第9話 エロ動画(その2)

 そこは嘘をつけない。

 他の同級生はどうか分からないが、凛太郎はこれまでまともに一本通してアダルトビデオを観たことがなかった。

 従って、この種の動画に対する免疫が欠けていたのは否定できない。

 画面の中のあられもない姿に興奮して何枚ティッシュを使ったことか。

 おかげで今日は寝不足だ。


「だよね。あれ、俺の一番好きな女優さんなんだよ。かわいいし、スタイルいいし、お芝居も上手でさ。相手の男優の見た目が生徒って言うよりは生徒の父親って感じで、そこは違和感あったけど、でも、あんな風にきれいな先生に言い寄られたら、たまんないよ」


 恭介がいつもは線のように細い目を大きく開き、口から唾を飛ばして熱く語る。

 全てをさらけ出して、真剣にぶつかってきているのが凛太郎には分かる。

 内容はエロだけど、まるで弾圧を受けている庶民が命をかけて群衆に演説を打つような必死さだ。


 それで凛太郎も心のたがが外れた感じがした。

 気づけば言葉が勝手にあふれていた。


「か、顔はもう少し大人しい感じの優しそうな人が好きなんだけど、あの胸の柔らかさは、たまらなかった。しっかり腰がくびれてて、体のラインが綺麗って言うか。僕、全然女優さんのこと知らないけど、あんなに魅力的なスタイルの人って初めて見たよ」


 恭介は凛太郎が乗ってきたところで、さらにボルテージを上げる。


「そうそう。あの体は芸術品だよ。きっとすごく手入れしてると思うんだ。あのおっぱい、あんなに大きいのに、作りもんじゃないんだぜ。いや、作り物が悪いってことじゃない。それはそれで美しいわけだけど、特に仰向けになったとき、おっぱいが重力を無視してお椀の形をキープしちゃうっていうところでは不自然さは否めない。でもあの女優さんのは重力に負けて、少したわむんだ。だけど、弾力はしっかり残ってて、その柔らかさ加減が芸術と言ってもいいぐらいなんだよ。限られた人だけが限られた期間だけ与えられる神様からの贈り物。ありがたいことに、それを彼女は惜しげもなく披露してくれる。まるで神様のご託宣を受けて、貧しい民衆に施しを分け与えるように」

 ああ、神よ、と恭介は両手を組んで天井を見上げた。「まあ、あんなきれいな先生、うちにはいないけどね」


 あの時の二人の間に生まれた熱量を凛太郎は忘れられない。

 生身を知らない童貞だからこそ、より真剣にAVを楽しもうって、極力声を潜めて熱く言い合った。


「でもさ、高校生がAVをダウンロードして良いの?」


 凛太郎はそれだけが気になっていた。


「そんな細かいこと、気にしなさんなって」


「そういうもんかな」


「そうそう。そういうもの。AVなんか、きっとうちのクラスのほとんどがエロサイトとか、友達から借りたDVDとかで観たことあるんだよ」


「え?マジ?」


「マジ、マジ。しかも、女子も含めてだよ」


「えぇっ?女子も?どうやって調べたの?」


 凛太郎は落雷にあったような衝撃で思わず声が大きくなる。

 クラスの女子のほとんどがAVを観たことがあるなんて、まさに青天の霹靂へきれきだ。


「ネットだよ。ネット。エロ動画をダウンロードするのもネットなら、女子がAVを観たことがあるかどうかの調査結果もネット。今は知りたいことは全てネットが教えてくれる時代だよ」


「そっかぁ。そのうちネットで童貞捨てられるかもね」


 凛太郎がウキウキして言うと、急に恭介が冷静な顔になる。


「それって、どういうこと?」


「ごめん。自分でも分かんない」

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