第85話 敵か味方か その2
「歩美はどう思う?」
凛太郎との将棋に勝ったばかりで少し機嫌の良い歩美に、「将棋の道」をペラペラめくっていた恭介が問いかける。
「何がですか?」
「反町のことなんだけど」
「ムッ」
途端に眉間に皺を寄せる歩美。まだ、敵対心を持っているのか。「あいつがどうしたんですか?」
「いや。反町って彼女いるのかなって、こないだたろちゃんと話しててさ。歩美はどう思うかなって」
急に話題に巻き込まれて、凛太郎はゲホゲホとむせた。「童貞か、非童貞か」という直球ではなくて良かったが、反町のことを歩美に訊くなんて、恭介からは聞いていなかった。
「あー。どうなんでしょうね」
途端に歩美の表情から険が消える。
やはり、歩美もこの手の話題は好きなようだ。「まあ、でも、いないかな。いたら、あんなに分かりやすく久美ちゃんにつきまとわないですよね」
なるほどね、と恭介は気のない返事をする。
それは恭介や凛太郎も同意見だから。
「じゃあ、過去はどうだろう?」
「そりゃ、いたでしょ」
歩美はあっさりと答えた。
いないはずがないという口ぶりだ。
「え?やっぱそうかな」
あまりの即答に訊いた恭介がうろたえている。
「だって、イケメンだし、スポーツ万能だし、いなかったらおかしいですよ。あれで、過去に誰とも付き合ったことがなかったら、一体誰が女の子と付き合えるんですか?」
「ま、まあ、そうだよね。でも、歩美はあいつを嫌ってるじゃん。だから、女の子の考え方は俺たちには分からないところもあるから、どうなのかなって」
「私があいつを嫌ってるのは、単に久美ちゃんを狙ってるフシがあるからで、そうでなければ何とも思ってないと思いますよ。って言うか、出会い方次第では好きになっててもおかしくないですし」
何のてらいもなく「好き」とか「嫌い」とか言える歩美はすごい。
単に永田さんを狙っているようだからという理由で人を嫌いになってしまうところも極端すぎて怖いが。
とにかく答えは出たようだ。
反町は過去に誰か女子と付き合ったことがある可能性が極めて高い。
「じゃあ、反町は俺たちの味方じゃないね」
恭介は凛太郎の方を見てボソッと呟いた。
「先輩方は、あいつと敵味方に別れてるんですか?」
「あっ。いや、まあ、敵味方って言うか……」
恭介が急にしどろもどろになる。そんなことになるぐらいなら、最初から反町のことを話題にしなければ良かったのに。「仲間じゃないってことかな」
「こないだ、あいつを部員にしたばかりなのに、急に仲間じゃないとか、ひどくないですか?」
歩美の言い分は至極ごもっともだと凛太郎は思う。
それに、歩美もふりをしているだけで、実は反町のことを嫌っていないのではないだろうか。
「いや。そういう意味での仲間じゃなくてさ」
恭介が助けを求めるような視線を送ってくるが、凛太郎がブルブルと首を横に振ると、諦めたように口を開いた。「威張って言うことじゃないんだけど、俺もたろちゃんも、年齢イコール彼女いない歴なんだよね。それで、反町はどうなのかなと思って」
「そういうことですか」
歩美は、なるほど、という感じで左の掌を右の拳で叩く。「そういう意味では、正真正銘、私はお二人の仲間ですよ」
仲間、仲間、仲間に入れてください、と歩美はニコニコ顔でペコペコと頭を下げた。
「おお。そうか、そうか」
改めてよろしくな、と恭介は歩美と握手をした。
歩美は「これからも、よろしくお願いします」凛太郎に向けて手を伸ばしたので、恭介の真似をして「こちらこそ」とその手を握った。
その儀式で何となくこれまで以上に三人の団結心が深まったような気がした。
逆に、歩美だけ誰かと付き合ったことがあるなどと言いだしたら、歩美との間に隙間風どころではない強い風が吹いていたかもしれない。
「久美ちゃんも仲間だと思うんですけどね、多分」
そう言って試すような目で歩美が凛太郎を見てくる。
「そうなの?たろちゃん」
「な、何で俺に訊くんだよ」
「俺より永田さんについて詳しそうだからさ」
「そんなこと……」
永田さんが「婚前交渉禁止」と言っていたことを思い出して、凛太郎は赤面した。
「どうなんですかぁ?」
歩美がいやらしく笑って覗き込むように見てくるので、凛太郎の顔は余計に赤らんでしまう。
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