第31話 じゃんけん童貞(その2)
今回の動画のジャンルは「盗撮」だった。
風呂場やトイレに小型カメラを仕込み、主人公の姉の裸の撮影に成功。
エスカレートして姉の部屋にも隠しカメラをセットして、姉の淫らな様子を盗撮。
そして部屋に押し入り、姉を手込めにしてしまうというストーリーだ。
「別にたろちゃんが興奮するかもしれないって理由であれを選んだわけじゃないよ。たまたま可愛いと思った女優さんの動画がああいうストーリーだったってだけで……」
恐る恐るという感じで向いに座った恭介の説明はあまりに弱々しい。「だけど、どうだった?」
結局のところ、凛太郎が何と言うか、好奇心を隠せない様子の恭介。
「僕があれを見て、姉貴に対してムラムラするとか期待してるよね」
「やっぱりムラムラしたの?」
恭介の眼鏡の向こうで欲望丸出しの瞳が怪しく光る。
「ムラムラしてどうすんの。正直、今回の動画は冷めちゃったわ」
きょうだいものであることを序盤で察知すると一気に見る気がなくなった。
借りた手前、早送りでストーリーだけは確認したが。
「何でかなぁ。実際のシチュエーションと近ければ、その分興奮すると思うんだけどな」
「逆だって。現実は姉貴とあんなことにはならないし、なりたいとも思わないから、げんなりするんだって」
そう言ってみた。
昨日から用意していた答えだ。
だけど、現実は麻実と動画の内容のような関係にならないとは言い切れないところがある。
実は凛太郎は麻実に夜這いされた経験がある。
二年前のことだ。
深夜、ふと、眠りから覚めた。
妙な違和感が下半身にあったからだ。
薄く瞼を開いて確認したときに、凛太郎は自分の目を疑った。
姉がペンシルライトで凛太郎の性器を明るく照らし、その質感を確認するように、触れているのだ。
ああ、これは夢だ。
まだ眠っているのだ。
そう思ったが、下半身の感覚があまりにも生々しい。
凛太郎は、自分の置かれている状況が飲み込めないままに、弾かれるように上体を起こして麻実の指を力任せに払いのけた。
「あっ!」
「イテッ」
性器の胴体部分に鋭い痛みが走った。
払いのけた麻実の指の長い爪が性器の皮に食い込んで傷を作ったのだ。
凛太郎は体をひねって麻実に背を向け、股間を手で覆った。
「ご、ごめん。痛かったよね。爪で抉ったような感覚があったんだけど……。大丈夫?血、出てない?手当てしようか?」
麻実は何度も謝り、治療することを申し出たが、パニックの凛太郎が返事をしないままベッドにうずくまっていると、静かに離れて行った。「ごめんね。ほら、私、マンガを描いてるでしょ?それで、どうしても男の人のそれを描写する必要があって、それでね、それで……」
いつまでも顔を起こさない弟に最後にもう一度「ごめんね」と言って、麻実は部屋を出て行った。
麻実がいなくなってから、ズキズキとした痛みがひかない患部を見てみると、やはり一センチぐらいの長さの傷ができて、血が滲み出ていた。
その日は痛みと驚きで、そのまま朝まで寝付けなかった。
あの時以来、麻実とはぎくしゃくしている。
大体、男の人のそれを描写するマンガって、どんなマンガを描いているのか。
麻実のことを嫌っているわけではない。
だけど、麻実にあんなことをされるとはまさに夢にも思っていなかったから、麻実のことが急に良く分からなくなった。
あの時のことを思い出してしまうから、麻実との普通の会話がどうにも落ち着かない。
きっともう二度と普通には戻れないのだと思う。
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