第9回「眼鏡」

 眼鏡している人に言いたい。

 寝るときには絶対に眼鏡をまま寝るな!

 仰向けでスマホを弄っていてしそうになっても、必ず眼鏡を外してから寝ろ!

 そうしないと俺みたいな目にあうからな…




「こら!眼鏡をかけたまま横になるんじゃない!」


「へ~い。………ったく、横になってゲームやるなだの眼鏡をまま横になるなだの、ばあちゃんも結構細かいこと気にするよなあ…」


「なんか言ったかい!」


「いやなにも言ってないよ!座ろっかなあ~って言っただけ。」


(ばあちゃん、いつも耳が聞こえないって言うけど聞こえてんじゃん)


 これは一昨年の夏のことだ。


 俺のうちは毎年お盆になると、墓参りとかとかで、泊まり込みで田舎のばあちゃんに行くことになっている。

 ばあちゃんはじいちゃんが亡くなってからはずっと一人暮らしで、うちの家族も頻繁に顔を見に行っているけど、泊まり込みは毎年お盆と正月だけだ。

 ちなみに田舎というのは、母ちゃんの田舎のことで、父ちゃんのほうは大分前に二人とも亡くなっている。


「…そう言えば、ばあちゃん。何で眼鏡かけたまま横になっちゃだめなの?」


「なんだお前、気になるのかい?」


「そりゃ少しは…だって理由もなく眼鏡かけたまま横になるなと言われても、眼鏡してないと俺なにも見えねえし。」


「そうさね…じゃあま、話してやるかね。」


「………」


(こんな真剣な顔したばあちゃんは珍しいな)


 俺は固唾を呑んでばあちゃんの説明を待った。


「良いかい?よく聞くんだよ?…眼鏡をかけまま横になること、それ自体は別に構わないさ…ただ、もしそのまま寝ちまったら大変なことになるんだよ…………………」


「…………………えっ!終わり!?え?ばあちゃん、それだけ?」


「ああ、これだけだよ。」


「いやいやばあちゃん、そんくらい俺だってわかってるよ。眼鏡をまま寝ると寝返りとかしたときに、もし眼鏡が割れちゃったら危ないからだろ?」


(こんな当たり前の理由で昔から何度も何度も怒られたのか…)


 俺はばあちゃんの説明に拍子抜けしていたが、ばあちゃんはまだ真剣な顔をして俺に話をした。


「そういうことじゃないんだよ…眼鏡をかけたまま寝ると、かけている眼鏡が寝ている間にことがある。そんで、起きたときに稀にことがあるから、絶対に眼鏡をかけたまま寝ちゃならねんだ………」


「………」


(なにそれ?オカルト?)


 俺はばあちゃんの説明の意味がわからなかったが、自分のことをと呼ぶ気の強いばあちゃんが、よくわからないオカルトの様なものを真剣な顔で語るのが不思議でならなかった。


「…とにかく、眼鏡をかけたまま寝ちまわないように、もう横になったまま眼鏡をかけちゃダメだ。わかったかい?」


「あー…うん、まあ一応。…じゃなくて、わかった!ばあちゃん。」


 中途半端な答え方をするとばあちゃんに怒られるので、俺はすぐに言い直した。


「ふん…まあいいさね。ちゃんと覚えておくんだよ。」


 それから4日後…

 一昨日、ばあちゃん家から帰ってきた俺は、夏休みが残り2週間程となり、月末は中学最後の夏の思い出を作ろうってことでと遊ぶ約束をしていたため、今のうちに宿題を全て終わらせようとしていた。


「あー、疲れた……もうほとんど終わらせたし少し休憩するかな。」


 独り言を呟き、俺は横になってスマホを取り出した。

 外はまだ明るかったが、段々と夜の暗さが迫ってきていた。


(…そう言えば、母ちゃん達遅いな。夕方になったら帰るって言ってたけど、そろそろ5時半なのにLI○Eすらこねえな。まあ別に良いけど。)


 この日は父ちゃんのお盆休み最後の日にも関わらず、午後になって急に父ちゃんが、家からちょっと離れた場所のショッピングモールに行こうと言い出し、俺も行くかと誘われたが、俺は宿題を済ませたかったし、暑い中で人が多いところに行くのは嫌だったから二人だけで行ってもらった。


「ふわぁ~あ……コイツらのやることももう飽きたな。最初はバカやってんなと思って笑えたけど、いつも同じようなことして騒いでるだけだからなあ……」


 俺はをしながら見ていたユーチューバーの動画に、最近つまらなくなったな、とコメントを送った。

 そして、気づかないうちに俺はそのまま寝てしまっていた。



「……ううん……んあぁー……ん?………っ!!!」


(!!!!!)


 転た寝うたたねをしていた俺が寝ぼけ瞼を開けると、があった。

 あまりのことに声を出すことも動くことも出来ず、俺は瞼を閉じることも忘れ、目の前にあるままだった。

 そして、自分が眼鏡をかけたままだったことに気づき、あの時ばあちゃんが言ったことを思い出していた。


『…眼鏡をかけたまま寝ると、かけている眼鏡が寝ている間にことがある。そんで、起きたときに稀にことがあるから、眼鏡をかけたまま寝ちゃならねんだ…』


(……これかあ……この事だったのかあ……ばあちゃん…………)


 俺がばあちゃんのことを考えている間もずっとそのと俺の眼はまま逸らすことをしなかった。


「ただいまー!ゴメーン、帰り道が混んでて遅くなっちゃったー!も私もスマホケータイの電池切れちゃってさー。ほんとゴメンねー!お腹減ったでしょー?美味しい弁当ごはん買ってきたから降りてきてー!」


 どのくらいそうしていたのか分からないが、玄関のほうから母ちゃんの声が聞こえて俺は飛び起きた。

 もう8時を過ぎていた。

 部屋は既に真っ暗で、俺は起きてすぐ部屋の明かりでんきを点けた。


「…んはぁ~~~……ヤバかった……マジヤバかった……何だよあれ……マジか……」


 俺はばあちゃんの言うことを守らずに眼鏡をかけたまま寝ていたことを後悔していた。


「ちょっとー!寝ちゃったの~!?早く来ないとアンタの分も食べちゃうわよー!」


「………今いくー!」


 俺は段々と頭がくると、自分がさっきまでになっていた部屋に一人でいることが怖くなり、母の呼ぶ声に答え、急いで居間へ行った。

 そして、家族三人で飯を食べているときに自分の身に起きたことを話した。


「…ぷっ!あはははは!…アンタそれ、が眼鏡のレンズに反射して見えていただけよ。勘違いよ、勘違い。ほんとバカね~、アンタは。あははは。」


「あんまり笑うなよ、。可哀想だろう。」


「ははは…ふぅー……だってアナタ、この子もう中3なのに幽霊おばけ出たって、笑うしかないでしょ…ぷっ……」


「あー、もー、分かったよ。どーせ俺はヒビリだよ!くそ、母ちゃんいないところで父ちゃんにだけはなしゃ良かった。」


「あはは、ごめんごめん。でも、私が居るとこで話して良かったじゃない。こうして直ぐに幽霊おばけじゃないって判明したんだから。感謝しなさいよ♪」


「はいはい…どーもありがとーございました。」


 俺の話を聞くなり大笑いする母ちゃんに少しムカついたが、俺は母ちゃんの言葉を聞いて安心した。

 確かに眼鏡のレンズに自分の眼が映ることがよくあるからだ。


 飯を食い終わった後、居間で家族三人で軽く話をして、風呂に入ってから部屋に戻ろうとした俺を、未だにニヤケ顔をした母ちゃんが『だいじょーぶ?一人で寝れる?お母さんが一緒に寝てあげよっか?』などと小バカにしてきた。

 俺はそれを軽くって部屋に戻り、また横になってスマホを弄っていた。


(何だよ……結局、今見ている光景が、部屋が暗かったから怖いと思っただけかよ……)


「はあ~、ばあちゃんが余計なこと言うから無駄にビビって母ちゃんにバカにされたじゃねえかよ……正月に会ったら絶対ゼッテーばあちゃんに文句いってやる。」


 ぶつぶつと愚痴をこぼしながら夜中までスマホを弄っていたが、段々と眠くなってきた俺は部屋の明かりでんきを消して寝ようとした。


 部屋の明かりでんきを消した時、俺はに気がついた。



 明かりが全くない暗闇の部屋の中で、眼鏡のレンズに反射した自分の眼が見えるハズがない…

 そもそも、真っ暗な状態でレンズが何かを反射するわけがない…



 俺は部屋の明かりでんきを点け、残った宿題をすることにした。





























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