第140話 さおりちゃんからのプレゼント

 病室のドアをノックしようとしたら、中からさおりちゃんが出てきた。


「おー。恭ちゃんのマブダチじゃん。こんちは。いよいよ明日、退院だねー」

「あ。こんにちは」

「手術もうまくいって、術後の経過も良好で、これでまた仲良く高校生活エンジョイできるね」

「は、はぁ」

「そう言えば、学校で一番可愛い子、ゲットした?」

「あ、それは、まあ、その……」

「私、結構恋愛経験豊富だから。何か困ったら、相談においでね。すっごい親身になってあげるから」


 指を鉄砲の形にして、「ズッキューン」と凛太郎の胸に向かって発砲し、さおりちゃんはお尻フリフリどこかへ去って行った。


 あのテンション、ついていけない。

 凛太郎は後ずさりで病室の中に入って行った。


「たろちゃん」


 凛太郎の姿を見て、ベッドの上に胡坐をかいている恭介は視線を泳がせる。「歩美は?」


「歩美ちゃんは一度家に帰ってから来るって」

「何で?」

「チョコを取りに帰ったみたい。リュックに教科書とかと一緒に入れておくと、ぐちゃぐちゃになっちゃうからって」

「へぇ。ぐちゃぐちゃでも何でもいいんだけどな。気を遣ってくれたんだ」


 恭介は嬉しそうに頬を緩めつつ、掛布団の下からタブレットぐらいに薄っぺらくて四角い箱を取り出した。

 デパートの包装紙に包まれている。


「何それ」

「あ。これ?これは別に何でもないよ」

「嘘。僕に訊いてもらいたくて出してきたんでしょ」

「鋭いな。さすが、マブダチ」


 恭介は凛太郎を人差し指で指す。「さおりちゃんからもらったんだ。今日は二月十四日でしょって」


「えー。チョコレートってこと?いいの?歩美ちゃんの前にもらっちゃって」

「だって、しょうがないじゃん。せっかくのプレゼントを断るなんてできないでしょ」

「何、その勝ち誇った顔。僕よりもててるって言いたいわけ?」

「いや、そんなこと言ってないけどさ。あー、でも、実際これがもててる証拠ってわけかぁ」


 恭介はいやらしい顔でさおりちゃんからのプレゼントを愛しそうに撫でる。


「歩美ちゃん、もうすぐ来ちゃうよ。どっかに仕舞わないと」

「そうだね。でも、とりあえず、中身を見ておきたい」

「じゃあ、早く、早く」


 恭介はどんくさそうな太い指で包装紙を、丁寧にほどこうとして上手にできず、「あー」とわめきながら結局ビリビリに引き裂いた。


「ん?」

「何それ」


 包みの中から出てきたのは上面だけが透明の薄い箱で、中には白い布が入っているのが見える。


「チョコじゃないぞ」


 恭介が怪訝そうに布団の上に箱を置く。


「ハンカチかな?」

「あ。何だこれ」


 破れた包装紙の隙間から名刺大のカードが出てきた。「二月十四日は、ふんどしの日。……どういうこと?」


「じゃあ、それ、ふんどしってこと?」

「マジ?期待して損したー!」


 恭介は、さおりちゃーんと布団に突っ伏して嘆いた。

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