第39話 動画視聴 ~深夜の凛太郎の部屋にて
タブレットを操作し、いつもエロ動画が置かれているフォルダにいつものエロ動画の形式ではない動画データを発見した。
これだ。
きっとこれが恭介の変調の理由だ。
そう思うと妙な緊張感で鳥肌が立つが、見ないわけにはいかない。
動画はタイトルも主演女優名も表示されずにいきなり始まった。
リビングっぽい空間で中心にソファがあり、その手前にガラスのローテーブルが映っている。
全体的に薄暗い。
ソファに斜めにかかる日差しの中に伸びる洗濯物か何かの影が微かに揺れていることで、辛うじてこれが静止画でないことが分かる。
その映像の向こうで微かにインターフォンのような音が聞こえた。
やがて一組の男女が現れる。
男性は学生風で、二十歳前後と思われる。
三十歳ぐらいの細身で目鼻立ちの整った女性が男性にソファをすすめ、やがてコーヒーのようなものを運んできたところから、男は客で、女性が家主だということが分かる。
会話の内容ははっきりとは聞き取れない。
集音マイクの位置が遠すぎるのか、性能が悪いのか。
しかし、アダルトビデオというものは概して音質は良くないものが多い。
服を脱いでしまうからピンマイクをつけることができないし、大声でむつみ合っては雰囲気が出ないので仕方ない。
だが、今回の動画は、それにしても、というレベル。
ソファ全体が収まる引きの画像がずっと固定されていることから、動画のテーマは「覗き」と想像される。
やらせ感を消すためにも音質は目をつぶるしかないということか。
男は持ってきたリュックから、白い袋を取り出し、女性に渡す。
女性は驚きまじりの嬉しそうな表情で、その袋を受け取り、中から北海道のお土産で定番のお菓子の箱を取り出した。
袋からさらに何か、肌色のものが落ちた。
女性が拾い上げると、それはその有名なお菓子が裸の状態で……いや、リアルなキーホルダーだった。
女性はそれを見て、少し大げさな感じで笑い、しな垂れかかるように男の肩に自分の半身をもたれさせた。
男は女性を優しく抱き留めたかと思うと、急に覆いかぶさり、唇を重ねる。
女性は一瞬両手で男を押し返すような素振りを見せたが、すぐにその手を男の背に回した。
繰り返すたびに激しくなる接吻。
女の足を割るようにして差し込まれる男の膝。
さらなる刺激に期待するように輝く女の瞳。
男の手が女性のカットソーの中に下から入り込む。
女性は少し体を固くしたが、抵抗することなくそれを受け入れた。
微かに覗く女の腹部の白い肌。
「隠し撮り?」
自分の顔のすぐそばにヌッと顔が出てきて、凛太郎は反射的に「うわぁ」と立ち上がった。
いつの間にか麻実が部屋の中にいた。
呆然と立ち尽くす凛太郎を尻目にタブレットの動画を覗き込んでいる。
凛太郎は必死に言い訳を考えた。
しかし、うまく誤魔化すロジックがどうにも浮かんでこない。
「な、何だよ、いきなり。勝手に入ってこないでよ」
本当はどこかへ逃げ出したい。しかし、一時的に逃げても意味がない、どころか、帰りづらくなるだけだ。
かつて経験のないほどの羞恥心に耐えながら凛太郎にできたのは、少し強がって怒りを込めた言葉をぶつけることだけだった。
麻実は凛太郎の非難など意に介さないようで、真剣な面持ちでタブレットを見つめている。
「これって、そういう系?」
「そういう系って?」
凛太郎は麻実に体をぶつけるようにして手を伸ばし、タブレットの回収を図る。
しかし、すんでのところで麻実がタブレットを掴み上げ、「おっと、危ない」とおどけたように凛太郎に背を向ける。
「マンガの参考になりそう」
前から思っていたが、麻実はいったいどういうマンガを描いているのだろうか。
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