透先輩、小説見せてください

青見銀縁

第1話 今日さ、みゆりと一緒に帰ってもらえないか?

 とある放課後。

 高校一年の代々木とおるは家に帰ろうと教室から出ようとした。

「あっ、透さ、悪い」

 後ろから呼び止められ、振り向けば、クラスメイトの恵比寿直人が歩み寄ってきていた。幼稚園からの幼馴染で、いわゆる腐れ縁という関係。髪をうっすらと茶髪に染め、制服のワイシャツは奥の赤いシャツが覗き見えるくらいまでボタンを開けている。校則違反は気にせずといった感じだ。

「何?」

「今日さ、みゆりと一緒に帰ってもらえないか?」

 直人は両手を重ねて、僕に頭を下げてくる。

 一方で僕は、露骨に嫌な気持ちが芽生えてきた。

「やだって言ったら?」

「そこを何とかさ」

「だって、みゆりって、僕のこと嫌ってるみたいだし……」

「まあ、そうかもしれないけどさ」

「直人は?」

「俺はこの後補習だからさ」

「そういえば、数学の点数、赤点だったっけ……」

「だからさ、悪い」

 直人の懇願に、僕はため息を漏らしてから、「わかったよ」と返事をする。

「それで、みゆりはどこで待ってる?」

「もう、校門前にいるはずだ」

 直人は取り出したスマホの方へ視線をやってから言った。

「既に待ちくたびれてるっぽくってさ、『まだ?』とか言ってきてる」

「それ、機嫌悪いよね? 確実に」

 僕は段々と憂鬱になってきた。

「今度、ナック奢るからさ」

 駅前にあるファーストフード店を挙げるなり、再び頭を下げる直人。どこかひた隠している派手な格好とは裏腹に。

 僕は再度ため息をつきつつ、「奢ってくれるなら」と了承の意を示す言葉を返す。

「悪い、透」

「そんなことより、そろそろ補習始まるんじゃない?」

 僕が黒板の上にある丸時計の方へ顔をやると、直人は「マジか」と声をこぼす。

「じゃあ、僕は行くよ」

「おう。本当に悪い」

 直人は申し訳なさそうに言いつつも、学校の鞄を手に教室から去っていった。補習がある別の教室へと。

 僕は直人を見送ってから、「さて」と自分に言い聞かせ、足を進ませる。

「ナックを奢ってもらうためにも、頑張りますか」

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