらゆっくり開いた。

ユニユルに乗ったまま中に入ると賑やかな城下町が広がっていた。案外中はまだ戦闘体制ではないようだ。見張りに案内されるまま五百メートルほど直進すると大きな黒い城が立っている。大樹ヨルフほどではないが高く立派な城だ。城は左右と中央の三つの建物に分かれていて、中央が最も大きく左右は中央よりもひと回り小さい。城の門はシャウルの身長の三倍はある。そして中央の建物の最上階の部屋のオウル全体を見渡せそうな大きなベランダからオウルの王がシャウルを見下ろしている。


王「待っていたぞシャウル。中へ入れ。」

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