第97話 円陣の効果

 結果として修明高校は山田高校に勝った。

 三勝一敗一引き分け。


 他の四局が終わっても、凛太郎のところだけは勝敗が見えなかった。

 互いに玉が相手陣内に入り形勢が混とんとして、ただただ心身が疲れる状態になったところで、事務局の係員に持ち将棋、つまり引き分けを宣告されたのだ。


「お疲れさん。みんな、とりあえず、一旦、外に出よう」


 恭介に促されて、メンバーは小走りに出口に向かった。

 口元がうずうずしている。

 体が広い場所を求めている。

 ロビーを突っ切り、ひかるも合流して、そのまま駐車場へ出る。


「よっしゃー!」


 みんなの気持ちをまとめて吐き出すように反町が両手を突き上げ、空に向かって雄たけびを上げる。


「やった、やったよ」


 歩美が永田さんの胸に飛び込む。

 永田さんも嬉しそうに歩美を抱きしめた。


 恭介が凛太郎に手を差し出す。


 凛太郎は少しの後ろめたさと、溢れる感謝の気持ちでその手を握った。

 みんな、勝ってくれてありがとう。

 次こそは勝って、もっと素直にみんなと喜びを分かち合いたい。


「いける。いけるぞ、俺たち!」


 反町の目は赤々と燃えているようだった。


「あんたは足、引っ張ってたけどね」


 相変わらず、歩美は反町に手厳しい。


「全力でやった結果だろ。そもそも、俺が試合に出ようって言いださなかったら、ここまで来れなかったんだぞ」

「まあ、それは認めてあげるけど」

「だろ。だろ。よっし、次もいっちょ、やってやろうぜ!部長。円陣だ!」

「ひかるちゃんもおいで」


 永田さんが少し離れてまごついていたひかるを手招きする。「ひかるちゃんの応援も、みんなの力になったんだよ」


 ひかるは一瞬、パッと晴れやかな笑顔になって、そして少しずつ表情を歪めた。


「いいんですか?私……。最初は反町先輩が今日の試合に参加するの、邪魔しようとしてたんですけど」

「あれはあれで良かったのよ。私たちがひかるちゃんと出会えたきっかけだもの」


 永田さんの言葉にひかるは泣き笑いになってメンバーの輪に入ってきた。


「ひかるって、こんなに涙もろい子だった?今日、もう二回目だよ」

「歩美ぃ。私、すぐにウルウルしてくるんだよぉ。こんな性格嫌だぁ」

「そんなの気にすることないぞ、檜山。女子の涙は宝石だ」


 反町が反町でなければ言えないことを言う。「さぁ、円陣だ。部長。掛け声、頼む」


 メンバーは円を作った。


 円陣が楽しい。

 メンバーと肩を組んで一つの円を作るだけ。

 それだけで足の裏から力が湧き上がってくる気がする。

 心が燃える。

 一致団結できる感じがある。

 何だか、病みつきになってきた。


 今回は歩美がひかるの手を掴んで永田さんと反町の間に強引に割って入った。

 反町に永田さんに触れさせないつもりなのだろう。

 結果、恭介が永田さんと肩を組むことになって、一瞬、ニヤついた顔を凛太郎に向ける。

 それも良い。

 羨ましい感じもするけど、永田さんの隣はまだ心の準備ができていない。


「えっと、何だ。次、勝てば、予選リーグ突破だって。今の勢いで、夢の決勝トーナメントに行っちゃおう!」

「おう!」


 これだけのこと。

 これだけのことなのに、体が熱くなる。

 勝ちたい。

 このメンバーなら勝てる。

 そんな根拠のない自信がドバドバ溢れてくる。


「修明高校。修明高校、いませんか?」


 係員が入口で大声で呼んでいる。


「はい。ここです!」


 恭介が手を挙げて、駆け寄る。


「試合、始まりますよ。進行表でしっかり確認してください。不戦敗になるところですよ」

「す、すいません!」


 しまった。浮かれ過ぎて、時間を見ていなかった。

 みんなダッシュで会場に飛び込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る