第118話 全裸にコート

「うーわぁー」


 歩美の今にも昇天しそうな感動の声が響いた。

 頬を両手で挟んで、目を輝かせる。「滅茶苦茶おいしそう。さすが、久美ちゃん。作るの大変だったでしょ?」


 永田さん、歩美、恭介、そして凛太郎の四人がダイニングテーブルを囲んで見ているのは、永田さん、お手製のベイクドチーズケーキだ。

 クリスマスパーティーということで、わざわざ作ってきてくれたのだ。


「そんなことないんだよ。手が込んでるように見えるかもしれないけど、けっこう簡単にできるの」

「いや。全然、簡単そうには見えないよ。少なくとも俺とかたろちゃんには無理だね。永田さん、ケーキよく作るの?」

「たまにね。でも、こればっかり。簡単な割には、それなりに見えるから」

「久美ちゃん、これはポイント高いわぁ。私にはない、圧倒的な女子力を感じる」

「ちょっとぉ。ポイント狙いの打算的なイメージ出すの、やめてよ」

「なんか、食べるのもったいないぐらいだね」


 凛太郎は素直にそう思った。

 絶妙に丸くて、こんがり焼きあがったケーキ。

 できることなら、このままいつまでも見ていたい気がしてくる。


「ちょっと、奥川君。頑張って作ってきたんだから、食べてよね」

「も、もちろんです」


 思わず、はにかみ笑いをしてしまう。

 永田さんに、食べてよね、と言われて、気恥ずかしい。


「ちょっとぉ。俺の家で二人だけの空間、作らないでくれる?」


 恭介の悪意のある冷やかしに、凛太郎は怒りを込めて恭介を睨んだが、恭介が密かに「見てみろよ」という感じの視線を送ってくる。

 それに従って、チラッと見たら、永田さんまで少し顔を赤らめているように見えて、その様子がレアで、また可愛い。


「せっかくなんで、上品な紅茶なんかと一緒にいただきたいものですねー」


 歩美はねだるような顔で家主の恭介を見る。「恭介先輩の家なら、何でも出てきそう」


「紅茶?そんなのないよ」

「いや。あるでしょ。ヨーロッパのお土産的な高い紅茶が」

「ないって。俺、夏でも冬でもコーラだもん」


 歩美ががっくりとダイニングテーブルに突っ伏す。

 が、「そうだ」とすぐにガバッと体を起こし、何やら不敵な笑いを浮かべた。


 その笑顔に凛太郎はゾクッとする。


「今、この瞬間、私の予言が真実になる」

「な、何?どうした?」


 恭介も歩美が急にインチキ霊能力者のような物言いになったので警戒感たっぷりだ。


 しかし、歩美はそんなことはものともせず、自分のスマホをケーキの横に置いて、睥睨するように三人を見渡した。


「歩美。何……するの?」


 永田さんまで歩美の変貌ぶりに怯えている。


「将棋大会ですよ。今から、一人ずつスマホの将棋ゲームをやります。もちろん、それぞれの棋力に合わせてゲームのレベルも調整します。そして、成績の一番悪かった人が罰ゲームです」

「まさか……」


 凛太郎の耳に数日前の歩美の言葉が戻ってくる。


「どうしたの、たろちゃん」

「そうです。私は部室でイブの日の企画を既に宣言しています。それを実行するのです。罰ゲームは全裸にコートを着て、お買い物。近くのスーパーにケーキに合う紅茶を買いに行くのです」


 やはり。

 そんなゲームには付き合えない。


「歩美ちゃん。全裸である必要はないんじゃないかな。普通に買いに行けばいいと思う」

「奥川先輩。それじゃあ、全然面白くないじゃないですか。私は皆さんの本気を見たいんですよ。全裸にコートの条件だと、皆さんきっとこないだの将棋大会よりも真剣に戦いますよね。これは、余興ではありません。将棋部の実力アップに必要な訓練なんですよ。総員に告ぐ。これは余興ではない」


 歩美は凛太郎の反対ぐらいでは一歩も退かない。


「歩美。さすがに、全裸はやめようよ。私、頑張ってケーキ作ったのに、それがきっかけで罰ゲームが始まるなら、何のために作ってきたのか……」

「って言うか、想像してみろよ。歩美のも永田さんのもコートは膝上までの長さがあるから、まだいいけど、俺のダウンジャケットもたろちゃんのダッフルコートも腰までの丈だぞ。全裸だったら、下半身が丸見えになっちゃうじゃねぇか。どうすんだよ」


 恭介の冷静な指摘。

 それを聞いた永田さんが笑いを堪えようとする感じで、口元を強張らせる。

 が、我慢しきれずに、ブフッと閉ざした口から笑いがこぼれてしまう。


「久美ちゃん、笑いすぎ」

「だって。……はー。駄目だ。おっかしい。ふー」


 永田さんは苦しそうに息を吐き、手で自分の顔を扇ぐ。


「やっぱ、無理かぁ」


 歩美が残念そうにテーブルに載せたスマホを回収する。


「僕が紅茶、買ってくるよ」


 凛太郎は率先して手を挙げた。

 永田さんがケーキを作ってきてくれたのなら、それぐらいはしないと。


「あ、じゃあ俺も行くよ」

「ちょっとぉ。家主が行っちゃったら、私と久美ちゃんがここに残りづらいじゃないですか」

「だったら、みんなで行くか」

「いや、恭介先輩。ここは……」

「あ。そうか」


 何やら恭介と歩美が悪い顔で目くばせをして意気投合する。


「久美ちゃん。奥川先輩だけじゃ頼りないんで、お願い」

「うん。分かった」


 永田さんが立ち上がって、椅子に掛けていたベージュのコートに袖を通す。


「え。いいよ。スーパーはすぐそこだし、さすがに紅茶のティーバッグぐらい僕だって買ってこれるよ」

「いいじゃん、いいじゃん。奥川君、行こ」


 永田さんは少し強引に凛太郎の腕のあたりの服を引いて、玄関に向かった。



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いつもご覧いただき、本当にありがとうございます。


作者のわがままでしかありませんが、皆さまにこの物語にまつわる簡単なアンケートへのご協力をお願いしたいです。

これまで私はラブコメは書いたことがなく、しかも、タイトルからしてそうですが、オクテ童貞高校生のエロ無駄話を軸に、なんていうことはかなり勇気が必要でした。と、同時に書いていて、これまでにない楽しさもあります。


そこで、お訊ねします。

皆さまはこの物語で、「凛太郎と恭介のエロ無駄話」、と、「高校生たちの恋愛ストーリー」のどちらの回の方を好まれていますでしょうか。


①凛太郎と恭介のエロ無駄話

②高校生たちの恋愛

③どちらってことはない

の数字だけでも、コメントで教えていただけると嬉しいです(*'ω'*)

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