第21話 三丸(その1)
「俺たち、童貞じゃん」
恭介の突然の際どい発言に、凛太郎は椅子ごと後ろにひっくり返りそうになる。
「い、今さら、何の確認?」
「いや、確認って言うか、これからする話題の前置きだよ」
恭介は将棋を指す手を止めて、凛太郎をまじまじと見つめた。「たろちゃん。すごいこと訊いていい?」
「……何?」
顔が引きつる。
はっきり言って怖い。
できれば訊かないでほしいけれど、そう頼んだところで、恭介は絶対に訊いてくる。
「たろちゃんって、セックスしたい?」
「ま、またもや直球だね」
「ごめん、直球過ぎた。……自分でも恥ずかしい」
言い出した恭介が目の前で思いっきり照れるので、凛太郎の心に少し余裕ができる。
いくら二人きりの童貞ミーティングでも口にするのが難しい言葉はある。
「エス、イー、エックスのアルファベット三文字が持つ言葉の力って強すぎるよね」
かつて月曜日午後九時のテレビドラマで美人女優の口からこの言葉が発せられたことがあったらしいが、当時の日本国民はよくその衝撃波を受け止めきれたたものだと思う。
実際に何人かは心臓が止まって救急搬送されたのではないだろうか。
自分が母や姉とそれを見ていたとしたら、泡を吹いて気を失ってしまっただろうと凛太郎は思う。
「そう、それ。だけど俺たちのミーティングにあの三文字は必要不可欠なんだよね。あれを中心にミーティングは成り立っていると言っても過言ではないわけで……」
恭介は顎に手を当てて考える仕草を見せる。「俺たちはあれを三丸と呼ぶってのはどうかな?」
「三丸?」
「あの三文字ってさ、マンガでは、よく、〇〇〇ってぼかされるじゃん」
「恭介君はあの三文字が出てくるマンガをよく見るんだね」
「そういう鋭い指摘はやめたまえ」
恭介は一つ咳払いをする。「三つの丸だから三丸。どう?」
「エッチ関係の言葉で三文字のものって他にもあると思うけど」
「ふーん。例えば、どんな?」
恭介は少しとぼけたにやけ顔で問いかけてきた。
こいつ、と思った。
凛太郎の頭にはあれこれ浮かんでいたが、深みにはまりそうなので撤退することにした。
「いや。私の思い違いでした。三丸で特に問題ないです」
じゃあ決定ってことで、と言って恭介は姿勢を正す。
「では、改めて、凛太郎さんは三丸をしたいか、したくないかと訊かれれば?」
「……したい、のかなぁ」
「じゃあ、少しか、かなりかと訊かれれば?」
「前もこんなやり取りあったような……」
凛太郎の指摘に恭介が恥ずかしそうに頭を掻く。
「実はさ……俺は、少し、なんだよね」
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