第5回「あたしの家」

 あたしの家は俗に言う「曰く付き」だったらしい…




 この春、あたし達家族が引っ越した家は、前に暮らしていた家よりも二部屋も多く、今まではずっと一緒の部屋だったあたしと双子の妹の志保しほは、それぞれ一人部屋を持てることになり、あたしも志保も引っ越しが決まったときは大喜びだった。

 あたしと志保は今年で中学生になり、それと同時に新しい家へ引っ越したのは、父と母からあたし達への入学祝みたいなものだと言われたけど、実際はあたし達よりも父と母のほうが新生活を楽しみにしていた気がする。



 引っ越してから5日目…


「お母さん!あたしの靴知らない?左だけないんだけど!」


「志保ちゃん、少し声が大きいわ。…お母さんは知らないわよ。美月みつきちゃんが履いてったんじゃないかしら?」


「左だけ履いてくわけないでしょ。」


「それもそうねえ…なら、もう一度よく探してみなさい。」


「はーい。……………あっ!お母さーん、お風呂場にあったー!」


 これが始まりだった。



 引っ越してから15日目…


「お母さん、志保のやつに何とか言ってくれない?」


「なあに?志保ちゃんがどうかしたの?」


「志保のやつ、勝手にあたしの部屋に入ってあたしの物をどっかに隠すのよ。それも一回や二回じゃなくて、何度も何度も…隠し場所もお風呂場だったり、トイレだったり、フツーこれをこんなとこに置く?みたいなところにばっかり隠すの。昨日なんて筆箱が冷蔵庫から出てきたのよ?」


「あらあら、それは困るわねえ。」


「困るわねえ。じゃないよ、お母さん。志保に聞いたら自分も何回も同じようなことがあったとか、美月姉ツキねえこそあたしの部屋に入ったでしょ?とか言うし、これ以上あたしが何か言って志保と喧嘩になるのもイヤだしさ…お母さんから志保に何とか言ってやってよ。」


「うーん…わかったわ。お母さんからも志保ちゃんに聞いてみるわね。」


「よろしくね、お母さん。」


 その日の夜、母は志保と話をしてくれた。

 しかし、やはり志保は、知らない、自分も同じようなことがあった、と答えたらしい。



 引っ越してから25日目…


「ねえ、あなた?この家、ちょっとおかしなことがあるみたいなのよ。」


「そりゃあいい、お化け屋敷に住むのが、子供の頃からの夢だったんだ!」


「………怒るわよ?」


「すまん…話を続けてくれ。」


「私自身は全く思い当たることはないんだけど、美月ちゃんと志保ちゃんがね…部屋の物が勝手に移動してる、とか、隠されてる、とか、二人揃ってずっと言ってたの。それでね、今日の夕方に三人でその話をしてみたんだけどね………」


「うんうん、それで?」


「…それがね、よくよく聞いてみると何かおかしいのよ。」


「何かって、何が?」


「それはよくわからないわ…でも、二人の話を纏めると何かおかしいの。」


「どうおかしいんだ?」


「例えば…志保ちゃんが遊びに行っている間に美月ちゃんの部屋に置いてあった物が志保ちゃんの部屋に移動されてたり、美月ちゃんがお風呂に入っている間に志保ちゃんの服が美月ちゃんの部屋のタンスの中に入れてあったり、二人とも自分が部屋に居ない間に色々な物が移動してるみたいなの。」


「…美月と志保が互いにふざけあってるってことはないのか?」


「私も今日三人で話をするまではそう思ってたんだけど…話をしたときの感じだと二人ともそれはないと思うわ。」


「そうか。…まあ、ここに来てからまだ1ヶ月も経ってないんだし、美月も志保もストレスとか色々あるだろうし、もう少し様子を見てから何かするべきか考えてみないか?」


「…わかったわ。そうしてみる。」



 引っ越してから43日目…


 最近、家の中の空気が重い。

 相変わらず、あたしと志保の物が勝手に移動していたり、隠されたりすることが続いていたけど、最近はそれだけじゃなくなった。

 誰もいないはずの部屋から物音がしたり、誰も入っていないのにお風呂場が水浸しになっていたり、おかしなことが続いている。

 母もその事に気がついていたし、能天気な父もさすがに異常に気がついていた。でもなぜか、誰もその話をしたがらない…

 みんな、見えないナニかの存在に気がついているハズなのに、誰もその話をしようとしない。

 もしかしたら、あたしだけが気がついていないだけで、父や母や志保は、その見えないナニかの正体に気がついてしまったのかも知れない。



 引っ越してから45日目…


 ついにあたしは見えないナニかの正体を知ってしまった…

 昨日の夜、なぜか志保があたしと一緒に寝たいと部屋に来た。

 あたしはせっかく出来た自分の部屋はもう要らなくなったの、と志保を茶化したが、志保は泣きそうな顔をしながら、お願い、お姉ちゃん、とだけ言った。

 志保があたしのことを美月姉ツキねえではなく、お姉ちゃんと呼んだのは10歳の誕生日会以来だった。


「どうしたの?志保。一緒に寝るのは別に良いけど、こんなのあんたらしくないよ。」


「ごめん…お姉ちゃん…今日だけでいいから…明日は大丈夫だと思うから………」


「…あんた震えてるの?本当にどうしたの?部屋で何かあった?お姉ちゃんに話してごらん。ね?」


「…美月姉ツキねえ………あたしの部屋…………」


「!?…嘘でしょ…いったい誰が…」


「…わかんない……けど、さっきトイレから戻ったら点けていたハズの部屋の電気が消えてて……変だと思ったんだけど、中に入ろうとしたら……ひぅぅ…」


「志保!志保!大丈夫、泣かないで、志保。大丈夫だから。あたしがいるから。」


 あたしが慰めても志保は暫く泣いたままだったが、少し経つと安心したのか、そのまま寝てしまった。

 その後、あたしは志保の話が気になり、志保の部屋に行った。


 そして、あたしはを見てしまった…



 引っ越してから50日目…


 あたし達家族は、まだその家にいた。

 6日前、あたしが見たが、見えないナニかの正体だとわかっていながらも、あたし達はその家にいた。



 引っ越してから53日目…


 ついにあたし達はその家を出た。



 引っ越してから57日目…


 この日、父はテレビの心霊番組などで活躍している霊能力者の下山しもやまよしさんと共にあの家に行った。

 アレを何とかしてもらうためだ。

 下山さんはあの家に着くなりというものをして、帰り際、父にこう言った。らしい


「もう大丈夫。この家にいた霊は全て祓いました。」



 引っ越してから61日目…


 父はまたあの家に行った。

 今度は、叡羅摩叉埜離えいらまさのりさん、薔薇門慧子ばらのもんけいこさん、龍虎娜娜娜りゅうこなななさん、聖美逸聖きよみいっせいさん…四人の霊能力者と共にあの家に行った。

 どうか、下山さんの時のようにならないでほしい。

 あたしは父達が心配だった。



 あたしの見たは、霊能力者とされる人達がどうにか出来るとは思えなかった………











































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