第40話 麻実の推理 ~深夜の凛太郎の部屋にて
「返してよ」
「良かったぁ」
「何が?」
「凛ちゃんがこういうものに興味を持ってくれてて」
そう言う麻実の瞳が少し潤んでいる。
鼻をすすり「えへっ」と無理に笑う麻実の表情に、姉の苦しみを知った。
彼女もかつての夜這いから始まったわだかまりを苦にしてきたのか。
「いいから、返してよ」
凛太郎が手を差し出すと、麻実は再びタブレットに目を落とし、改めてこちらを見た。
「こういうこと、したいの?」
どうしてこうも答えづらいことを簡単に口にできるのだろう。
麻実の頬が少し上気しているように見えるのも怖い。
凛太郎は、サッとタブレットに手を伸ばした。
が、ひらりとかわされてしまう。
ドタバタして母が起きてきたら最悪だ。
「それ、友達のなんだよ」
「そうだよね。飛島君の?あの子、わざわざこれを渡すために家に来たの?」
麻実が呆れ声で画面を見た瞬間に奇襲してタブレットを掴む。
今回、麻実は争う気はなかったようで、すんなり奪い返すことができた。
即座に動画を停止する。
「何か用?」
「え?ああ。ちょっと、勉強で分からないところがあったから、教えてもらいたかったんだ」
麻実は小脇に挟んでいた数学の教科書を取り出した。「明かりは点いてるみたいだったから……」
「ノックしてないよね?」
「いつもしないでしょ?」
平然と返されて、凛太郎は脱力した。
この場面で今さらノックの必要性をとやかく言っても恥ずかしいだけだ。
「どこが分かんないの?」
そもそも弟に教えてもらうなんておかしいだろ、と思うが、このまま追い返すと明日からまた余計に麻実との会話がぎこちなくなって母親に詮索されることになる。
「おっ。助かるよ」
ここなんだけどね、と麻実は勉強机の上に教科書を広げた。
それは図形の問題だった。
補助線と相似を使って解くテクニックを教科書に沿って説明する。
数学は一足飛びではなく順番に考えていくことが大切だ。
麻実は凛太郎の説明に、ふんふんと頷き、ある程度理解できた様子だった。
どうも麻実は教科書の文章を毛嫌いしているというか、少し難しい言い回しになると最初から諦めてしまう傾向がある。
「ありがと。さすがだね」
「教科書に書いてあることを読んだだけなんだけど」
「そんなことよりさ」
「せっかく教えてあげたのに、そんなことよりって」
麻実が探偵のような、何かを探るような目になる。
「さっきの動画……」
「?」
凛太郎は肩をビクッと震わせた。
「分かりやすく焦らないでよ」
麻実が教科書で口元を隠しながら声をあげて笑う。
「動画が何?」
凛太郎は冷たくあしらった。
「あれって、AVじゃないでしょ。飛島君が撮ったの?」
麻実の指摘で、頭の中のもやもやが晴れた気がした。
アダルトビデオだとするとカメラワークや画質、音質に違和感があるとは気づいていた。
確かに恭介が撮ったものかもしれない。
それを恭介がわざわざ家まで持ってきて、凛太郎に見せたのは何故だろう。
麻実が部屋を出て行っても、もう動画を観る気にはなれず、凛太郎は布団に潜り込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます