第8話 泥の河



1981年の日本映画です。


この作品は、宮本輝先生の、太宰治賞を受賞した小説の映画化だ。

舞台は昭和31年の大阪。


1981年の作だから、ここで取り上げている他の映画に比べれば比較的新しいが、画面は全編白黒で、それがまだ貧しかった日本の、みすぼらしい時代感覚を映し出しながらも、非常に上質で美しい。


物語は、川辺でうどん屋を営む家の1人息子の信雄と、そのすぐ近くの岸に繋いだ小舟で生活するきっちゃんと、その姉の銀子との交流と別れを描いた、心に染み入る名作である。


まだこれから原作を読むという方もいらっしゃるだろうから、細かく物語に触れることは避けるが、映画の中で、列車に乗っている信雄の父親(田村高廣)が見ている新聞に、『もはや戦後ではない』という見出しが載っているのが、この映画のテーマを象徴していると思う。


信雄がきっちゃんと姉の銀子と仲良くなったあと、信雄の両親は2人をあたたかくもてなすが、父親は信雄に、夜はあの舟に行ったらあかんで、と釘を刺す。


それがなぜかはここには書かない。是非原作を読んでいただきたい。


ひとつだけ、特に注目したいカットがある。

最後のほうで、きっちゃんの舟が岸を離れた頃、父親が信雄をじっと見ると、信雄は自分が見たものを悟られまいとするように、そっと目をそらす、というカットだ。


私はそれまで、外国映画でこういうカットを見たことがないように思う。

日本映画らしい名場面だと思う。


ラストは、しみじみと、身につまされるような感動が湧いてくる、実に立派な映画だった。


まだご覧になってない方は是非ご覧になって、原作とも比較してみてはいかがだろうか。


きっと、何か発見するものがあるはずだから。

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