第13話

「ムワハハハッ! これぞ秘技、オニヅラ鬼の面!」


 我が超鋼に死角無し――威勢良く叫ぶシュテンのエグゾギアの胸部から腹部に及ぶ装甲が展開を見せ、装甲自体が巨大な怪異の面相を形作ると大きく開かれたその口から放たれたのは朱光の火炎であった。


 その炎に焼かれたザガンは黒焦げとなり弾き飛ばされ、超重のエグゾギア故に背から叩き付けられ地面に沈む。

 火炎こそ引火しなかったが彼の超鋼は煙をもうもうと上げ、中のザガンは悲痛な呻きを挙げるばかり。


 熱は装甲が断ち切ったが、衝撃は彼の肉体を揺さぶり閃光は視界を苛み、そんなザガンの周囲をシュテンの腕が漂う。

 トドメを刺すものかと思われるそれであったが、その指は弾丸も光線も、光刃すら発生させず開かれた五指はただザガンを捕まえようとするように接近して行く。


 いまだ視力の戻らないザガンは視界に焼き付いた直前までの光景に縋るように右手を持ち上げては彷徨わせる。その手をシュテンの右手が掴もうとした時であった。


 ――ギャキィ!!


 シュテンのその手を弾き飛ばし、そしてザガンが右手に握り締められた物――大得物・封滅大太刀!!

 それを投てきし者、バジラ!!


「ソイツは元来その超鋼のもの! エグゾギアと大太刀揃いて真の封滅超鋼・碧羅白襖なりっ」


 ザッガァーンッ――恐らくは相当に力んで大太刀を投てきしたのであろう、叫び掛ける彼女の顔面はすっかり赤く、なんなら鼻血すら噴いていた。


 しかしその献身こそが威勢を欠こうとしていたザガンの心に再びの熱を灯す。そして彼の脳裏に思い起こされるは彼女との過去。想えども想えども、若衆では到ることの出来ぬバジラの巫女という立場。そこに辿り着くために文字通り粉骨砕身の錬磨を続け、やがて辿り着き遂に果たした竜殺しと彼女との“関わり”。

 情熱の時が彼に、ザガンに再びの命の猛りを蘇らせた!!


 ――心得たなり!!


 ザガンの周囲を爆発とその爆炎が包む。膨れ上がり爆ぜる地面。吹き飛んだ欠片が四散し、バジラがきゃーんと愛らしげな悲鳴を挙げつつ飛来した土塊を肥大化した竜の両手で叩き落とし見上げる。


 シュテンもまた己の超鋼に土塊や石ころを受けつつ、響いてくるそれらの物音をまるで気に留めぬままやはり空を見上げている。鎧の奥のその表情を感喜に歪めながら。


 ――解けよ、殺守呪袢あやめもりのじゅばん


 自身を爆破し、そして空高くまで舞い上がったザガン。彼の右手は軽々と巨大なる大太刀を振りかざし、その切っ先を遙か眼下のシュテンへと向けてそして唱えた。


 すると彼を追跡し上昇したシュテンの両腕、それの指先が閃き光線を放つ。しかしその光線がザガンに命中するかという直前で大太刀にぐるぐる巻き付き、すっかり覆い尽くしていたボロ布がはらり解け始め、ともすれば大きく広がりザガンの周囲を取り巻いた。


 そこに浮かんだ何かの紋様(漢字のようであるがいずれももう少し画数が多く似た字に見えるようになっている)が光を放ち、そして布より離反! 勢い良く飛び回ることでザガンの周囲に障壁を生み出すとそれがシュテンが放つ光線を打ち消した!!


 ――起きよ、封滅大太刀。


「改め!」


 ――醒めよ、星刻大宝剣せいこくのおおつるぎ


 呪袢より解放された大太刀の刀身は既に朽ち、錆びきっているように赤茶色に染まっていたが、そこにエグゾギアがそれを纏うザガンの生体情報と彼の想いを伝える事でその姿を変える。


 刀身を覆い尽くす錆汚れは瞬く間に四散し、そしてその下より現れ出でたものは純白の刀身に碧羅の刃を持ち、五行が象徴する存在の事象が彫り込まれた美麗なる宝剣! 締め括る鍔を形作るのは白と黒が交わる太極!!


 森羅万象を従え陰と陽、世界の全てにより鍛えられしそれこそが大得物が真の姿、これこそが星刻宝剣なり!!

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