第65話 裸にバスタオル

 部活を早めに切り上げての帰りに凛太郎は恭介の家に寄って行くことになった。

 恭介が新しい動画を仕入れたのに、タブレットを学校に持ってくるのを忘れたからだ。

 明日で良いよ、と言う凛太郎に、せっかく良い動画だったから早く観てもらいたい、と恭介が頑ななのだ。


 途中で通り雨に遭って、焦った。

 凛太郎はリュックに折り畳み傘を入れていたから、足元が濡れただけで済んだが、その用意のなかった恭介は悲惨だった。

 はじめのうちは小走りしていたが、途中で完全に諦め、猫背でリュックをお腹で守るように歩いた。

 家に着いた時には恭介の制服は絞れるぐらいにビショビショだった。


 恭介は「勝手に冷蔵庫開けて、何でも好きなの飲んで待ってて」と言い残してシャワーに向かった。


 そんなこと言われても、人様の家の冷蔵庫を一人で物色することなど、凛太郎にはできない。

 ちんまりとソファに座って、スマホで詰め将棋をしながら家主の帰還を待った。


 やがて、浴室のドアが開き、ペタペタと濡れた足でフローリングを歩いてくる音がする。


「これってちょっとセクシーな感じしない?」


 振り返ると、恭介がリビングの入口に立っていた。

 胸元から太ももまでを大きな白いバスタオルで隠すように巻いて。

 右手を後頭部の後ろに、左手を腰に、とモデルのようにポーズを決めている。


「悔しいけど、ちょっとする」


 淡々と言ったけど、本当に悔しい。

 何故だろう。

 ぽっちゃり体形の同級生の男と分かっているのに、白い肌に、中心を隠すようにバスタオルが巻かれているだけで少しドキッとしてしまった。


「でしょ?自然とタオルの上と下の裾のところに目が行っちゃうよね」


 これがオスの性なのか。

 それとも、女性もそこに目が行っちゃうのだろうか。


「残念なことに、太ももが毛むくじゃらだけどね」


 おかげで視線を奪われたのは一瞬だけで済んだ。

 太ももの毛が凛太郎を、頬をはたくようにして正気にさせてくれる。


「剃ってつるつるの時期もあったのになぁ。ほんと、残念なことしたね、たろちゃん」

「残念、って口走ってしまったことが一番残念だわ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る