第42話 砂の女

1964年の日本映画です。


まだ20歳前後の頃、私にとって安部公房という作家は特別な存在だった。

言ってみれば日本文学の最先端であり、頂点に立つ存在のように思っていた。


友人とは、「安部公房はノーベル賞とるよな」などと話していた。


中でもこの「砂の女」などは、その解釈をめぐって熱い議論を繰り広げたものである。

私も若かった。いや、幼かった。


しかし考えてみると、そもそもこの「砂の女」の主役は誰であろう。これは小説を読んだ時は全く感じなかったが、映画を観た時ふと思ったことだ。


「男」(岡田英次)が主役なのか。

「女」(岸田今日子)なのか。


これがなんと、映画を観ていると「砂」こそが主役だと思えてくるのだ。

その証拠に、映画を観ている間中、私は口がカラカラになり、のどが渇いて仕方がなかった。

強烈な、砂の映像であった。


*    *    *


ある駅で降り、休日を利用して昆虫採集にやってきた男は、いつしか砂漠のような、砂丘に入り込む。


夜になり、帰り損ねた男は村人の厚意で宿を紹介してもらうが、それは砂の中にある一軒家で、縄梯子で下に降り、女が1人で暮らしている古い木造家屋だった。


男は女のもとに世話になる。


翌朝気がついてみると、縄梯子がなく、男は穴から出られなくなってしまう。


どうやら男は騙されたようで、そこは少しでも砂かきをサボると、すぐに穴が砂に埋まってしまうような、過酷な環境だった。砂を運ばないと、食料や水の配給がもらえない。


男はあの手この手で脱出を試みるが、とにもかくにも砂かきを続けなければならない。


ある日男はふとしたことで、空気中の湿気から水をバケツに溜める装置を思いつく。



いつしか男と女は文字通り男と女として暮らすようになっていたが、妊娠している女が急に苦しみ出し、穴から出されて病院へ運ばれる。

気がつくと、村人たちがはずし忘れた縄梯子が穴にかかっている。


男はそこからちょっと外へ出てみるが、外の世界はそれほど思ったよりいい世界とも感じられず、穴の中に戻ってしまう。

男はそれよりも溜水装置のことを村の人に話したい気持ちでいっぱいなのだ。


7年後、男は失踪者として死亡が認定される。



この作品は安部公房自身がシナリオを書き、カンヌ映画祭で審査員特別賞を受けたほか、様々な賞を獲得したそうだ。

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