第11回「ボス」

 これは、自分が…正確には自分の母親が飼っていたボスという名前の犬が死んでから数日後にあった実話です。




 ボスとの出会いは15年ほど前でした。


 とあるつてで個人のブリーダーが子犬の引き取り手を探していると聞いた母が、是非とも引き取りたいということでうちにやって来た犬、それがボスでした。

 ボスという名前は自分が付けたもので、見た目の雰囲気から名付けました。


 ボスは、母が家を留守にする際に自分と共に過ごした思い出や自分の兄との思い出、そして、当時はまだ幼かった自分の姪や甥とも忘れられない思い出がある記憶に残る犬です。


 番犬として家を守り、共に遊んだり、姪や甥が階段から転げ落ちたところを背中で受け止めたり、ボスの記憶は楽しいことばかりです。


 そして、最後は少しだけ悲しい思い出です。


 その日、共に出掛けていた母と自分が夕方に帰宅すると、ボスは泡を吹いて虚ろな目で舌を目一杯に出して苦しそうに倒れてました。


 母はパニックになっていました。


「早く病院だよ!兄貴か誰かに車出してもらって!」


 自分は母にそう指示をし、急いでボスを動物病院に連れていきました。

 ボスを診た動物病院の先生はでこう言いました。


「何時間も前に死んでいてもおかしくなかった状態です。恐らく、先は長くないでしょう。安楽死もありますが…」


 しかし、自分達はボスの安楽死は選択しませんでした。

 ボスがは医者も自分も誰もわからないけど、自分がボスの安楽死を選ばなかったのは、ボスがのはと精一杯頑張ってくれていたからだと思ったからです。

 自分達が安楽死を選択せずに手を尽くしてもらった結果、ボスはというところまで回復しました。

 それどころか、1週間後にはヨタヨタとした足取りではあるものの自分で歩けるくらいに回復してくれて、ボスは再び家にことが出来ました。

 その時、自分はボスに心の中で何度もこう言いました。


「ボス。あの日、帰るまで死なずに頑張ってくれてありがとう。辛かったよな?にしてごめんな。死んだ状態で見つかるなんてことに本当にありがとな。」


 何回か直接言ったと思います。

 それをボスが言葉を理解できるかどうかではなく、自分が勝手にからでした。

 帰宅してからのボスは、以前のように活発に動くことは出来なかったものの、オムツを着けた状態で、部屋の中を這うようにして楽しそうに歩き回っていました。

 そこから2~3週間近くはそうやって以前のような姿を見せてくれました。

 そして、最後は朝早くに息をひきとり、ボスは母が看取ってあげました。

 自分は全く泣きませんでした。

 自分にはがボスの寿命で、この1ヶ月に満たない最期の日々はだと思えたので、泣きませんでした。

 母を、自分を、兄達を、姉を、姪達を、甥を、義姉達を、みんなを笑顔にしてくれたボスが残したまで笑顔という贈り物をくれたので、笑顔で送りたかったからです。

 自分は、心の中でそっと最期の別れをしました。


(ボス…今までありがとう。お疲れさま。ボスのことは一生忘れないよ。)


 その数日後、ボスの埋葬を終えました。


 そして、それが起きたのはさらに数日後のことでした。


 その日、自分は長年悩まされていたになりました。


「ううう………………ううう………」


 その日の金縛りは半覚醒状態の物とは違うものでした。

 自分は、この日から5~6年前に金縛りになりそうだったとき、金縛りになる直前に瞼を開いたら姿を見たことがあったのですが、その日は、その時とのやつが頭から50~60センチほどのところに立っていました。

 5~6年前に見たものは目の錯覚だと思っていましたが、全く同じ風体のやつが出てくるのは不気味で、自分はかなり嫌でした。


「ううう………」


(助けてくれ!)


「くうう………」


(誰か!助けてくれ!)


 自分は、いつもの半覚醒状態の金縛りの時と同じで、声を出しているつもりが全く出ていませんでした。

 ただひたすらにの自分を相変わらず、女のような影が立ったまま見下ろしている気がしました。


 その時でした。


「うくうう!…うぅ!…うううううっ!」


(うわっま…ボス…ちょっと待っ)


 自分は、胸の上にを、顔にを感じていました。


「うう!……うぅうううっく!」


(まて!……ボスやめろって!)


 金縛りの最中、死んだはずのボスが自分の胸の上に乗り、と言うように顔をと舐め回していました。


「おい!どうした?大丈夫!?」


 その声で金縛りは終わりました。

 それは、自分のうなされている声が壁越しに聴こえ、心配した母が自分の部屋のドアを開けながら掛けてきた言葉でした。


「……はぁ…………はぁ………」


「…なにやってんの?どうした?」


 自分は廊下の電気あかりを背にした母が目に入り、さっきの女の様なシルエットがことに気がつきました。

 同時に自分は母に説明をしました。


「いま………ボスきた……ボスが助けてくれた………」


「なに……どうした?」


 自分は母に今さっきまで金縛りにあっていた事、最期にはボスが自分の顔をベロンベロンと舐めてくれたので怖くなくなったと正直にいいました。


 するとは母すんなりとそれを信じました。

 その理由は、今日はうなされ方が半端じゃなくて、たまにある半覚醒状態のときのの時とは全く違うのでと思ったのと、母自身が子供の頃に自分の父親が枕元に立った経験があったからでした。


 その日を境に、自分の半覚醒状態の金縛りは一切起こらなくなりました。

 ボスが死んでから10年くらいが経っていますが、一度も金縛りになってません。

 こんなこと言うのはみたいでおかしいですが、自分はあの夜にボスがを持っていってくれたんだと信じたいです。

 たまに『あの日、出掛けなければ…』と思うこともありますが、獣医の話では『ボスの血の混ざり方(親犬同士の犬種の相性)ではかなり長生きです。大切にしていたんですね。』ということだったので、後悔はしていません。


 最後に、自分がみたいなモノを確りと感じたのは、最初がこの話の途中に書いてある女のような影で、次が「瞳」のアレ、最後がこのボスの時です。

 第1集「瞳」で書いたように自分には霊感というものは一切ないと思います。

 たまに不思議なことは起きますが、それは霊感は関係ないと思います。


 それと、ボスはいつも階段の一番下の辺りに居たのですが、そこは今でもにボスの臭いがすることがあり、普段は霊を鼻で笑う自分も、これに関してはと勝手に思ってます。


 直近で臭いがしたのは、8月に入って直ぐの夕方でした。



 2020/08/08/19:01

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