第15話 3P(その3)

「えー!小泉さん!えー!そこかぁ」

 悪くないなぁ、と言いながら、恭介は少し朱に染めた丸い頬を両手で包む。「でも、さすがに高嶺の花過ぎるな。恐れ多いわ」


「そういう人を攻めるのがいいんじゃなかった?」


 そうやって恭介をいじめてみる。


「そうだけどさぁ……」


 恭介の先ほどまでの威勢はどこかへ行ってしまった。

 だけど、恭介が言うように、小泉さんを相手にするのは、想像するだけで立つものも立たないほど委縮する。


「じゃあ、永田さんとか」


 小泉さんと永田さんはクラスのツートップだ。

 小泉さんは少し冷たい感じのする美形で、永田さんは柔らかい空気を纏った可愛い系。

 そして、いつも愛らしい笑顔を振りまいていて、誰にでも分け隔てなく接してくれる。

 永田さんこそ恭介と凛太郎のアイドルなのだ。

 しかも巨乳。

 体育の時間に体操服をゆさゆさと揺らす永田さんの胸に視線を奪われない男子はいない。


「永田さんね!いや、でもそこはそういう対象には見ちゃいけない気がするわ」


 そのとおり。

 永田さんとそういう関係になったら、自分たちのアイドルがいなくなってしまう。

 アイドルはやはり神聖で汚してはいけない存在なのだ。


「となると、……」

 もう次の候補は出てこない。

 地味な凛太郎が言うのも何だが、二人以外の女子は名前も思い出せないぐらいに印象が薄い。「遠藤さんとか」


「遠藤さん?遠藤さんって、……あの遠藤さん?」


 遠藤歩美。

 凛太郎たちが勧誘活動をほとんどしなかったのに、自分で将棋部の部室を探し出して、「こちら、将棋部ですか?」と物怖じすることなく入り込んできた今年唯一の一年生新入部員。

 髪は小学生男児のように首筋が刈上げ気味で短く、眼鏡をかけていて、ぱっちり大きな目をしている。

 華奢な体格で手足が長く、リスザルに似ている。


「もう他に思いつかない」


「にしても、遠藤さんはないでしょ。女性、じゃなくて、まだ女児って感じじゃん。いや、どっちかって言うと少年だな。立つものも立たないって」


 恭介が自分のことを棚に上げて、女子の容姿を批評する。


「何て失礼な」

 言いながらも凛太郎も同感で笑ってしまう。「でも、何て言って3Pに持ち込むの?」


「お、お、俺たちと3Pしませんかって」


「まさか」


「だよね。いきなりそんなこと言ったら、警察に通報されそう」


「じゃあ、何となく自然な感じで?」


「そういう雰囲気を作り出すってこと?」


 できるわけない、と二人同時に言って、手を叩いて爆笑する。

 その時、部室のドアがノックされ、恭介が慌ててタブレットを鞄に仕舞う。


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