第14話
「らっしゃい!!」
シュテンの気合いが轟き、それに呼応した彼の天狗腕が手刀に光刃纏わせザガンへと斬り掛かった。
つかまつる――再びザガンが纏うエグゾギアが爆ぜる。重力に惹かれ行く身体をその爆発にて浮上させ、ザガンは片手に握り締めた大宝剣を神速にて駆けさせる。
諸手を以てすら鈍重であった太刀筋はしかし片手でありながら高速を凌ぎ、寸毫の乱れなく直線の乱舞!!
碧の軌跡が辿りしは光刃を打ち払い超鋼を歪ませ飛翔するシュテンの両腕は地へと叩きつけられた。
「それが――!」
一筋の軌跡は鋭角に折れ曲がり、虚空に描き出すは五行の織り成す
描かれた五芒星が宙を駆け、シュテンを捉える。彼の足元に刻まれたそれの頂点より五行に対応した色を持った光の柱が天高くまで立ち昇り結界を成して彼をそこに封じ込める。
その中ではエグゾギアの機能が狂い、シュテンの意思をまるで汲み取らなくなった。封滅の封滅たる由縁! その
「これが――!!」
いっけぇえーい――バジラが拳を突き出し、月輪背負うザガンへと叫んだ。そしてその声が彼の心を燃やし、遂には爆発させる。
――エグゾギア・ザガン流!
それがザガンの
最大級の爆発に吹き飛ばされ、身動き取れぬシュテンへと高速で詰め寄った彼は振り上げた大宝剣の刃を真っ直ぐに振り下ろす!!
生じる碧の一閃! 二人を内包した五芒星が光に還り、見る者全ての目を眩ませる。
――両の眼をまぶたの裏側に閉ざしていたバジラがそっと視界を隠すまぶたを持ち上げる。ずっと張り詰めていたはずの緊張の糸が弛み、吹き付ける風がそれを彼女に知らせたからであった。
決着である。
彼女が取り戻した世界にはザガンのみ――ではなかった。
「くくくっ……ぐふぅっ!!」
大宝剣を振り下ろしたザガンの前にはシュテンがいまだ立ち続けていた。あまつさえ笑声など零して見せる彼にバジラはぎりりと歯噛みするが、当のザガンはただ静かに大宝剣を下段に落とす。直後、シュテンの笑みが溺れる。
健在しているかに見えるシュテンが朱のエグゾギア。しかしその実は肩から脇腹に掛けてバッサリと袈裟にその超鋼は斬り裂かれていたのであった!!
――決着である。
おびただしい量の鮮血がシュテンのエグゾギアを朱色から深紅に染め上げて行く。ザガンの月割りが極まる刹那、彼は鬼の面による反撃を敢行し太刀筋を僅かにだが逸らすことに成功すると共に自らも後退。本来であれば真っ二つである所を臓物をぶち撒ける程度にまで留めていた。
――決着……じゃない!!
「まだ我が命は燃えている! 我がエグゾギアも同じである!! エグゾギア・ザガン! 我はまだ戦えるぞっ」
「見りゃ、分かる……」
頬当ての奥より咆哮とそして炎を噴き上げるシュテンの元に復調した天狗腕が舞い戻る。その超鋼は歪み、指もひしゃげてまともに前を向くことすら出来ない有り様である。恐らく指の内部を通って射出される光線や弾丸も撃つことままならず。シュテンのそれは、遠巻きから見るバジラたちには虚勢にしか見えない。
しかしどうやらザガンは違うようで、彼はシュテンに応えるように大宝剣を構え直した。シュテンから笑声が溢れ出る。
「勝つのは――」
両者が互いに渾身に力を込める。
そして二つのエグゾギアがその力を超常の域へとそれを増幅し、今まさにそれらがぶつかるべく動き出そうという時。その時になってシュテンより闘気が消え失せた。
それに気付いたザガンは微かな動揺に身を揺らすと、何が起きたのかとエグゾギアが碧玉の双眸の奥に秘めたる瞳、その視線を持ち上げシュテンのエグゾギアが面構えを睨む。
すると宙に漂っていた彼の両腕が突如、巻き取られた綱に牽かれエグゾギアの上腕へと接続された。左腕は正常に繋がれたようであるが、右腕はどうやら上腕側の変形により生じた歪みで接続出来ず、綱にぶら下がる形で揺れていた。
「……此度の立ち合い、此処までである」
淡々と告げたシュテンに何と思わず問い掛けるザガン。しかし彼はそれに答えることなく、ザガンに背を向けるとふらふらした覚束無い足取りで里を去ろうとする。
若衆らがここぞと威勢を取り戻し、里を襲い野郎衆や皆を殺した怨敵を血祭りにあげようと武器を振りかざすが、それをザガンの飛ばした一喝が止めた。
「このままただで帰すと、本気で思っているのか。エグゾギア・シュテン」
若衆らを下げさせながらザガンが低く地鳴りのような声でシュテンの背中へと告げる。するとシュテンの足が止まり、しかし振り返る事なく言う。
「追うなら相手つかまつろう。だが、我の超鋼はまだ終われぬ故……」
「貴様の闘いではないのか」
「……然り」
問答による、シュテンの言葉には覇気が無い。それによりザガンはまるで興でも削がれたかのようにうつむくと、構えていた大宝剣をも下げてしまった。するとそれに呪袢が再び巻き付き、元の大太刀の姿に戻る。彼もまたも闘志を喪失したようだった。
「だが、これで終わりではない。我が押し返された以上、別の超鋼が貴様のその超鋼を求めに現れる事だろう」
「要らぬ世話だ」
「……次に再び相見えた刻、その刻こそ決着つけようぞ」
それまで精々超鋼を守り抜くことだ――最後にそう言い残し、シュテンは血を流しながら遂に里の外へとその姿を消してしまうのであった。
結局ザガンは彼を追わず、他の者にも追跡を許す事はしなかった。
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