第12話 胸のふくらみ(その2)

 恭介が落ちた箱を拾い、「はい」と凛太郎に向かって差し出す。


「たろちゃんもやってみて」


「えー」


 凛太郎は自分の胸の前で両の掌を広げて「無理、無理」と拒否する。


「いいからやってみて。触られると変な感じがするんだって。思わず声が出ちゃいそうになるよ。女子の気持ちが分かる」


「出ちゃいそう、じゃなくて、実際、出ちゃってたけど」


「また、鋭い突っ込みだな。とにかくやってみ」


「変な感じなら、なおさらやめとくよ」


「そんなぁ。俺にだけやらせといて、それはないよ、たろちゃん」


「やらせといてって、勝手にやったんじゃん」


「でも、楽しんだわけでしょ。私の体を弄んで、楽しかったんでしょ」


 恭介は腕を自分の胸の前で交差させ、胸を隠すような仕草をする。

 全然、可愛くない。


「恭介君が弄ばせたんでしょ」


「ねぇ、たろちゃん。俺も触ってみたいんだよ。頼むよ。もう誰の胸でもいいんだ。とにかく胸のふくらみを触ってみたいんだよ」


「だいぶ、きてるね……」


 凛太郎は苦笑いをひきつらせた。


「これでたろちゃんがやってくれなかったら、俺、口が滑ってあのときここで見たことを誰かに言っちゃいそうだ」


 またそれを持ち出すのか。


「そうやって脅せば何でも言うことを聞くと思ったら大間違いだよ」


 ぶすっと憤慨した顔を見せると恭介は「ごめん、ごめん」と謝ったが、だからと言って全く諦める様子はない。


「たろちゃんも、今、この場の勢いでやっておいた方がいいって。今じゃないと、こんなこと二度とやれないよ」


 二度とやれなくても構わない。

 しかし、あまりに恭介がくどいので仕方なく制服の下、胸のあたりに箱を二つ差し込む。

 すると胸元に見たことのない光景が現れた。

 角張ってはいるが、間違いなくふくらんでいて、足元が少し見えにくくなった。


「ほんとだ。何だか不思議な感じ。……ちょっと恥ずかしい」


「それじゃ、お約束の……」


 恭介が掌を見せて近づいてくる。


 それを見ると、何となく怖い感じがして、後ずさりしてしまう。


「ちょっと、目が怖いよ」


「フハハ。大人しく触らせろ」


 壁際に追い詰められ、舌なめずりする恭介に胸のふくらみを鷲掴みされる。

 触られているのは自分の胸ではなく、駒の箱なのだが、恥ずかしくて、どういう顔をして良いのか分からなくなる。


 しかし、恭介も複雑な表情をして手を下ろした。


「たろちゃん」


「ん?」


「分かってたこととは言え、やっぱ、胸は柔らかくないとね」


「でしょ」

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