第3回「着信履歴」

 今は便利な世の中になったものだ。

 ネット上には無数の情報が溢れ、SNSで遠く離れた見知らぬ人と交流が出来る。

 何よりも携帯電話が一般人に普及したことは革新とも言える。

 いつでもどこでも連絡が取り合える、言うなればテレパシーを得たようなものだ。

 電話自体は古くからあり、これもこれで革命的だったと思うが、携帯電話と比べたら雲泥の差がある。

 そんな携帯電話について、僕が体験した出来事を聞いてほしい。



 二十年ほど前のことだ。

 当時の僕は地元を離れて暮らしていたことや互いの家庭や仕事の事情など、様々な要因が影響し合い、学生時代に暮らしていた地元の友人との交流が少なくなっていた。

 そんな暮らしの中で、二年に一度地元で行われていた学生時代の友人だけが十五人から二十人ほど集まって行う忘年会という名の小さな同窓会に参加することだけが、僕が地元の友人と会う唯一の機会となっていた。


 その年は、本来ならば開催される予定だった前年の年末に行われなかったこともあり、三年ぶりの開催だったためか、いつもよりも規模が大きく三十人近くが参加していた。

 僕は地元に住んでいない影響で他の参加者と長く会っていなかったこともあり、久しぶりに顔を合わせた懐かしい面々との会話が尽きることはなく、場の雰囲気がまるであの頃に戻ったかのように感じられていた。


 そんな楽しい雰囲気の中で、僕は一人の男がこの場に居ないことに気がついた。

 そいつはこの忘年会には毎回参加していて、僕とは特別に仲が良いというほどでもなかったが、そいつも僕も互いに携帯電話を持ち始めたのが早く、ある年の忘年会の時、まだ周囲で携帯電話を持っていたのが二人だけだったこともあり、その場で連絡先を交換して以来、二年に一度だけ連絡を取り合う関係になっていた。

 引っ越して以来、地元連中と疎遠になっていた僕に対して、前回までの忘年会の開催日時を連絡してくれていたのがそいつだった。

 ただ、そいつは毎回、その時によって最初から居たり遅れてきたりするやつだったので居ないことを気にもしていなかったのだが、二次会が終わり、三次会どこにしようか?という時になってもまだ連絡すらなかったため、その場にいた連中にそいつのコトを聞いてみた。


「あいつどうしてんの?まだ来ねえみたいだけど?」


 すると、その場の雰囲気が一気に代わり、急にみんなが静かになった。


 少しの沈黙の後でそこにいた一人がゆっくりと口を開き、こう言った。


「お前知らなかったのか…あいつは去年死んだんだよ…」


(………そんなはずあるわけがない。だってあいつは…)


僕がを口にするよりも先にもう一人が口を開いた。


「…あいつさ、前回のこの集まりの後に仕事だか何だかで海外に行くことになってさ…んで、本来なら去年帰ってくるはずだったんだけど、帰ってくる予定の飛行機に乗らずにそのまま音信不通になっちまって…それで、少し後になってからあいつの親のところに亡くなったと連絡がきたらしいんだよ。」


(そんな…)


「嘘だろ…」


 思わず声にしていた。


「こんなこと嘘で言わねえよ。」


「ああ、ホントのことだよ…去年の集まりが無くなったのもアイツが死んですぐだったからだし、地元連中であいつと仲が良かった奴らは葬式にも出てるよ。俺も聞いたときは信じられなかったし、地元を離れているお前が知らないのも無理ないよな、それに海外で死んだとなると………」


 そのときにいた友人達から聞いた話を纏めるとこういうことらしい。

 前回の集まりがあった三年前の年末から半年くらい経った頃、海外の新年度である九月までにそっちで暮らす準備をするために海外に行ったそいつは、それから二年間暮らして戻ってくる予定だった。

 その間、国内にいる両親や仲の良い友人とはたまにメールや電話などで連絡を取っていたものの、一度も帰国したことはなかった。

 帰国する予定だったのは去年の十月で、それから暫く後に家族に対して亡くなったという連絡が来たらしいが、そこにいた友人達もこの件に関しては詳しい日にちなどはわからないという。

 帰りの便のチケットを購入していて、帰国の準備もされていたらしく、何らかの原因による突然死だったらしい。


 断片的ながらも詳しい話を聞いていくにつれて僕は言葉を失った。

 二年に一度だけ連絡を取り合うだけの関係ではあったものの、地元の同級生の突然の訃報に驚いたということもあるが、それが理由ではなかった。

 その時は本当にわけがわからなくてその場にいた友人達にこの話はしていないが、話していたとしても誰も信じなかっただろうし、話さなくてよかったと思っている。

 僕は今年と去年の年末、合わせて二回、そいつの携帯電話から自分の携帯電話に連絡を受けていた。

 どちらも出ることができなかったが、留守電にはなにも伝言がなかったため、かけ直すこともしなかった。

 それに、去年の着信は忘年会が非開催になったという連絡だろうと勝手に思っていたし、今年の場合は開催するという連絡だと思っていた。



 それから直ぐに僕は電話番号を変えたが、僕が当時使っていた携帯電話は未だに捨てられずに取ってある。

 そして、まだその時の着信履歴が一件だけ残っている…日付は確かにそいつが亡くなってから一年以上経った後の日付だ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る