第117話 久美ちゃん参加キタ━(゚∀゚)━!

【久美ちゃん参加キタ━(゚∀゚)━!】


 見るからに騒々しいメッセージが歩美から送られてくる。

 将棋部の三人はグループLINEを作っている。

 そこへ歩美が書き込んだのだ。


【何に?】


 恭介は冷静な返信だ。

 そこへ、歩美が画像を投稿した。

 歩美のスマホのLINEの画面をスクリーンショットしたもののようだ。

 そこには永田さんからのメッセージが写っている。


【私も、イブのクリスマスパーチーに参加してもいいかな?お昼の三時ぐらいまでしかいられないんだけど】

 とある。


【おぉ!これは燃えますな】

【ですね。当然オッケーでいいですよね?】

【もう、返事してあるじゃん(笑)】


 恭介の指摘どおり、先ほどのスクリーンショットには歩美のコメントで 【大歓迎(*’ω’*)】 とある。


 パパっと歩美と恭介のやり取りが流れていって、凛太郎がコメントを送ろうとするときには既に話題が違ってしまっている。

 二人ともメッセージを打つのが早すぎる。

 波に乗れない凛太郎は傍観するしかなかった。

 にしても、永田さんとわずかでもクリスマスイブを過ごすことができるのは望外の幸せだ。

 そう思って、ふとあることに気付く。


【反町君と檜山さんは昼間は部活だよね?】


 あの二人も盛り上がっていただけに、若干可愛そうだなと思ってコメントしたのだが、歩美からは予想通りの塩対応が帰ってきた。


【願ったり叶ったり】


「入るよー」


 その言葉が聞こえたときには、部屋のドアを開いていて、麻実は閉めようとしていたところだ。


 凛太郎はスマホを握ったまま、椅子を半回転させて麻実の方を向く。


「今のは『入ったよー』か『入ってるよー』が正しいんじゃ……」

「まあまあ。そんな小さなことより、もっと大きなことを話そうぜ」


 麻実は思い切り、凛太郎のベッドにダイブする。


「何?大きなことって」

「イエスキリストの誕生をどうやって祝うか、についてよ」

「去年は、うちは仏教徒なんだからクリスマスなんて関係ないって怒ってなかったっけ?姉ちゃんがすごい剣幕だったから、母さんは予約したケーキをキャンセルしたし、家の中でクリスマスのクの字も言えない空気になったと僕は記憶してる」

「ああ。あれは付き合い始めて一か月の彼氏の二股をクリスマス一週間前に見つけて、お別れしたからよ」


 麻実は悪びれもせず、ベッドの上で腕を枕に横向きに寝て、右足をゆっくり上げるエクササイズをする。

 すらりと伸びた脚が九十度以上に開いて、麻実の体の柔らかさに驚いてしまう。


「滅茶苦茶分かりやすい話だね」

「凛ちゃんも、浮気とか二股、三股は絶対にばれないようにやるんだよ。ばれてもやってないって嘘をつき通す覚悟が必要」

「何で浮気や二股をやる前提なんだよ」

「だって、人間だもの」

「そこは寛容なんだね」


 凛太郎は皮肉を込めて言った。

 その広い心があれば、去年のクリスマスを殺伐とした雰囲気にせずに済んだのではないか。


「私は元々寛容よ。去年だって、嘘をつき通してくれれば良かったのよ。麻実を裏切るようなまね、するはずないって優しく抱きしめてくれたら、それで済んだ話」

「ほんとかなぁ」


 麻実が証拠も握らずに二股を追及するとは思えないのだが。


「いくら証拠を突き付けられたって、否定し続けないと。浮気された方は、相手が浮気を認めることにも傷つくんだから。少なくとも私はそういう考えで生きてる」

「姉ちゃんも浮気をしたことがあるってことだね」

「だって、人間だもの」


 麻実は一定のリズムを崩さずに足を上げ下げする。「で?イブに花蓮ちゃんとデートする気になった?」


「はぁ?」


 何でそうなる。


「花蓮ちゃん、いい子じゃん。私とはまた違う魅力を持ってるのよ。純粋だし、おしとやかだし、尽くすタイプだと思うなぁ。凛ちゃんにはお似合いだと思うんだよね。おっぱいの大きさが物足りないんなら、そこは私ので満足させてあげるから安心して」

「ばっ、馬鹿か」


 胸の大きさを気にしたことはないし、麻実のものでどうこうなるわけでもない。


「まあまあ。そう、顔を赤くしなさんなって」


 麻実は平気な顔で頭と足の位置を逆にして寝転がって、今度は左足を上げ下げし始める。「花蓮ちゃんは私のお気に入りなんだよね。あんないい子、なかなかいないよ。本当なら私が食べちゃいたいぐらいだけど、花蓮ちゃんはどちらかって言うと私より凛ちゃんに興味があるみたいだから、だったら凛ちゃんとくっつくといいなって単純にそう思うわけよ。花蓮ちゃんが妹だったら、それはそれで可愛いと思うし」


 きっと、自分が不注意でアイスをつけてしまったときに優しく対応してもらったから、そう思うだけなのだ。

 ただ、花蓮の性格の良さは、凛太郎も感じるところはあるから否定はできない。


「姉ちゃんが辛島さんを可愛く思うのは否定しないけど、そんな簡単な話じゃないよ」

「簡単な話よ。花蓮ちゃんに、イブにうちに来ないって訊いたら、頬っぺた真っ赤にして、了解してくれたんだから」

「げっ。そんな勝手に……」

「安心して。私はタイミング見計らってとんずらするから。そういうところ、上手にやる自信あるんで」


 麻実は寝転がったまま敬礼する。


「そういうことじゃないんだって」

「さっきから、ブンブン鳴ってる、それが理由?」


 麻実は凛太郎のスマホを指差す。

 きっと、恭介と歩美がグループLINEでクリスマスパーチーで何をするか盛り上がっているのだ。


「あ、うん。まあ」

「ふーん」


 麻実はベッドに座り、どこか心の中を見透かすような視線で凛太郎を見る。

 そして、ふっと力の抜けた優しい笑顔を浮かべる。「なんか、いいね」


「何が?」

「凛ちゃん、楽しそうなんだよね。最近、表情が豊かになったよ」

「そ、そう?」

「私とも、喋ってくれるようになったし」


 そう言えば、そうだ。まあ、それは麻実が夜這いを仕掛けきたから、ギクシャクしてしまっただけなのだが。


「きょうだいだからね」

「分かった。とりあえず、イブの予定は凛ちゃんの好きにしたらいいよ。花蓮ちゃんには私から上手に言っとくから」

「あ、うん。ごめん」


 勝手に約束をしてしまう麻実が悪いのだが、凛太郎は麻実に謝っていた。

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