第2話 アメリカンランゲージ倶楽部
桜宮が向かったのは校舎に隣接する部室棟だった。
旧校舎を改築して作られた四階建て建物には、それぞれのフロア毎に分かれて運動系や文化系の部室が存在する。
汗の臭さに定評のある運動系の部室は一階と二階、影の薄さに定評のある文化系の部室は三階、最上階の四階は教材や備品などの保管場所として使用されており、日頃から人の出入りが多い場所だ。
だから、なんとなく賑やかなイメージを抱いていたのだが、放課後の部室棟は不気味な静けさに包まれていた。文化系の生徒が多く残っているはずなのに、まるで無人の廃墟に迷い込んだ気分になってしまう。なにこの放課後ミステリー。
俺の通う私立
これは教育者として名高い理事長の方針だったりするわけだが、そのためだけに私財を投じて部室棟を改築するあたりに理事長の漢気と狂気を感じる。壮絶な無駄遣い。
まあ、理事長の考えとしては、学生時代に部活動を通して集団行動を経験して、さらに日常生活で
つーか、さすがに迷惑すぎるだろ。俺たち生徒のことを第一に考えているのならそっと見守ってくれるだけでいい。それ以上は求めないし、それ以下も必要ない。
だって、大事なのは生徒の自主性。大人がなにかを強制すれば子供が反発するのは当然のことだ。
そんなわけで、俺ってば根っからのレジスタンス気質だから学校や教師の
志望動機は『絶え間ない
だが、学年主任の木下先生はお気に召さなかったみたいで、生徒指導室に呼び出されて
しかし、こんなことで俺の信念は砕けたりしないってば。
次は『革命家』と書こう。志望動機は『学校の恐怖政治に屈することなく自分の信念を貫いて自宅に帰りたい』でいい。めげない。しょげない。泣いちゃダメ。ガ〇コちゃんのポリシーはリスペクトに値する。
「ここよ」
数メートル先を歩く桜宮がとある部屋の前で立ち止まった。
場所は部室棟の三階の一番奥。文化系の部室ということになる。
桜宮の背中越しに覗き込んでみると、金属製のプレートに小奇麗な文字で『アメリカンランゲージ倶楽部』と書いてあった。これはなんだ。要するに英検とかTOEIC対策の部活なのだろうか。
んで、ラブコメにありがちなシチュエーションならこのまま無理やり入部させられて、いきなりハーレムが始まるのか。英検ハーレムとか未知数すぎる。
しかし、ここで問題発生。俺の英語力は小学生レベルだし。場違い感が半端ない。
「戻ったわ」
桜宮はそう告げると、ノックもせずにドアを開けた。
瞬間、部屋の中からフローラルな香りが漂ってくる。
「花村くんも適当な席に座って」
桜宮は部屋に入って行くと、中央の丸机に腰かけた。
「おっ……おう……」
やや
なんというか、そこはまるで図書館だった。
部屋の広さは教室の半分ほどしかないものの、壁一面に本棚が設置されており、そこに収められた本の背表紙はすべて英語表記になっていた。あえて擬人化するならマッチョなアメリカ人に取り囲まれた気分。ヤバいよ。助けてガ〇コちゃん。
部室には俺たちの他に二人の女子生徒がいたが、片方はこちらを気にかけることもなく熱心に本を読んでおり、もう片方は退屈そうにスマホをいじっている。
怯えながらも空いた椅子に座ると、スマホをいじっている女子生徒と視線が合った。
綺麗に染まった金髪や派手なメイクが印象的。胸元の開いたブラウスや豊満なバストは挑発的。ジッと座っているだけでエロさと軽薄さが溢れ出ていた。
「つーか、花村だし。あんたが新入部員なわけ?」
「……水原かよ。どこのアホギャルかと思ったわ」
「誰がアホギャルよ。超絶ウザいから口閉じてろ」
水原が冷え切った目でこっちを睨んできた。
「あら。二人は友達なの?」
キョトンとした顔の桜宮。
「違う。ただの顔見知りだ」
実際、
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