第14話 3P(その2)

「え?」


 凛太郎は思わず顔を上げて恭介を見た。

 凛太郎には3Pどころか、童貞を捨てることさえ思いもよらない。

 恭介だって初体験どころか、キスすらしたことがないはずだ。

 まずは普通に女性と二人きりで親密に会話するにはどうすれば良いか、から考えるべきではないか。

 3Pは高い山々の連なりのその遥か向こう側に霞んでいる。


「3Pって、してみたくない?」


 盤面から顔を起こさないまま会話を続けるときの恭介は本気だ。


「いや、でも、現実問題として……」


 凛太郎と恭介は彼女いない歴が年齢と一緒というパターン。

 一生童貞で終えるかもしれないと半ば諦めている二人がいきなり3Pをどうこう言うなんて……。


「またそういうこと言う。そういう冷静な意見はいらないんだよ。このミーティングでは現実は横に置いとこうって言ってるじゃん。そうじゃないと全国の高校生の底辺にいる俺たちなんか、妄想でも女子と手をつなぐこともできないよ」


 盤面を睨み続ける恭介の頭頂部を見ながら、恭介がそう言うなら、と思った。


「それならまず、編成を決めないと」


「編成?」


「3Pってことは三人でってことでしょ。だから恭介君以外の二人の性別を決めないと。この動画と同じなら女子1ともう一人の男子。だけど、恭介君と女子2っていうのも3Pだよね」


「あー。そっか」

 漸く恭介が顔を起こして腕組みをする。「俺が一人で女子二人を相手にするってのもありえるのかぁ」


 にたにた笑うのかと思ったら、恭介は深刻そうな顔で「無理、無理」と首を横に振った。


「どうして?」


「だって、たろちゃん。一人で女の子二人を相手にすることなんてできる?そりゃ、おっぱいとおっぱいに挟まれたい気持ちはあるけどさ、実際、俺、女の子一人でさえ満足させられる自信ないもん」


 凛太郎は冷めた目で恭介を見た。


「現実なんてどうでもいいんでしょ?」


「あ、そうだった」


 恥ずかしそうに頭を掻く恭介。


「でも、僕も女子二人は無理」


「でしょ?やっぱ、男二人で一人の女子を攻める方が気楽な気がする」


「じゃあ、男二人だとして、誰を相棒に選ぶかってのも重要じゃない?」


 知っている人間だと、後々も、あの時あいつはこうだったって言われる可能性がある。

 だとすると、全然知らない人の方が、後腐れがなくて楽なのかもしれない。


 凛太郎が提案した赤の他人説に恭介が考え込む。

 そして、「いや、しかし」と作戦の岐路に立たされた司令官のように重々しく口を開く。 


「やっぱ、無理だ。全然知らない人と3Pなんて、俺、委縮しちゃうよ」


 知っている人とでも委縮するだろうとは思ったが、凛太郎はそうは言わなかった。


 恭介が助けを求めるような目で凛太郎を見てくる。


「え?僕と?」


「うん。結局、たろちゃん以外とは考えられないな」


 そんな風に頼られると、胸を反らせたくなるけれど、女の子と喋るだけで心臓が止まりそうになる情けない性格はなかなか治りそうにない。

 だけど、とりあえず今はそんなことは思考の埒外に置いておく。

 恭介と二人で一人の女子と絡み合う。

 想像するだけで、少し息が上がってきた。


「女子はどうする?そっちも知ってる人?」


「あー、誰が良いかなぁ。知らない人だと想像が膨らまないから、知ってる人で考えてみようかな。たろちゃんは誰が良い?」


 うーん、と唸ってみるが、選択肢は少ない。


 先日、二年生になってクラス替えがありクラスメイトの女子とはまだ挨拶もろくにしたことがない。

 一年生の時もたいていの女子と挨拶もしないまま三学期が終わってしまったのだが。

 幸か不幸か、凛太郎と恭介は引き続き同じクラスになった。


「小泉さんは?」


 試しにクラスで一番の美人の名前をぶつけてみる。

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