第78話 雨月物語

1953年の日本映画です。


まずはウィキペディアから短く引用させていただきます。


上田秋成の読本「浅茅が宿」と「蛇性の婬」の2編に、モーパッサンの『勲章』を加えて、川口松太郎と依田義賢が脚色した。(中略)海外でも映画史上の最高傑作のひとつとして高く評価されており、第13回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した。(ウィキペディアより)


黒澤明監督の「羅生門」から3年後、「羅生門」の主役森雅之と京マチ子が登場する、これまた世界的に評価の高い名作が誕生したわけだ。


ハッキリ言って、私は「羅生門」よりこちらの「雨月物語」の方が好きである。


言い遅れたが、監督は溝口健二で、黒澤明も小津安二郎も取り上げ,溝口健二を取り上げないわけにはいかないだろうと思った。


物語も、作品のテーマも「羅生門」に比較して分かりやすく、何よりも私にとっては情緒に訴える部分が大きいのが、「羅生門」より好きな理由である。


勿論当時世界的に評価された日本映画はこれだけではない。同年、カンヌ国際映画祭では、衣笠貞之助の「地獄門」が今で言うパルムドールを受賞しているし、翌年には「七人の侍」がベネチア国際映画祭でやはり銀獅子賞を受賞している。

日本映画に最も勢いのあった時代かもしれない。



さて、「雨月物語」の内容だが、戦乱の時代に、琵琶湖のほとりの村で陶器を焼いて生活している源十郎と、その幼な子、そして妻、隣で暮らす妹とその夫、つまり義理の弟の話である。


源十郎の妻は、夫婦で必要なだけの金があれば、あとは楽しく、仲良く暮らせればそれが幸せだという考えなのだが、源十郎は少しでも金を儲けようと必死である。最もそれは、妻に綺麗な着物を買ってやったりしたいためでもあるのだが。


義弟はなんとかサムライになって手柄をたて、偉くなりたいと、そのことばかり考えている。


源十郎の焼き物は町ではよく売れる。

ある時はそれが飛ぶように売れ、喜んでいると、その見事な腕前に惚れ込んだお姫様の屋敷に招かれ、接待を受けるのだが、その姫とは織田信長に滅ぼされた名家の生き残りだというのだが・・・


一方義弟の方は、義理の兄の手伝いで儲けた金で、鎧や刀、槍を買い、ついには手柄まで立てて家来を従え・・・


この先は是非映画を観ていただきたい。

京マチ子演じる姫の元で過ごす暫しの日々は、まさに幽玄の美というにふさわしい。


人間の欲は、大きくなればなるほど、人に何をもたらすか・・・溝口健二のメッセージを是非ご自身で受け取っていただきたい。


現代の映画にはない、質素でストレートだが、見事に芸術として昇華されたメッセージがここにはある。


戦後、高度成長に向かおうとしていた日本にも、こんな考えがあったかと,私などはその良心に敬服してしまった。


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