第9話 ラブコメ的にビッチは例外なくバカ
「さぁぁぁくぅぅらぁぁぁみぃぃぃぃぃやぁぁぁぁ!」
自分史上最速のスピードでアンチラブコメ倶楽部の部室に駆け込んだ。
その勢いたるやコミケで始発ダッシュをする戦士の
「あら? 予想よりも早かったわね」
桜宮は分厚い洋書(ラノベ)を手にあからさまな作り笑いで俺を出迎える。
「ププッ……花村マジ必死すぎだろ」
対象的に水原はスマホをいじりながら露骨に笑いを堪えている。
二人は丸机を囲んで向き合っていた。
昨日はじめて訪れたときとなんら変わりない風景である。
あまりにも落ち着いていたので、てっきりあの脅迫状は勘違いだったのかと思いそうになったが、ラブコメ的に黒髪美少女は大抵腹黒いのですぐに考え直した。
ああ、ちなみにラブコメ的にビッチは例外なくバカだ。
「おい桜宮! どういうことか説明し――」
途中まで言いかけたところで、桜宮が人差し指を立てて制止してきた。
「少し落ち着きなさい。そう怒鳴り散らされると気が
「お前この状況でまだラノベ読むつもりかよ!」
「当然よ。これがアンチラブコメ倶楽部の活動だもの。なにか問題でも?」
「問題しかないでしょうが!」
やはりこの女に常識というのは通用しないみたいだ。人を脅迫しといて
「はあ……仕方ないわね」
やれやれといった様子で本を閉じると、桜宮は面倒くさそうに立ち上がって、そのまま部室の中を歩きはじめた。
「おい! どこに行くつもりだ!」
「どこにも行かないわよ」
俺の呼びかけに桜宮は歩みを止めることなく返事をする。
その姿を目で追いかける。昨日も思ったけど、こいつは歩く姿勢も美しい。いや、正確には無駄がないって言ったほうが正しいかもしれない。そうした所作の一つ一つに何故か見惚れてしまいそうになる。
桜宮は部室の隅まで進んだところで立ち止まった。
「では本題に入る前にアンチラブコメ倶楽部の三人目の部員を紹介しておくわ」
そう言って、差し出された右手の先に視線を向けると、小動物のように体を縮こませた女子生徒が不安げな表情でこっちを見ていた。
自然と視線が合う。
透き通るような白い肌にフワッとした黒髪のボブカット。顔立ちは同年代とは思えないぐらい幼くて、小柄な体格のせいで余計にそう見える。同じ高校の制服を着ていなければそこいらを歩いている小学生と間違いそうなレベルだ。
ふむ。この女子どっかで見たような気がするけどまったく思い出せない件。ラブコメにありがちな初対面と思ったらクラスメイトでした的なやつなのか。いや、いくらなんでもクラスメイトの顔と名前ぐらいは憶えてるから。四人ぐらいだけど。
しかしまあ、ここで「よっ! 元気してた?」なテンションで話しかけて、実は初対面だったとか最高に恥ずかしいから無難に自己紹介しておくとするか。
「はじめまして。二年A組の花村蓮太です」
「ひゃっ!」
声をかけたら悲鳴を上げられた。
おい。やべぇよ。なんか怯えだしちゃったよ。俺の笑顔が引き
女子に怯えるのは
よし。アレだ。桜宮と水原になんとかしてもらおう。我が家でも俺と喧嘩して不機嫌になった妹をなだめるのはいつも母ちゃんだ。まあ、大抵は俺が
チラッと二人に視線を送ると、それはもう見事なまでに呆れ顔でこっちを見ていた。
二人して蔑むな。特に桜宮の視線は超絶ジャックナイフだから見られるだけで痛い。
「花村マジで最低すぎだろ。アタシならショックで不登校になってるぞ」
「そうね。なんだか申し訳ないことをしてしまったわ」
「ちょっと待て! 俺なんかマズイことしましたか?」
いつだって女子の
「当たり前だし。普通さぁ同じクラスの女子にはじめましてとか言う? つーか、去年も同じクラスだったことすら忘れてんでしょ?」
「バッカ! 忘れてるわけねぇだろ! ちゃんと覚えてますから! むしろ逆に俺のこと覚えているか心配ですわ!」
「じゃあこの娘の名前は?」
「えーっと……山田花子さんだっけ?」
「やっぱ覚えてないじゃん! あんたは色んなこと忘れすぎなんだよ!」
ダメ元で言ってみたがやっぱりハズレだったか。
つーか、忘れすぎってなんだよ。俺、こう見えても記憶力には自信があるし。ラノベの新刊の発売日とか完璧にインプットされてるし。そのせいで他のことを覚える余裕がないだけだし。
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